第11話 施設紹介

 「はーい。」大きな声で 吹雪 が返事をする。

ドアがガチャッと開いた。


 「すいませんね〜。本当は私が案内するつもりだったんですが。なぜか、胃がキリキリ痛むもので。

柊さん。私の代わりによろしくお願いします。終わったら彼を甘味屋に連れて行ってあげてください。

あーそうだ。ついで、最中もなかでも買ってきてくれませんか。和歌山名物の柚もなかが、食べられるって期待してたんですけどね。本当に残念です。

柊さん、精算は、あとでさせてください。」

天川は土産も持たず、万有が来たことにチクリと嫌味を言ってみたが、どこ吹く風で全く気にもならない様子の万有だった。


 『さすがだな。人の上に立つだけの事は有る。目の前で、お金のやり取りを見せては下品だから、さらりと後で精算するようにしたのだな。』

万有は余計なことに頭が回っていた。


 元気な声で吹雪 が答える。「もちろんです。施設を紹介したら行ってきます。じゃあ万有、私と一緒に行こっ。」


 二人は店の横の階段を登って行った。


 階段を上りながら吹雪は言った。

 「天川さんて本当に甘いものが大好きなんだよ。まるで子供みたいだね。

ごめんね。実は私も団員なんだ。万有が入団するまで黙っているように言われてたんだ。

でも嬉しいよ。私と同じ大学で、同じ学年の人が雪組の団長だなんて。4月からは、いつでもずっと一緒だね。」


 万有は、立て続けに驚くような真実を伝えられ、あたふたして何も言えなかった。


 2階は共同施設だった。


 「2階は、談話室も兼ねた食堂と、女性用の風呂になります。ここは、部屋に風呂がないんだ。

霊力を使えるのは基本的に女性だから。男性が入団することを考えていなかったみたい。

万有は銭湯に行かなくちゃいけないね。

残念。本当に残念。何で混浴にしてくれなかったのかな。それなら私と万有で洗いっこできたのに。」

口調は冗談めかしだが、吹雪の目の奥が真剣だった事には、あたふたしている万有は気づけなかった。


 3階は居住用として3部屋あった。5階まで同じ構造だった。


 「3階は、端の店側が私、奥が師匠の部屋。真ん中が万有の部屋だよ。お隣さんだね。私ってドジだから、よく鍵をかけ忘れるんだ。私が寝てる時に入ってきちゃ絶対ダメだよ。私の部屋から変な物音がしても、たまたま偶然に鍵がかかっていないからって、入ってきちゃだめなんだから。絶対だからね。」


 やっと少し落ち着きを取り戻し、あたふた状態から抜け出した万有は言った。

 「当たり前です 。さすがの俺でも、そんな失礼なことはしません。少しだけですが俺にだって常識はあります。同じ団員の人に、おかしな感情を持ったりしません。やっても風呂をのぞくぐらいです。女性の裸を見るのは大好きですが、触りたいと思ったことはありません。どうか安心してください。」


 さっきまでの元気な様子とは違い、下を向いて吹雪はボソッと小さく、つぶやいた。「ああ、なんだそうなんだ。」


『またオレ何かやっちゃいました?』と万有は思った。


 すぐに元気を取り戻し吹雪は明るく言った。「もう一人団員がいるんだけど、外に出かけてるみたい。師匠は漫画に夢中になっているみたいだから、甘いものは二人で食べに行こっ。」






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