第4話 ゴキゲン斜めの生徒会
「どういうコトなんですかこれ!」
鉄格子をつかみながら、かなり珍しい勢いで内出屋くんは叫んでいた。
「こっちに落ち度があるならともかく、寝ている間にこれは、ちょっと納得できませんよ!聞いてますよね執行部!」
そういうことらしい。
目が覚めたら鉄格子の牢屋の中で、状況は何もわからないのが、そもそもの内出屋くんの状況である。
「リュックや装備品はともかく、靴すらないのはちょっと反則ですよ!聞いてますか執行部!うちの顧問に話は通ってるんでしょうね!執行部!」
とはいえ、何も当てがなく怒鳴っているのではない。
おそらく学校内で、こういった設備を持っている、または使えるのは生徒会しか存在しない。
そういう確信あっての話であろう。
そして、彼と生徒会執行部との仲は、さほど、よろしく無いのも覗える。
「……楽しんで眠って大声で吠えて……いい御身分ですわね探検部」
「生徒会の誰です!? 取りあえず出してください」
「踊って?叫んで?脱出ゲーム? イェア」
「感情の無軌道な爆発、美しいじゃないですか」
『モウチョット、閉じ込めたホウがイイヨ~♪』
「…全員、場に出る時は気品をもっと持って臨むべきではないかと思いますがね、会長以外」
「そろい踏み…?」
さすがに複数人の異様な声が次々来ると、内出屋くんの反応も一度止まる。
「会計補佐など数人は仕事中なの出来ませんが、とりあえず来れる人間は揃ってますよ探検部」
あからさまに敵意が感じられる、生徒会長。
女性で見め麗しく優等生、とは聞くが、内出屋くん目線だと数度しか目撃された事はない。
『こなくてイーヨて、足止めされたのもいるケドナー?』
合成音声。
おそらくスマホを高速でいじってその発声で会話している、このメガネの女性が書記のひと。
「集まるじゃん?話聞くじゃん?俺死ぬじゃん?」
何言ってるかイマイチな、この男性は会計補佐。
中東のどこかの国の留学生でこの国の国籍はない日系人と内出屋くんはわずかに聞き覚えがあるようだ。
「こうして睨み合う構図、なんとも美しくないですか?」
会計。
彼だけ内出屋くんと同学年だったはずだが、会話したことはない。
と、いうよりも、これは可能なやつなのか?
そんな雰囲気をひしひしと感じる内出屋くん。
「さて、そういったわけで事情聴取なのですが」
副会長。
すごい御曹司らしいと、内出屋くんも聞くくらいには噂になる、何やら圧の強い方。
今年度の会長立候補辞退に回ったのが相当学校内でも衝撃事件だったと、今でも聞こえるくらい、らしい。
「会長はダンスレッスンと今月の私服のテーマカラーを決めるのに忙しいので、長くは時間を取りませんよ内出屋さん」
「せめて仕事で忙しいことにしてくれよ!」
「最高の女性にはそれを磨く時間が何より必要なんです、仕事など僕が出来ます」
「……それ堂々言っていいのか実際」
「………ちょっと印象がよくないですかしらね…」
「おお!それは僕の失言です!もちろん会長は仕事も僕以上に完璧で細かいですよ」
「ど、どうも副会長」
(どんな関係性の集まりなんだこの生徒会)
「それでは僕から要約させていただきます」
「どうぞどうぞ」
「探検部、あなたたちは外部にD棟を公開しているんですか? 我々の今年度の方針からしてみれば、これは活動停止の要請を教職員に出す必要を感じる程度に相いれない話なんですがね」
あそこに侵入していた、白い何かの人だろうか。
取り逃がしたのと、報告しなかったのが問題だ、と。
確かにそれは言われるかもしれないが、気絶していて言われるものか?
内出屋くんは、それなりに無言で頭を巡らせて反論のタイミング待ちをする。
「しかも動画で自分の名前で配信して、D棟を遊びに使った自分の人気取り……さぞ、ご気分がいいものなのでしょうね」
「……はぁ!?」
「今回そこが最も会長が気にしている問題点です、この芸術的な顔にしわが増えたらどう責任を取られるつもりですか内出屋さん」
「ちょっとまって!俺の知らないことが起きてるから説明が先だろ!?」
「聞きたいのはこちらなんです!」
どういうことだ。
内出屋くんの考えもしない方向の話が出てきた。
配信?
自分の名前?
