灰色のヒーロー

ファンラックス

悪役ヒーロー誕生?

「よぉ…久しぶりだな

 相変わらず聖人君子みたいなツラしやがってヨォ」

 俺は仮面を被ったソイツに言う。


「そう言うお前こそ久しぶりだな…

 デッド・タウン一番の悪人ヴィランと呼ばれてから、もう10年もその座に君臨する。

 俺とお前の戦いもそろそろ終いにしてやろう」


 俺達は廃ビルの屋上で互いの武器を構え、今互いに激突した!!


「ボルトスイング!!」

 俺は雷をまとったハンマーを思いっきり奴に向かって振り下ろし

 奴はそれを当然のように受け止める。


「さっすがぁ、町一番のヒーローは戦いがいがあるネェ」


「お前こそ。そのを振り回し

 数々のヒーローを倒してきただけのことはある…だがな!!」

 奴は自慢のでハンマーを弾き

 俺が後ろに吹き飛んだところを、刀で薙ぎ払い、追撃する。


「あっぶな!!」

 その斬撃は空を切り、風が起こる。


「楽しいナァ…ソード・マンティス。他のヒーローもこんくらい

 骨があるといいんだが…」


のヒーローが極悪なヴィランと戦うのを楽しむとおもうか?

 さぁ、決着の時だ……」


 その言葉を聞くと俺はボルトスマッシャーの出力を最大にする。


「締めは必殺技で決まりだろ?」

 ハンマーからはプラズマが走り、俺の体に電流が走るのが分かる。


 思いっきり地面を踏み込み、マンティスの頭上に叩き込む


稲鎚イナズチ!」


 ……しかし、その攻撃はマンティスには当たらなかった。いや……

 俺が技を外したんだ。


「オ、オイ…大丈夫か、マンティス」

 奴が急にその場に膝を膝をついたのだ。

 …それはもう仰天した、ヒーローになってからのマンティスは

 敵の前に膝をつくことはなかったのだから


「ははっ、俺もここまでか…」


「ど、どう言うことだよ…最強であるはずのソード・マンティスが

 敵の前に屈服するなどあり得ないだろう!!?」

 俺は考える間も無く、ヤツに叱咤するように言った。


「どうやら俺は俺は癌になっちまったみてぇなんだ。

 それもほぼ末期の状態……戦えなくてすまねぇ、ハンマー・フィスト」


「癌…だと?」

 俺は膝から崩れ落ちた…


 俺は悪として、ヒーローの敵として、10年もの間色んなヒーローと戦ってきたが

 ソード・マンティスはその中でも間違いなく一番のヒーローだった。

 そして時には拳を交え、時には協力し、互いに切磋琢磨しながら戦い続けた。


 …そんなお前が、お前が…!!!


「フ…ハ、ハ…ハ……!お前…泣いてんじゃ…ねぇか」


「黙れよ……早すぎにも程があるだろ。まだ俺、30にもなってねぇんだぞ!!!

 この先の人生、お前なしでどうやって生きて行けばいいんだよぉチクショオッ…」


「奇遇だな、俺も…30にもなってねねぇ…同年代だったんだな、俺たち……

 …ハハ…なぁ、最期に…頼みがある」


「…なんだよ」

 この時の俺の顔は涙でぐしょぐしょだっただろう…それくらいこいつの死は

 辛かったし、受け入れられなかった。


「俺の後を継いでくれねぇか?」


「…へ?」


「お前が2代目ソード・マンティスになれ」


「ハァァ…一体誰に言ってんだよ。俺は町一番の悪党のハンマー・フィストだぞ!!」


「だからだよ、ハンマー・フィスト…」


「ナニ!?」


「お前の事は長年共に戦ってきた俺が一番知ってる。

 お前はヒーローや自分の気が合わない奴にはよく、喧嘩をふっかけに行くことが

 多いが、市民の事は殺すどころか、襲いもしないような奴だろう?

 それに、お前は正々堂々の戦い方を好み、自分より悪い奴を倒すためなら

 市民を守るために共闘だってした。

 それなのに、数多くのヒーローを葬り去ってきた。

 その強さだけで、他のを押し除けるような

 ヴィランであり続けた。

 お前以外にいるか?孤高の仮面を被り続け、戦い続けることができる奴は…」


「ふざけんな…ヒーローを倒し続け、町を脅かし続けた俺が今更守り続けると…

 ハハハハハハ………舐めるなよ…ソード・マンティス。

 俺と戦ったヒーローの中には命を落とした者もいる…

 …ただ優しいだけの甘ちゃんだと思ったら大間違いだ………」

 俺はマンティスに圧をかける


「それでもだ…いや、だからこそお前に任せたい。

 俺だって町を守るためならと大量のヴィランを葬り去ってきた。

 でもな、裏を返せばソイツらのを奪っちまったって事だ。

 きっとヴィランの中にも汚い事もして、生活をしていた奴らだっていただろう。

 でも、若い頃の俺はそれが理解できなかった。人を善と悪で推測って

 しまっていたんだ。ようやくこの頃になって気づいてきた限りだよ…情け無い」


 ヤツの口から出てきた言葉に俺はもう…ナニも言い返せなかった。


 その時、奴が急に大量の血を吐き出したのだ…!


「ゲッホゲホ……どうや…ら、ここまで…だな

 俺のことは……嫌いだろう…でも、この町だけは……守ってくれ…

 たの…む。」


 奴は仮面を外し、俺の前へと差し出す…


「い…ままで、楽しか…ったよ、オレ…のとも…だち」



 ソード・マンティスは、死んだ。

「ばっかじゃねぇのか、誰が友達だって。この俺が??ハハ…

 ……唯の悪仲間ニタモノドウシじゃねぇかよ。こんなに優しい顔

 仮面の奥に隠しやがってよ……バッカみてえだ…全くヨォ……」

 彼の横顔は優しく、微笑んでいた。


 ……俺はこの時、生まれて一番の声で…泣いた。



 ————————


 2015年 5月6日 朝刊


   29

 長年デッドタウンを守り続けてきたソード・マンティス(ウィリアム・ホープ 29歳)

 が宿敵 ハンマー・フィストとの戦いで相打ちとなり、お亡くなりになったことが

 先月…………

  2 









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