第18話 旅の夜に

「明日の天気も晴れ、そして今日と同じくらい暑いというのは分かったわ。」

「はい。外へ出るのでしたら、また賢者さんにお願いしたほうが良いですよね。」


「そうね・・・一度は実際の暑さも体験してみようと思うけど、耐えきれないほどなら必要だわ。」

うん、ひいかなら試してみようとするわよね。私も巻き添えになるのは確定だけれど・・・


「ちなみに、ここで生まれ育った私達に対しても、暑さには十分気を付けるようにと、国から御触れが出るような状況です。」

「それは駄目なやつじゃない・・・!?」


「もちろん、お仕事で外に出なければいけない人達はたくさんいるので、長い間日射しの下にいないとか、水分や塩分を補給するとか、対策が推奨されていますね。」

「そういえば、私達がこちらに着いたばかりの時にも、ひどく暑そうな人達を見かけたわね。」

普段からここに住んでいる人達にとっても、今は辛い時期のようだ。異世界の存在を知るクサカベ達が、夏に休みの期間があるため、私達の旅に都合の良い時期と聞いてはいるけれど。


「あっ・・・賢者さんからの言伝です。『何か私に言うことはありませんか?』と。」

「いや、分かってはいたけど、顔が見えないから伝える機会が無かったのよ・・・さっきは変な冗談言って悪かったわ・・・!」


「『貴女のことですし、悪意がないのは分かりますが、冗談では済まないこともあるので気を付けてくださいね。は受け入れますが、向こうに戻ったら二人にも伝えることをお勧めします。』とのことです。」

「あっ・・・これはまずいわ。」

「ひいかの自業自得だけど、その通りね。」


「な、何か向こうであるんですか?」

「いや、謝罪自体は受け入れてもらえるけど、うち一人からしばらくの間、冷たい目で見られるから・・・地味に心に来るのよね。」

「それが分かっている時点で、初めてのことではないのだけどね。」

「あ、あはは・・・皆さん仲が良いのですね。」


「あっ、賢者さんからまた・・・『ところで、寝間着に少々があったようですが、別のものを送りますか?』と。」

「・・・・・・いえ、このままでいいわよ。」

「はあ・・・そう言うと思ったわ。」

「『それでは、私達も休みますので、急ぎの連絡などあれば魔力を込めて壁を軽く叩いてください。』とのことです。」


「・・・軽く、でいいのよね?」

「ひいかの『軽く』なら十分だと思うわよ。」

「い、家を壊さないでくださいね・・・?」

クサカベの表情が引きつっているけれど、賢者の魔力が護るだろうし、私も間に合えば静止するから、少しくらいは安心してほしい。




「ふふ、すっごく可愛いわ、みいか!」

そうして私達の寝室・・・元はこの家の空き部屋を綺麗にしたらしいけれど、案内されて着替えたのは、もちろんあの寝間着だ。


「いや、自分も同じものを着ていることは、忘れたわけじゃないわよね。」

「うっ・・・ちょっと恥ずかしいけど、一緒ならいいのよ!」

うん、開き直ったな、これは・・・


「ねえ、みいか。くるっと回ってみて!」

「ひいかもやるならね。」


「・・・よし、私が先にやる!」

「はあ・・・? ちょっと、何なのよ最後のは・・・!」

思い返す限り、西の都市で可愛らしいとされるものだったろうか。ひいかの目が期待に満ちている。これは真似しろということよね・・・


「こ、これでいいの・・・?」

「うんっ! 少し恥ずかしがってるみいかも、すごく可愛い!」

「ちょっ・・・! 飛び付かないでよ。」

気持ちが盛り上がった様子で抱き締められ、そのまま流れるように寝台へと運ばれる。止めようとしても腕力では勝てないわよね・・・まあ、そのつもりもないけれど。


「今日は夜更かししてもいいわよね?」

「仕方ないわね・・・明日疲れない程度にね。」

すぐ傍で満面の笑みを向けられながら、問いに答えると、うん! と声が響くと同時に目の前がひいかでいっぱいになる。旅に来て最初の夜は、少し長くなりそうだ。

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