第7話 想定外の探検部

「その衣装はなんなのか」

「魔術部の儀式服に何か文句が?」

「……いや、いいわ……」


 この子はどうも苦手だ。

 向かってほしくないほうにあけっびろげな雰囲気が。

 内出屋くんの対応しにくい話を振ってくる初対面の印象が、難しい顔をさせる。


「さては露出が少なく不満なのですね……魔法学園な感じより異世界転生な怪しいのがいいのでしょう!?」

「後輩は魔法部そんなに気になるか~」

「尾ひれをつけないで!」


 D棟の見慣れた入り口。

 今回は珍しいことに、入場から探検部以外の人間がいる。

 魔法部、宇塚まほ。

 内出屋君にしてみれば義理立てする必要は感じないが、決まっていると言われると断れもしない。

 そういう立場。

 …だが。


「探検部の趣味に一部合わせてスカートは超ミニにしたんですよう? 見たいかい?しゃがんで覗きたいかい?」


 態度がどうもでかい。

 あとノリが内出屋くんには肯定しにくい。

 なお、珠呼はおいてきた。

 この戦いにはついていけそうもない…以前に、普通の生徒がここの環境で無事でいる可能性がない。

 せめて銃の扱いと手入れくらいは覚えられないといけない。

 その点で言うと、魔法部は大丈夫なのかという疑問にもぶち当たるが、自信があるようなので何とかなるだろう。

 きっと。


「久しぶりだなぁ、わくわくするね探検!」


 もっと心配なのがいるし。

 レクチャーをいろいろされた経験があるし、腕は確かかもしれないがどうも抜けている点が目立つというか、なんというか。

 内出屋くんから見て信頼できるという雰囲気に、まだ全然結びつかない先輩。


「モスフグダケがこの間階段横にありましたから、先輩も気を付けてくださいね」

「ういうい」


 背負い袋の横に下げるように武器も持っているが、城戸センパイのメインにしている武器は散弾銃。

 いわゆる箱型弾倉付きのポンショと呼ばれる部類の何かだ。

 それ以外にも小型銃もあるようだが、使ってるのはほぼ見ない。

 あと、探検部で一応出席を促したつもりだが、やはり誰も来なかった。

 どこから何人が幽霊部員なのか、トラウマで出席拒否しているのか区別などつかないので、追及はしないことが暗黙の了解、と言うのもこの部の原則。

 そこは仕方ないと誰しも思うところだ。


「では今日も張り切っていきましょう!」

「「……ぉー…」」

「清々しくないな今日のメンバー」

「いろいろ万全ではないので」

「恥ずかしながら入ったことはないので」


 嘘だろ魔法部。

 不安だけが深くなる。

 しかし、だからと言って帰らせると先輩は言わないのでこのまま突入。


「やっぱり一回にちょっと出てきてる…岩のやつ」


 そこまで小規模でなら危険でないとはいえ、処理はする。

 しかし。


「…ぇ……あれ……これ、イワモチモチコロムシじゃ…ないです?」

「岩としか思ってないですが」

「名前は知らないねぇわたしも」

「…もったいね!!」


 急に声を荒げる魔法部。


「ちょっと探検部ぅ、今までずっと数減らしてたんですか?もったいねぇですよ、おとなしい虫なのに」

「名前つけようとしてるのすら初めて見たけど…」

「モスフグダケの近くにいるの、集まるからかなり痛いですよ、こいつ」

「ウツハジヨ類の菌類は近くの生物のフェロモンに酷似した胞子を撒くんで、その近辺の反応をそれと思うのはよくないですよぉ」

「…なんか詳しいこと言ってるな…」


 探検部で誰も知らなそうなことを平気で言っている。

 魔法部では当たり前なのだろうか?


「何か疑ってますねえ? じゃあ、先輩さんの持ってる手りゅう弾に、うちのこの中和剤を小瓶に移して括り付けて、階段から落としてみましょう」


 あれ、もしかして魔法部って心強い?

