女王様と幼馴染従者の『異世界』夏休み

孤兎葉野 あや

一日目

第1話 待ち望んだ『異世界』

「ふふ、ふふふ、ふふふふふ・・・」

私の隣から、不気味な笑い声が響く。


見慣れない景色・・・丁寧に管理されているだろう柵の中の花や樹木、複数名が座ることを想定したらしい丈夫な木造の腰掛け、遠方に見える形容し難い住居と思しき建物・・・・・・

気になるものはいくらでもあるけれど、まずは隣を何とかしなければ。声が止んで、嫌な予感が頭を過る。私は制止しようと手を伸ばし・・・


「私達はついにやって来たわ。『異世界』へ!!!」

その刹那、辺り一帯に響き渡るような叫びが、すぐ傍にいる私の主人兼幼馴染から放たれた。喋り出す前に口を塞ぐべきだったが、間に合わなかったか・・・



「女王様、いきなり大声を出さないでください。『賢者』に言われたことを、もう忘れたのですか?」

すぐさま苦言を呈すれば、怒りと悲しみとその他諸々を混ぜ合わせたような視線が、至近距離からこちらに向けられる。慣れていなければ、ぶっちゃけ恐い。


「み・い・か! ここでは『女王様』呼びは禁止だって言ったでしょ!?」

幼い頃からの呼び方で、これまでに何度も聞いてきた言葉が飛んでくる。こうなったら、彼女が絶対に譲らないことは分かっているけれど、こちらにも言い分はあるんだからね。


「だったら、ひいかも少しは自制しなさいよ。こっちの世界に迷惑はかけないって、あの子達との約束でしょ!?」

「むう・・・それは悪かったけど、みいかと一緒に来られたのが嬉しかったんだもん。」

「くっ・・・! そう言えば私が甘くなるとでも思ってない?」

「さあ、どうかしら?」

にっこりと微笑む表情は、明らかに思っていそうな反応だけど、少しでも反省してくれているのなら良いか。



「まあ、大丈夫だと思うわよ。ちょっと大きめの声は出したけれど、誰もこちらを振り向かなかったから。『賢者』か『剣士』が何かしているわね。」

「・・・そうね。ここは魔法が物語の中にしか存在しない世界と聞いているけれど、此処に合わせた感知妨害でもかけたのかしら。」

さっきのは『ちょっと』では済まないだろうという言葉は、話が進まなくなりそうだから飲み込んで、状況の把握に集中する。


「きっとそうでしょうね。それに、私達の身体も何か保護されているみたいよ。今の状態に慣れてきたのか、水や風の魔力を感じるし・・・周りの人達の様子が何かおかしいわ。」

「・・・・・・どこか苦しむような表情、上方へ向けられた布張りの防具らしきもの、何度も汗をふく様子・・・本来はもっと、陽の光で暑さを感じる状況なのかしら。」

「おそらくはそうね。異世界というだけあってか、気候からして違うようだわ。」

外で過ごしにくそうな様子なのは気がかりだけれど、こうして来てみれば目新しいものばかりで、『賢者』や『剣士』が度々訪れているのも、それを察したひいかが彼女達に必死の形相で頼み込んでいたのも、分かる気がする。


「さて、じっとしているのも何だから、早速この辺りを探索してみましょうか。」

「待ちなさい、ひいか。案内人が来るというのを忘れたわけじゃないわよね?」


「だって、まだ来てないみたいだし。もしすれ違っても『賢者』あたりが何とかするでしょう。」

「あの子なら出来そうだけど、進んで他人に迷惑かけるんじゃないわよ!」

「えー・・・早くあちこち見たいのに。」

「ちょっとは待ちなさい! さもないと、次の休みを短くするわよ。」

私達がぎゃあぎゃあと騒ぎだした時、近くから控えめな声が聞こえてきた。


「あ、あの・・・異世界からのお客様ですか?」

振り向けば、こちらの住人らしき服を着た少女が、やや困り顔で私達を見ている。これは気まずい出会いとなりそうだ。

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