第二章:商人の旅路
1:恐怖! 朝宮日向の実態とは? 年収は? 彼氏は?
第二章は1日1回更新でいきます!
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ダンジョンからの帰り道。
シルフィアにふと問いかけた。
「なぁ、シルフィアはどうして冒険者をやってるんだ?」
ただの話題作りのつもりで投げかけた言葉。
しかし、彼女は真剣な顔をして呟いた。
「責任と運命……かな」
「そっか……」
あまりに想定外の反応をするものだから、どう返していいか分からなくなってしまった。こんな可憐な少女から発せられる言葉ではないと、どこか違和感すら覚えた。それ以上聞いてはいけないような気すらした。
◇
それから二日。
俺はずっと、自分がなんのために探索者をやるのかを考えていた。
始まりは言うまでもない。シルフィアにのせられたのだ。それも外食みたいなノリで。
「外食……食事……食費……金銭……」
次第に意識が魔石のことに移る。
結果、十万円もの大金を得ることができた。この時点で損なんか一切していない。四肢もあるし、誰も死んでいない。素晴らしいことだ。
と、そこまで考えたところで思考を一個手前に戻す。
そう、食費だ。
これからシルフィアはこの家に住む。
――正確には、彼女が持つ異空間を作りだすアイテムで作られた空間に住んでもらうことになっている。俺の部屋に出入りするための門があるので、実質同じ家に住んでいると言えるだろう。
ともかく、衣食住のうち、衣と住は解決しているが、食料だけはどうしようもできないのだ。
……そんなことを考えているうちに、家まで帰ってきてしまったらしい。
「ただいま~」
汗ばむ陽気になってきた7月。服を仰ぎながら玄関の扉を開ける。
「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
リビングからスタスタと出てきたのは黒髪の美少女。
そう、我が妹だ。
普通の少年でしかない俺と違い、容姿端麗で文武両道。基礎スペックからいろいろと違う。
もしネットに顔を出せば数万いいねは間違いない。いや低すぎるだろうか?
「あぁ。ただいま、
「さ、手を洗って。うがいも忘れずに」
「分かってるよ」
なんと10歳にして生物学に興味を持ち、その影響で毎日俺に手洗いうがいをさせてくる。まぁ、別に言われなくてもするけどね。
「ねー、お兄ちゃん。帰ってきた時から、ずっと悩んでるような顔をしているけど、いったいどうしたの?」
「まぁまぁ。日向が気にする話じゃ――」
「――そういえば。この前の土曜日、お兄ちゃんが脱いだ服から女の人の匂いがした。それに血の匂いも」
「え、いやそれは――」
「ここは三大都市圏に数えられるほどには都会だし、女の人の匂いがすることくらいはあるかもしれない。けれど血の匂いなんてそうそう付着するものではない。服が傷んだ様子や怪我をしたわけでもなさそうだから怪我の線もなし。では
漆黒、あるいは深淵とも呼べそうな暗い瞳で、俺をじっと見つめる日向。
これはまずい。今までになく怒っている。いや、怒っているように見せて事実を知ろうとしている。
我が妹は、まるでホラーのワンダーランドを恣意的に作り出す質の悪さがあるのだ。口調も段々と変化している。それはもう厨二病を疑わざるを得ないほどに。
「い、一旦話を聞いて――」
「そうやって言い逃れしようとしても無駄。同じ家にいる以上は問いただす。彼女もできたことないお兄ちゃんにはこういうときの対処法なんて知らないもんね」
「ぐはぁ!」
くそっ、なぜかいきなり刺された!
やめろ日向それは禁句だぁ!
