第23話 指定防衛団隊長

 吹き出す蒸気でポケットを、 べちゃべちゃにしている万有を見て、吹雪は全裸のまま部屋を飛び出し、自分の部屋に戻った吹雪は、壁越しに万有に声をかけてみた。


「おーい。 万有聞こえてる。」

「うん。吹雪聞こえてるよ。」

まともな返事が帰ってきた。

薄い壁ではないが、大きな声は部屋ごしに聞こえることを、吹雪は しっかりと確認した。


「あのね。屋上を紹介するのを忘れていたわ。鍵が開いているから、今のうちに見ておいたら。」

「分かった 行ってくるよ。」

万有は、もうこのまま眠ってしまいたいと思っていたが、身をもって助けてくれた吹雪の言うことを素直に聞いた。


屋上に上がってみると、そこは 屋上庭園になっていて、小さいが、芝生と木が植えられており 、ベンチもあったので休憩を取るのにいい場所だった。


しかし、そこにおかしな物が目に入った。

大きいテントが張っていたのだ。

その中から何か嫌な予感がするものがいるような気がした。

本能的に万有は早く逃げようとしたが、 それより早く、中からあいつが出てきた。

イカれた金髪野郎だ。


「やあ、引立万有君。君の実力は見せてもらったよ。我の名前は大山朝夫おおやまあさお。本当に素晴らしかったよ。 腕の角度、腰の曲げ方、頭の付け方。素晴らしい土下座だった。今度、我にも教えて欲しい。」

この金髪野郎は、嫌味ではなく本心からそう言っていた。


「突然襲ってきたやつに、長年鍛錬した土下座を教えるわけがないだろ。一体お前は何者だ。」


「すまない。 紹介していなかったね。我は大阪府指定防衛団 星組隊長。そして、4月からは君と同じ大稲大学1年生だ。ここは素晴らしい、学校へ通うのにとても便利だ。今日から勝手に、ここで住まわせてもらうよ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーー


同じ時刻、大阪北都指定防衛団 花組隊長の牙虫忠臣がむしただおみは、大きな鏡の前に立っていた。


中学校の詰め襟制服を着た14歳の少年だ。色白で少年期の中性的な美しさを持った子供だった。


「彼は見込みのある男だったかい?」と鏡の前の自分に向かって問いかけた。


鏡にじっと自分の姿を映して、独り言をまだ続けていた。しかし、彼は自分の姿に見惚れていたわけではない。


彼は大きく口を開け、左手で下顎を持ち、右手をノドの奥へ深く突っ込み、何かをつかんで引きずり出した。


それは人間の頭だった。

天王寺駅で剛怪に襲われていたところを万有が助けた少女だ。


そのまま、ずるずると引きずり出していき、ゴム長靴を裏返すかのように、ズルリと裏返ってあの小さな少女の上半身が出てきていた。


少女は、まだ喉の奥にしまわれているスカートを引き出した。完全にあの時の少女の姿が、そこには存在していた。その腰には、ゴムマスクの口を大きく引き伸ばしたように、伸び切った少年の顔が隠れていた。


「ステキ、ステキ。

とっさの判断で、自分の体で人をかばえるなんて。自分の命を無駄にせず、一番有効な方法が取れていた。

あれなら、団員の命を無駄にするような指示はしないはず。」


そう言って自分の頭を押し込んで、元の少年の姿に戻って言った。


「そうか。彼らとは大阪の覇権を争いながらも、防衛団として協力していかないといけない。なかなかに、やりがいがあるよ。」

少年はニッコリと、ほほ笑んだ。





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