第8話「明日、もし晴れたら」

 数日前、少し歩いたところに黄色い花が咲いてるのを見つけた。故郷に咲く花はこれと同じかと尋ねているのを、ミサは聞いていたらしい。一緒に見に行きたいと言われ、じゃあ明日行こうかと話したのが昨日。


 そして、今日。


「わーお。大雨」


 窓の外を眺めて、アルコルは深い青色の目を細めた。

 何もここまでしなくても、と思うくらいの大雨だ。大粒の雫が窓を叩き、外は灰色に煙っている。


「ミサ、今日はやめとこうよ。また今度晴れたらにしよう」

「……やだ。昨日行くって言ってた」

「……うーん。それはそうだけど」


 ミサにごねられ、どうしたものかと首を捻る。

 雨は好きではない。雨音で感覚が鈍り、水を吸い肌に張り付いた衣服で動きが悪くなる。ほんのわずかな遅れが命取りになる。──魔法を使えない自分にとっては、なおさら。

 ここは諦めてもらおうと口を開きかけたとき。


「お弁当、作ったもん……。ぱぱとお出かけ、楽しみだったのに……」


 自分と同じ、深い青色の目を潤ませてそう言われ──アルコルは深く息を吐いた。


「行こっか、ミサ」

「え。──いいの?」

「いいよ。お弁当作ったんだろう? おれにも食べさせてよ」

「いいの? 本当にいいの? 晴れた日じゃなくていいの?」

「晴れたらまた行けばいい。でも約束。おれの側から離れたらだめだよ?」

「うん、約束! えへへ、ぱぱ大好き!」




出演:「ライラプス王国記」より アルコル、ミサ

20240801.No.9.「明日、もし晴れたら」

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