第6話 讃えよ!恐れよ?崇めよ!? 我が名は魔法部
「いやあ、タダ飯ほどうまいものはないでござるなぁ~」
「……もうお前わざとやってるだろ」
「いやいや、断じてそんなことは」
「仲がいいねえ」
昼休み。
探検部のD棟侵入に関する、けっこう緊張すべき会議の最中なのだが、堂々入りこむ部外者、熨斗毘珠呼(のしびの たまこ)。
動画のコメントにあった、今日異歴図書館近くに行く……という話を信じるかどうかで、大きく話が変わる。
「先輩としては、異歴図書館の入り口に配信のあるかもしれない時間までに待ち構えて正体を暴くというアクティブ案を提案します!」
「僕の体調が不安なので後輩は反対票を投じます」
「やる気でろ!」
「無理ですよ…結構長く気絶してたっぽいので衰弱してるか持久力不足です今」
「見たよ動画!カードぶっぱなしたね派手に」
「……人の多い食堂で言わないでセンパイ………!」
「でもモグ…あれかっこよかったでござるよ、なんなんでござるか?」
「ああいうのは、基本、異歴図書館かその奥の3層以降の発見だから、うちの部員か教職員の保管業務の人以外知らないんだよ本当は」
「その、異歴図書館というのも、名前以外聞いたことないのでござる」
「D棟の目ぼしい探索の中で、今のところ一番大きい発見ってこと以外は俺も詳しくないんだよね」
「…ふふふ、そこはこの先輩の知識が必要なんだね! 全く新参はこれだから!」
「いや、ここで話す必要は無いんですが…」
静止の声も聞かずに話し出す城戸センパイ。
―異歴図書館。
校内の異質な雰囲気の最たるものであるD棟の探索の中で発見させた大施設のひとつ。
D棟というモノ自体も、学舎A、体育館など普通教室以外の施設棟B、部活棟Cとした区分けの中で明らかに古いので建設前に存在していると思われるが実情は不明。
主に探検部と教職員の一部で調査はしているが、道が険しいので外部に頼むことはなく調査そのものは今もごくごく一部を見る程度というのは先輩から聞いても同じであるようだ。
わかっているのは、言語が違う、歴史の記述が違う書物が山のように存在し、管理者が独自にいること。
そこもまた危険であること。
それが知りうること全てである…とのこと。
「…思ったより深い情報なかったですね」
「私も本格調査には参加してないからねぇ」
「凄いのでござるね…そこ……モグ…」
「今は禁止項目多いけど、生徒会も昔は調査同行が定例だったって話なんだから、今から見ると信じられないよねぇ」
「生徒会があれの中に何度も入ってたんですか?」
「今の執行部は入ってないはずと思うけど、昔の資料で協力要請の束が棚に入ってたりはしたよ?見た事あるもん」
「覚悟あるなぁこの学校」
「……うちの部もそれ以上に覚悟があるのをご存じですか…」
「うわ!?」
内出屋くんが、急な知らない声に驚いて硬直する。
どこからの声なのかもわからないので飛びのこうとするが机をひっくり返しそうなのでギリギリで踏みとどまる。
「……驚かせてしまったようでもうしわけありません、わたくし今指名手配中なので」
「あの、股間に近寄るようにして喋りかけるの、違い種類の小説になるのでやめてもらっていいですか」
長机の下、潜むようにいつの間にか入り込んでいた女性。
内出屋くんの膝あたりにぐいぐい寄ってきて下から内出屋くんを見て話しだす。
しかし…指名手配?
「……話は聞かせていただきました、魔術部の代表として、この宇塚まほ、その探索に参加して助力いたしたく思います……」
余計なことに票を投じようとするな!
