第21話 スマホを受け取る

店の中では、マスターの天川がカウンターで料理の仕込みを終え、一息ついていた。


「お帰りなさい〜。えらく時間がかかりましたね。いつ引立さんが私の好物、くるみ餅を買って来てくれるか、お茶を入れて首を長くして待ってたんですよ〜。」


「あー 。そこまで行動が読まれてたんですね。」

明らかに天川の方が上だった。万有は素直に自分の負けを認めた。


「家具は据え置きです。届いた引立さんの荷物は部屋に入れておいてもらいました。倉庫に入れておいた布団は吹雪さんが部屋まで持って行ってあげて下さい。」


「はーい。」言うなり吹雪は倉庫にある梱包された布団を片手の平に軽く乗せて戻ってきた。


重力低下の能力を見て、どうゆうものか想像がついていた万有は驚かなかった。


「引立さんの部屋のドアは鍵がついてません。

お父様から、息子は一度寝たら簡単には起きない。非常招集時に内鍵をかけていたら対応できないので付けないようにして叩き起こすようにアドバイスを受けました。よろしいですね。」


「ええ、もちろんです。仕事内容はだいたい想像がつきますし。俺は男ですから寝てる間に、襲ってくる人間なんていませんし。」万有はこころよく答えた。


『はーい。ここにいまーす。』

吹雪は心の中で元気に答えた。


「柊さん、そのまま、その布団を引立さんの部屋に持って入って、開梱して敷いておいてあげてください。

今日は銭湯から帰ってすぐにでも眠りたいでしょうからね。」


「最後に、引立万有さん。とても大事な御願いがあります。私はプライベートに一切口出ししません。天川ビルはアベノ橋特区の無法地帯。

部屋で何をしても構いませんが、特定の団員と恋愛関係になるのだけは絶対禁止です。」

天川はこの時だけ真面目にピシリと釘を刺すような調子で言った。


「それは当然です。指揮担当の隊長の俺が、特定の団員に特別な感情を持ってはなりません。

言い方は悪いですが、将棋の駒のように団員を動かせませんからね。平等指示を心がけます。

どうか安心してください。 心を鉄のように冷酷にして、ロボットのように動きますから。」

万有は胸を張って堂々と答えた。


「万有さんは、その間にスマホの操作方法を確認しておいてください。」

天川は万有に大きな箱を渡した。


万有は言われた通りに、スマホセットが入った箱をもって部屋に戻った。


部屋では吹雪が、せっせと準備していてくれた。


「荷物も開けていい。」

「ありがとう。見られて困るものは、家においてきたから問題ないよ。」

吹雪は本当に優しくて気のきく、とてもいい子だ。ありがたい。


渡された箱は大きく、 ずっしりと重かった。

箱の蓋を開けてからの万有は、スマホの事でまたもや、脳がフル回転しだす。周りで何が起ころうと、全く気にならなくなった。


『うっひょー。2回目のフィーバータイム来たー。今日は、つきまくってる。

普通の女なら恋愛禁止で泣き叫んでるでしょうね。

でも私は違う。何十億年地球にストーカー行為をしてきたと思っているの。

万有の体を好きにできるなら、愛などいらぬ!!』

さっきの事で充分に万有の特徴を理解している吹雪は心のなかで、ガッツポーズをした。


普通の女性なら、ほったらかしにされて腹を立てるが、吹雪にとっては、大好きな万有の部屋で好き放題できるチャンスタイムが到来したのだ。さっきと違って人目はない。


とりあえず全裸になってみた。

万有の前に立ったが、脅威の集中力で全く見えていない。


「おーい。聞こえてる。」大声で叫んだ。

返事は「ハイ ゴシュジンサマ」だった。


ウサギは頭を出し、しきりに頭を震わせる。

新しい 縄張りにマーキングをしたいのだ。

吹雪はそれをよく知っている。

ウサギは、吹雪の部屋の物にも、 全てマーキングしている。

吹雪の部屋はウサギの縄張りだった。


早速、箱を開けて、筆箱や本や服などに片っ端からマーキングさせてやった。

どんどんと万有の持ち物は、ウサギのフェロモンを、なすりつけられていき、部屋はウサギフェロモンでムンムンになっている。


それが終わると、布団を引き、とりあえず全裸で寝てみた。


最初は恐る恐る、うさぎを可愛がっていたが、万有は全く気にしていない様子だった。


両膝を立てて激しく、うさぎを可愛がってみた。


ウサギは嬉しさのあまり、胃袋から空気を吐き出し「ブーブー」と鳴いている。


だらだらと、よだれを吐き出し、敷布団に染み込んでいく。


充分にによだれが、染み込んだのを見て吹雪は敷布団をひっくり返し、全裸で寝っ転がり、掛け布団をかけ、今度は吹雪自身が布団の中で体をこすりつけ吹雪自身のマーキングを完了させた。


さすがにこのチャンスタイムは1回だけだった。その後は、このルーチンワークを、万有が銭湯に健康サンダルを履いて、ペタペタと向かうのを見計らって行うことになる。


万有は知らず知らずに、部屋にいる間ずっとウサギと吹雪の二人が放つ、フェロモンを吸い込み調教されていくことになる。


ウサギと吹雪に好き放題されても、何の疑問も抱かなくなるまでに調教されていくのだ。


万有は隣にある建設工事中の空き地から、未確認飛行物体UFOが上空へ向けて、飛び立って行ったのにも、もちろん気づいていなかった。









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