第6話 配慮と逸脱

「それでは乗車しますが・・・先程渡した小さい板をここに当ててください。降りる時にも同じことをすれば、乗っていた距離分のお金が支払われますので。」

「え、ええ・・・こうね!」

「本当にこれだけで良いのね。確かにこの道具は便利だわ。」

クサカベに示されるまま、異世界の『バス』というものに乗る手続きを終えて、ひいかも私も驚きが隠せない。


「一番後ろが空いていますので、三人並んで座りましょう。あっ、お二人は窓側へどうぞ。」

他の者が近くに来たとしても、クサカベが壁になってくれる並びとなるようだ。師事している人物や、それと同格らしい知人もいるようだけど、気を遣うことに慣れているのだろうか。


「ええ、ありがとう・・・あら、座り心地も良いのねえ。」

「これは・・・私達のいる所からすれば、かなり上質なものかと。」

「そ、そうなんですね。ご満足いただけたのなら良かったです。」

少し戸惑いの表情を見せながら、クサカベが答える。こちらの世界では、そこまででもないのだろうか。この辺りの感覚のずれは、仕方のないものだけれど。



「そういえば、あなた。私達のことはどこまで聞いているの?」

「えっと・・・賢者さんのお友達というくらいです。詳しくは知らないほうがいいかも、と皆さんから言われているんですが・・・偉い人だったりするんですよね?」

うん、少しの間ではあるけれど、この少女を見てきたから分かる。ここでの『国』の概念が私達と同じではあるとは限らないけれど、ひいかが女王、私がその昔からの護衛だと正直に言ったら、きっと平静を失い、私達の知らない言葉をぶつぶつと呟きだすのだろう。ひいかと目を合わせ、互いにうなずいた。


「そうでもないわ。この世界では、一人の平民だと思ってくれれば良いのよ。」

「・・・・・・あの、『平民』という言葉からして、何か偉い人達の文化を知ってるようにしか思えないんですが・・・」

どうやら、一言目からひいかがやらかしてくれたようだ。


「あ、あら、そうだったの。言い方が悪かったかしらねえ、みいか。」

「そ、そうね。確か・・・一般人と言えば良いのかしら。」


「え、えっと・・・・・・はい。逸般人のほうであれば納得です。何とは言いませんが五十三万くらいありそうですし。」

「うん?」

何か言葉の響きが少し違ったように感じたし、最後に意味の分からない言葉をつぶやいていたけれど、これも異世界との文化の違いだろうか。



「あっ! ほら、この世界の住居が多く集まる場所に入りましたよ。やっぱりそちらとは違うんですよね。」

「ええ、これは大きく異なっているわね。」

「本当ね。遠くには規模が大きいものもあるようだわ。」

・・・また話題を逸らされたようにも思えるけれど、この世界の家は確かに気になるので、クサカベの説明を聞きながら窓の外へ目を向けた。

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