実に嫌な表情になる内出屋くん。
「あー魔法部の部員なのねぇ、大変だよねえ今」
「確か生徒会に部活の活動停止食らったまでは知ってますけど、なんなんですか今といいそれといい」
「……わたくしは欠席してしまったのですが、儀式の実験の途中に風紀委員たちが乱入し実験が失敗、先輩たちはほぼ収監されて残る部員全員が、いま指名手配で捕縛対象になっていると聞いております……」
「何したんだよ」
「……なにぶん伝聞でしか知らないのですが、実験そのものは危険ではないものの失敗の放置はヤバイ事態が起きるかもという話で、現状立ち入り禁止の部室に入る方法と処理方法を残りの先輩と相談しながら、手段と手順のおさらいを異歴図書館で調べる必要があるのだと…」
「あ~ら、魔法部はいつも大変だねえ」
「笑いごとですか先輩……」
「……そしてその役割を逃げ延びたわたくしに一任される形となりまして、まさに今、渡りに船……」
「利用しようとされてんなあ!?」
「……そんなことはまったく…探検部には研究資料の提供で常に恩がありますので……」
この、魔術部とも魔法部とも呼ばれる「魔術的異歴文章法則解析調査部」、この学校の創立時から必要あって存在する探検部と同様の歴史ある部活。
要するにD棟の発見物の解析と文字の解読が主な仕事である。
探検部とは、けっこう切っても切れない縁のある関係なのだが、常にその研究の過程で事故と事件を起こすいわくつきの部活。
何があっても廃部にならない立場を利用し、過去の魔法部部員も持ち帰った本の特殊な効果などを積極的に濫用し続けていた。
つまり評判が悪い。
探検部も生徒会から見て非常に悪いが、ここはその比ではない。
「ハイ、ご注文の特盛ふわたまピクルスサンドです、早めにお召し上がりください」
会話の途中に届けられる食べ物。
学食の人型給仕ロボだ。
「……まってました…ください、皿ごとこっちに……」
「だから股間から話かけないで」
よほどお腹が空いているのか、ひざのさらに内側に一気に入り込んで要求する魔法部。
「欲しいんです!すぐ!ください…!」
「声出てる声出てる!」
「………すみません寮に戻れなくて…あまり食べてなくて…」
(食堂のアプリ予約なんて、むしろ生徒会がモロ見張ってそうなものだが…)
かなりいろいろ思うところはあるが、この体制で暴れ出されるとたまらないので、素直に皿を机の下に。
「はーたまんねピクルス、ここのこの甘辛ソースサイッコ!かーっなけるぅ」
「……俺が言ってるような扱いにならない程度に声抑えめに…!」
なんとも、本当に食べていなかったんだろうというくらい、貪る勢いで人格が変わったようにかじりつく。
風紀委員に捕まるより、よほどの苦行で生きていたのではなかろうか。
「そんなわけで、不意に2票、待ち伏せに入ったわけだが後輩?」
「部外者の投票権が有効かを審議しなくてはいけないので現段階では無効票であることを主張します」
「おかたいことを~」
「…モグ…そんな遊びも融通もきかないこと言ってると、モテなくなって相手が拙者しかいなくなるでござるよぉモグモグ…」
「…それはやだ…」
「何とも失礼なモグ」
「それ以前になんでお前ずっと聞いて…ヒッ!」
言いかけたそのとき。
「……くりゃはい……」
太ももの内側をがっしり掴まれて流石に耐えかねる内出屋くん。
「…飲ませて…おねがい…ひます…くらはい…」
「水ね!水だよね!」
顔を近づけないでと心で叫びながら手元の水をパス。
「……ぷはぁ、はぁ、たすかった……」
「人の太ももで落ち着かないように」
「……すこし、いやらしいこと、考えました?」
お礼より先に机の下でにやりと笑うその顔に怒鳴りたいが、割と刺さる一言に動けない内出屋くん。
「あいかわらず内出屋どのはマニアックな性癖をしておられるでござるなぁ」
「楽しんでたのかなぁ後輩君はほんとにもお」
「……えっち……」
「…耐えられるか、こんな空気ぃ!」
もう、逃げの一手しかない。
ここをさらに留まれば話を広げられて妄想だけが本人の前で事実のように成立させられていくのが、内出屋君にはもうわかっている。
「好きにしたらいいですもう」
「いや、メインの話終わってないよ後輩」
「好きにしてください!」
「…ならそういうことに」
探検部、必要書類を急遽そろえて異歴図書館突入が決定した。
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