第28話 制約と護り

「あっ、先輩からのメッセージ! ご希望の品について、審議の結果が出たようです。」

この世界での運動に関する品を取り扱う店で、ひいかが目を輝かせる中、振動の音が響くと共に、クサカベが手の中の道具を操作する。


「ヒカさんが希望されていた、運動用の衣服上下については、この場で購入させていただきます。

 ただ、他の品もご希望であれば、お帰りになられてから賢者さんと要相談ということで・・・あっ! もうご存知かとは思いますが、向こうの方々には、基本的に見せないでくださいね。」


「ええ、良かったわ・・・! 私達の世界で広めないとかの話は、事前に聞いているから大丈夫よ。お金なら、私費で出せる限りは出すのだけどね。」

「ひ、い、か・・・? 交渉できればいくらでも出すとか、言わないわよね。」


「ええ、分かってるわよ。国の予算には手を付けないわ。」

「当たり前でしょう! 馬鹿なの!?」


「もう、冗談だってば。いくら私でも、そこまではしないわよ。私費としても、度を越えた額は出さないわ。」

「昨日『賢者』にも怒られてたけど、悪い冗談は止めなさいよね。」

「はーい、悪かったわよ。気を付けるわ。」


「あ、あはは・・・この世界でも、国や所属する組織のお金を勝手に使って捕まる人の話、たまに聞きますので、なんだか親近感を覚えてしまいますね。」

「あら、そこは世界が違っても同じなのね。」

「ここは平和そうに見えるけれど、やっぱりどこにでも、そういう人はいるものね・・・」

・・・ひいかは女王様だから、そういうことを一番してはいけない人なのだけど。



「でも、そうよね。『城塞都市の大粛清』みたいなことが、私達の周りで起きないように、気を付けないと。」

私の考えていることを読んだように、ひいかが口にする。いや、でもそれは・・・


「摘発する側を裏から支援していた人が、何を他人事のように言っているのかしら。」

「あら、主にやってたのは『指揮者』でしょう? ただ、私の親族も含めて干渉しようとする勢力なんて、壊滅したほうが良いと思ったくらいよ。」

「まあ、意見が八人とも一致していたのは、確かだけどね。」


「よし、わたしはなにもきいてない、わたしはなにひとつきいていない・・・」

クサカベが何やらつぶやいているけれど、触れないであげたほうが良さそうだ。



「買い物といえば・・・一番の問題は、私達のところのお金や物を、こちらの世界のお金に換えるのが難しいことだったかしら。」

「は、はい。今のように審議が入るのも、主な理由はそれですね。」

話題を切り替えたひいかに、クサカベも気を取り直した様子で答え始める。


「交流がある、一部の国のお金などは、交換できる仕組みもあるのですが、異世界の・・・となればもちろん無理ですし、

 高価そうな品をいただいて売るようなやり方も、出所を聞かれたりすると困るので、やりにくいんですよね。」

「それもそうよね・・・あなた達を危険に晒してまで、この世界のものを買おうとは思わないわ。旅だけでも十分に楽しめているのだから。」

「あ、ありがとうございます・・・!」


「もしも、この旅の影響で、あなた達が被害を受けるようなことがあったら、いつでも呼びなさい。原因を消し飛ばしに行くから。」

「気持ちはすごく嬉しいですけど、実行したら大変なことになるやつ・・・!」


「まあ、その辺りは『賢者』のほうが得意でしょうから、ひいかが何かすることではないわよ。」

「あっ、噂をすれば、賢者さんからの言伝だそうです・・・『そんな時は私達の魔法で、表向きは穏便に済ませますので、大丈夫ですよ。』・・・これでも微妙に恐いと思うのは、私だけですか?」

可能性が高いのは、その相手が少し長めに眠ったり、記憶が一定期間空白になる程度だと思うけれど・・・不安そうにつぶやくクサカベは、とても優しい子のようだ。

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