「わ、分かった。全部話すよ……」
それから十数分。制服から着替えることも許されない俺は持ち前の文系技能を生かして説明を行った。
高校生なのに、不祥事を起こした大企業の社長の気分を味わわされた。なかなか珍しい経験だと思う。
「……い、以上、です」
「うんうん、お兄ちゃんは正直でいいねっ!」
どの面下げてッ……! と言いたくなるが、仕方ない。
こいつも普段はまともで真面目だし、家事もテキパキこなす有能ガールだ。だがひとたび怒ると、
とんでもない妹を持ったものだと自分でも思う。
「ふ~ん、そっかー。とゆーことは、お兄ちゃんの部屋に魔法の門があるんだね。それで、そこにシルフィアってお姉さんがいる、と」
「その通りでございますれば」
「じゃあ、会わせて?」
「ふぁっ!?」
言ってしまった以上ある程度は仕方のないことかもしれないとは薄々思ってたけど、まさか今だとは思っていなかった。
「うぅ……分かった、行こう」
俺、この妹、怖いです。
◇
俺の部屋は、階段を上がって突き当りを右に行くとある。
その扉を開け、クローゼットの壁に隠すように取り付けられた機械のようなものを操作する。
――すると、その機械はみるみる壁を侵食し、全く異なる景色がその先に広がった。
「これが……門」
「まだスキルも持ってないし探索者でもない日向にとっては初めて見る光景だろうね。ダンジョンはこんな感じの事が何十回と起こる場所なのさ」
「一回しか行ってないのに語らないでよ」
「ぎくっ」
そんな会話をしながら、その空間の中へと入っていく。
中には、全く別の家がまるまる存在した。
完全に洋風の、綺麗な木造の家。特段他に特徴はない。強いて言えば窓からの景色も外国を感じさせるものであることくらい。
ただ、空と太陽まであるのはいつ見ても不思議でしかない。
「あ、伶。その子は?」
別の部屋から出てきたシルフィアが呟く。
ちなみに、彼女の格好はラフなものになっている。ここに置いてあった自前のものだそうな。便利~。
「俺の妹だよ。名前は日向。事情は……ハ、ハナシテアルヨ」
「初めまして! 私の名前は朝宮日向ですっ、シルフィアお姉様!」
……ん?
「「お、お姉様……!?」」
「はい! お姉様です! この不肖の兄をどうかよろしくお願いします!」
「いやいや待て待てなんか色々おかしくないか??」
「いいねぇ。えへへ、日向ちゃん。妹としていっぱい可愛がってあげるぞ~!」
「ありがとうございますお姉様! 私、一目見た瞬間に、お慕いするべき人だと確信しました!」
……俺はもう知りません! 解散!
「あ、伶が来たってことはそろそろ次のダンジョンについて説明してくれたりするのかな?」
「もう行くんですか!? お兄ちゃん、ほんとに大丈夫かな……」
「まぁ、この前ユーフォスさんにもらった剣も試してみたいしさ。親父に叩き込まれた剣術をお披露目するときが来たのだっ!」
「でもこの前ゴブリン相手に大苦戦してたじゃん」「お父さんの訓練、厳しすぎてすぐに音を上げてたくせに」
「ぐふぅ!」
双方向からのダメージは痛すぎる!!
もうメンタルがボロボロになってしまいます!
「けど、日向にダンジョンの話をしてもわかんないだろ? だから今日はここの散策でもしようと思うんだが、どうだ?」
「いいね。私は賛成だよ」
「お兄ちゃんがそう言うのなら、問題ないよっ」
「よし決まりだな。んじゃ、まずは外を散歩でもしようか」
二人と共に、温かい日差しが降り注ぐ庭――まるで平原のようだ――に出た。
「何回見ても綺麗だなぁ……」
「そうだね……心が癒やされる~」
「日向ちゃんはともかく、伶はこれ見るのまだ3回目でしょ。私なんてもう数百回は見てるんだから」
「俺はそんだけ見ても飽きない自信があるぞ。絶景とか大好きだからな」
「わ、私だって絶景は好きだよ。それにいーっぱい見たことあるし! 伶は見たことある? 雷が渦巻く天空の島とか、炎で出来た堅牢な城とか、水中にある巨大な王国とか!」
「い、いったい何に張り合ってるんだよ……?」
「冒険者としての矜持!」
そう言って腰に手を当て、威張った表情をするシルフィア。
「なら、その冒険者様と一本手合わせ願いたいところだな」
「お、いいよ。胸を貸してあげる。何回目で泣くかなぁ?」
「いきなりサイコパスみたいにならないでくれ!」
俺の切実な思いを受け取ったのか受け取ってないのかは分からないが、シルフィアが虚空から二本の木刀を取り出し、俺に手渡した。
「審判は日向ちゃん、お願いね」
「わ、わかりましたお姉様っ! 初めての大仕事、頑張ります!」
互いに2メートルほど離れ、剣を構える。
「それじゃあ――始め!」
……結果は、言わぬが花というやつだ。
回復魔法がどれほど素晴らしいものであるかを充分に感じることが出来たと思う。まる。
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