 とりあえず、一旦言われた通りやる。

 二階の階段から手りゅう弾を投げ入れ、念のため過去に運び込んでいた資材の板で軽く二階の入り口にはふたをする。

 待つこと5分。


「本当に、今まで何だったんだろうってくらいすんなりいくねえ」

「こんな知識量があるとは…魔法部ずいぶんいろんな資料隠してたんですねぇ」


 探検部の先輩と後輩、素直に関心。


「いやぁ、先輩が持っていたら探検部にも顧問伝手で回ってますよ、きっと」

「…え、チガウの」

「わたくしの個人的と言うか…経験値と言いますか」

「D棟初めてって…言って…なかったっけ」

「そこから先はプライベート、と言うことで」


 言う気はないアピール。


「…しかし…ずっと見ているんですが…ね」

「どうした後輩」

「探検部の引いた電線周りであったり、注意してそこそこ見ているはずなんですけど、やっぱりないんです、アレに使った録画カメラ…」

「あれ見る限り、移動してたからねえカメラも」

「なんて厄介な…」

「それについては、これから私たちが投稿者を見つけて聞き出せるんだから、今はいいのよ」

「先輩はいつもお気楽に捉える…」

「それより魔法部ぅ? このモスフグダケは切っていいやつ?」

「あぁ~、それ私がやりますよ、ちょっと取ったら液薬で枯らします」

「いや、近くで傷つけたら暴発するよ?」

「んー…仕方ない…今回は我慢しますか…夢の惚れ薬の開発がやっとできそうだったのに……」

「出来たら分けてね」

「ふふふ…そりゃあもぉ」


 何やら、おかしな密約が出来ている気がするが、内出屋くんはそんなことは知らない。


 そうこうして。

 魔法部の持ち込んだ薬物たちで、荒事の出番は驚くほどなく2階の踏破が順調に進む。


「なんなら、イワモチモチコロムシも持ち帰りたいんですが…」

「そこは、流石にまあ…うちの顧問と相談してからにして欲しいねい…」

「ここの周囲だけ生態系から別物になったりしたら、万一に備えて何を隠すにしても言い訳できなくなりますからねえ」


 探検部としては、D棟の特殊なものの持ち出しに関して、基本的には消極的な意見が根強い。

 魔法部は、研究と解読という性質上、そりゃあ歯止めなど考えないだろうが。


「でもなんでそんな虫を」

「ここは曲がりなりにも建物だからこんなですけど、こいつ固いものを選んで削って自分の殻にするので、鉱山に放つととても効率がいいんですよ、宝石持って歩くのも珍しくないし」

「……ここで見たことない生態だなあ」

「本当にどこでそんな、見てきたような情報を」

「まぁプライベートと言うことで…」


 部活ともども、謎が多い。


「ここからは玄室あたりから、けっこう上下するんで、はぐれないでくださいね」


 とはいっても、D棟初心者であるということを無視はできない。

 内出屋くんは説明もしながら先頭で奥へ進む。

 先日の女の子を助けたあたり。

 玄室前待機所として作られた簡易キャンプからは、建物ではない岩の道も増え、落とし穴などの罠もいくつも隠れている。

 階としてマップ表記ができるのはここまでで、ここまでを上層、1層2階までとして記載。

 以降、異歴図書館を最深部とした2層、記録が極端に少ない3層とほぼ未踏の下層と続いていく。

 中途半端に迷宮らしい壁が出てきたり岩場になったり、いくつもの建物をつぎはぎしたような雰囲気すらある謎の構造物であることこそ、D棟の本当の特徴と言えるのかもしれない。


「そっちなんです? ここにしっかりした部屋の扉ありますけど」


 後ろから魔法部の声がしている。

 初めてなりの反応が自分以外からするのは初めての経験なので、内出屋くんも不思議な気分である。

 ……が。

 待て。


「ちょっと待ってそこ触っちゃだめですよ」

「…後輩、遅いよ…」

「…開けちゃった…」

「どうして先輩止めないんですう!?」

「何があったのか思い出せなくって考えてるうちにかちゃっと音がしちゃったねぇ、大変だねえ」

「言ってる場合ですか!」

「…あの、途中で申し割れないですが何がいるので…」


 と、言い終わらないうちにドアが壊れた。

 よく見れば、雰囲気に合わない最近の建物のようなドアだったことに気付けたかもしれない。

 つまり、探検の途中で持ち込んで取り付けた扉。

 必要があるか、急遽しなければいけないから付けた扉と言うことだ。

 理由は…。

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