5:魔族ちゃん(さん)

本日2話更新!こっちが1話目です!

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「んー……こんなところにいるのが魔族とは驚いたな」

「魔族?」


 いかにもラノベっぽいワードだ。

 こっちの世界じゃ魔物はたくさんいるが、魔族と呼ばれる存在は一切確認されていないはず。少なくとも聞いた事はない。

 おそらくシルフィアと同じ異世界の存在なのだろう。


「その白い髪、服装、目、そしてイカれた魔法の威力……貴様、まさか【千魔剣戟せんまけんげき】か!」

「せーかい。やっぱり私って有名人なんだねぇ」


 シルフィアが恍惚とした表情で呟く。


 一方、魔族さんは青ざめた様子だ。まるで死に瀕しているみたいな……そっか、シルフィアが彼女を敵として認識したら殺す可能性もあるのか。そう考えるとその反応にも納得がいく。魔族さんの命はシルフィアの手のひらの上というわけだ。

 

 あとその二つ名かっこよすぎるんだが。俺も欲しいなぁそーゆーの!


「くっ、殺すなら殺せ、【千魔剣戟】。お前には屈しないぞ!」


 さっきまで「はわわ」とか言ってた人とは思えんセリフだな。取り繕っているのがバレバレです。現代版女騎士みたいなの風になっているのも相まってなんだか締まらない。


「シルフィアさんや、果たしてあなたはどんな悪名を轟かせていたのですか……」

「いやいや違うんだって! 昔はちょーっと荒れてた時期もあったけど、今は魔王とも仲良いし、魔族とだって敵対してないんだよ?」

「荒れてた……昔? そんな風には思えん反応してるけど……この世界来る直前までやってたんじゃないのか?」

「ねぇ魔族ちゃん、名前は?」

「貴様に教える名前などない!」

「なら、ステータス覗かせてもらうねっ」


 シルフィアが悪魔のような笑みを浮かべている。とんでもなく怖い。


 プライバシーなんて概念は彼女にないらしい……あんまりやらないように言わないとな。訴えられてしまうかもしれない。


「ふむ、ユーフォス・デモンナイトって名前なのね。なるほどなるほど」


 今回も勝手にステータスを覗いたシルフィアが、顎に手を当てて何かを考えている。どうやら何か思い当たる事があるらしかった。


「ユーちゃんはいつこっちに来たの?」

「ユーちゃん……? 私を気安くそんな風に呼ぶな!」


 いよいよ顔に血管が浮かび始めた。このまま勢いで殺しに来るんじゃないのか、この人。もしそうなったら何の防御も持たない俺はお亡くなりになりますね。ぜひともやめていただきたい。


「だ、だが質問には答えてやる。確か、3年前だな」

「ほぉ、3年前か……だったらしょうがない。私が暴れてたのは14歳の頃だから、15歳でまともになった時にはもういなかったわけだ。残念」

「待てシルフィア、3年前に15歳ってことはお前——18歳なのか!?」

「あれ、言ってなかったっけ。そうだよ、私は年上なんだぞ、えっへん」


 どこに胸を張る要素があったのかは分からないが、ともかく魔族さんはシルフィアの……反抗期? しか知らないらしい。俺もかつて厨二病を発症していたから気持ちは分かる。辛いよな……


「なに勝手にイチャついてるんだ! よそでやれ、よそで!」

「まぁまぁ。それでさ、魔王——ルミナスちゃんの妹であるユーちゃんはなぜこっちの世界に? こんなダンジョンのボス部屋なんかに部屋作って何をしようとしてたの?」

「あぁ、それは——」


 いわく、魔王ルミナスの妹であるユーフォスさんは、魔王の命令によってこの世界に来たらしい。


 なんと、驚くべきことにその手段は〈召喚〉だったようだ。俺のものと何が違うのかは分からないが、このダンジョンに隠れて任務を遂行していたようだ。

 任務については「極秘だ」の一点張りで教えてくれなかったが、俺たちに敵対心がないと分かると不承不承といった様子で警戒を解いてくれた。


 シルフィアに至っては、魔王あねと仲がいいことを色々証明した結果、ユーフォスさんとめっちゃ仲良くなっている。友情は時間じゃないとはいえ、この豹変は怖い。口調も女騎士みたいなのからお嬢様に変わっているし。


「そうだ、いいこと思いついた。お茶会をしましょう! 食料はいっぱいあるから!」


 シルフィアがパン、と手を叩いて笑顔で言った。

 お茶会……? と俺は首をかしげるも、ユーフォスさんもはにかんで賛成した。


「いいわねそれ! 調理器具はちゃんとあるから、きっと豪華な食事ができるわ!」

「ダンジョンの中でお茶会って、異世界じゃ普通なのか……?」

「「普通じゃない(わ)ね!」」

「口を揃えて言うなっ!」


 そこからは、意味不明な迷宮お茶会ダンジョンティーパーティーが始まった。


 ユーフォスさんがいた部屋から運び出された調理器具に、魔導鞄マギアバッグから出される先ほど倒した魔物の肉。


 それらは手際よく準備され、あっという間にセットが出来上がった。本人たちは上品にお茶会なんて呼んでいるが、この光景はバーベキューと言ったほうがいい。


 だが、そんな細かいことを気にしても意味はない。だって、目の前にはめっっっちゃいい匂いを発する肉が焼かれているのだから――!


「いただきっ!」

「ちょっ、卑怯だぞS級! 残像すら見えなかったんだが!?」

「怜はそっち食べていいよ。どっちも脂身たっぷりのオーク肉だからね」

「脂身……!」


 この元気な身体は脂を摂取してもダメージにはならない。己の若さに感謝しつつ、いつも食べている肉より何倍も柔らかく、何倍も美味しい肉を無我夢中に食らう。


 気づけば腹はいっぱいになり、二人も満足した様子で紅茶を啜っていた。その姿からは双方育ちの良さが出ている。一般庶民の俺はなんだか疎外感を覚えた。

 

 あんな丁寧な動き、不器用な俺にはできませんよ……


「さて、お腹もいっぱいになったところでそろそろ帰ろっかな」

「やっとか……そろそろマイハウスが恋しくなってきてたんだよな」

「あら、もう帰ってしまうのね。だったらお土産を持って帰ってよ」

「お土産?」


 異世界の魔族から渡されるお土産とはいったいどんなものなのか。非常に気になるところではある。


「ほら、受け取って」


 そういってユーフォスは虚空から何かを取り出した。


 それは、黒い取っ手のついた蒼い刀身の片手剣だった。

 その壮麗さに、思わず目を奪われる。


「君が持ってるその剣はあまり良いものとは言えないわ。なら、この魔鉱を使った剣を使ったほうがいい」

「ほ、本当にいいんですか!?」

「もちろんよ。ね、シルフィア」

「そうだね。きっとこの剣なら長く使えるはずだよ」


 感謝を述べ、そっと剣を受け取る。

 思ったほど重くはないが、軽くはない。しかし手に馴染む重さであり、ちょうどいい形だ。


「それじゃあね。また来るよ」

「待ってる」


 シルフィアの手を取り、宝箱と同時に出現していた魔法陣の上に乗る。


 そして数秒後、視界は真っ白に塗りつぶされた。


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 お肉、いいですよね。作者は焼き魚が好きではないのでお肉の方が食べる機会が多いです。そろそろ年末ですし、皆様のご家庭ではすき焼きとか食べたりするんですかね。ぜひ聞かせてください。

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