いや、助けた彼女や、妨害したあの白いのの見える子の話はどこに行った。
「こっちだって起きてそんなたってなくて混乱してるんです、譲歩して情報交換をしましょう…あと、顧問早く呼んでください」
「なるほど、そちらの情報の出し方によってはこちらも立ち位置の変更は考えなくはないですよ、探検部」
メインになる話になると来るのは、割り入った副会長なんですね。
「僕と一緒にいた女性、救出した1年の子は一体どうなってるんです、あまりに意味のわからない状況ならこっちにも彼女を証人に…」
「ほう、ぜひ出してもらおう、その彼女」
「あんたたちが保護してるんじゃないのか? 歩けなさそうだったんだぞ」
「君の呼んだスタッフだろう? 彼女をD棟に入れたのがそもそも発覚の発端だと我々は…」
「彼女が部外者?」
ちゃんと書面でここの学生だと確認して救助に来てたじゃないか。
「私が出席するくらい人をそろえている中で、わかっててちゃんと正直に話しているんですか探検部」
「貴女に横から言われなくても、あまりに認識が合わないところの確認はしてますよ! 僕の持ち物持ってくればわかるはずです」
「横からってあなた、中心になって話しているのは誰だと…!」
副会長です。
「俺はちゃんと彼女がここの学生だと確認して救助という名目で入ってる!書類にサインだってしてる!」
「存在しない! 職員に確認はもうしてあるが、届け出がなく無断校内危険区域侵入と宿泊、そして校外部外者の侵入ほう助! さらに校内情報拡散が君の今回の勾留理由だ!」
「顧問を!うちの顧問を今すぐ呼べぇぇ!!!」
『アレはすぐ理事からの権限を使ってうやむやにシヨウとするのデー♪私タチはアレにハナシが伝わると事実をケムに撒かれる敵だと思ってるからアトからしかシナイヨー♪』
「つまり、証言となる事情を聴いてしっかり事実確定した後です」
「ひでえ尋問だ」
『シカタナインダヨー♪』
執行部も、知らないところで煮え湯を飲まされている意地があると見える。
「とにかく、俺…探検部側の意見としては、知ってる情報を出したうえでの事実のすり合わせを希望します!」
「真実である確証と証明は、どうします?」
「こんな牢屋に入れられてる状態で、信用無くして出られにくいことを繰り返すと思いますかね? 信用問題でお願いしたい」
「魔法部が君が持ち帰ったものを何気なく渡したせいで大トラブル起こしたのが最近だったねぇ……信用、出来る人の行動かね」
『風紀特別執行官が武装したのナーンテ、ガッコーの歴史でも過去何度もナカったんデスヨー♪ 私たちの出動も込みで本当に大変で、シタ!』
「……う……」
なかなか反論で空気を変えられる機会がない。
そこから、だが。
話が進展しない、そしてラチが明かないほど平行線なので、生徒会側の主張する動画を見ることになった。
あの、内出屋くん出動から二日経っており、ずいぶんと気絶している間に投下されたそれは、今現在で百万を優に超える再生をしていた。
「合成すげえ」
「素人が作った最初にしては出木杉!」
「スタッフ隠して公開した大国の監督のPVだろ?」
「背負ってる女エロ過ぎねえ」
などなど。
宣伝が行き届いていないと、どう考えてもこうはならない気がする反応が続々と寄せられていた。
ならば、下準備と内出屋くんが出動するのも計画のうちでこれが作られた……という疑惑が出るわけだ。
当人、または探検部が知らない前提なら、それを知られず漏らした関係者と周到な準備がいるだろう。
グル、または探検部のやったことならそれが一番納得しやすい。
内出屋くんだって客観視すればそう思う。
そのうえで彼の考えで一番納得しやすいのは、やはり…あの彼女が、この動画のために出演しに来た可能性。
それにしては、ずいぶん痛めつけられていたが。
そしてもう一人…。
書類を預かってて隠しているのが確定だろう顧問!
あれを引っ張り出さないと、やはり話にならない。
「とにかく、怪しすぎる探検部の顧問を俺からも問い詰めたいのですぐ呼んでください」
結論。
探検部側から出せるのはどうあってもこれしかない。
「固執しすぎるのは美しくないですねぇ」
『ソモソモ、動画投稿者がキミ本人になってるのについてセツメイがまだナイヨー?』
「倒れてて投下できるわけないでしょう!? 何個もカメラがあって編集してさらにあの日当日の深夜って、俺と思い込めたらむしろすごいなあ!」
「だいぶ口が回るようになって、攻撃的になりましたね探検部」
「濡れ衣に怒って何が悪いか!」
「当人でなくても、当人が目立つために関係者と結託した可能性、校内に届もなく無断で留まった件、校外の関係者でないものの無断侵入の目撃か入場ほう助に関して未だに弁明がない点、僕から見て完全に…」
「完全に?」
「黒です」
「ふざけないで欲しい!!」
全く会話に歩み寄りはない。
どっちかが折れない限り、粘るつもりなんだろうか?
そう思っていた時。
電話の音がした。
「ハイハーイ? 問題?呼び出し?お前誰?」
ずっと踊ってる感じの会計補佐の彼はいったい何のために居るのか。
程なくして、その電話を副会長に渡す。
何のためにあるのか、固定電話である。
「………あなたですか…はい、は…はい…………仕方ありませんね」
何やらオーラが弱い。
何と話しているのか。
「………釈放です、探検部」
「私に断りなく!?」
『キューテンカイダヨー♪ 何が起きたノー?』
「理由は後から、今は…即時釈放です」
何かは知らないが、内出屋くん、助かった模様。
「それにしても、ここの内線番号なんてどこから聞いたのですか、場所は今も知らないままでしょうね?」
慌てている。
副会長の普段からすると、相当珍しいに違いない。
周囲の反応も、唖然とした様子が隠せない。
そして、その様子のまま電話が切られる。
「釈放はします」
「早くカギを外せ」
「ただし、執行部として、君を信用する気は全くありません……騙されたというなら、動画の投稿者と、あの女性をすぐに探し出して私たちのところに連れてくるか情報公開しなさい」
「義務ではないでしょう!?」
「今まで見逃してた分もあるんです、忘れないで欲しい…1週間以内にこちらの命令を達成できなければ、退学も私の権限であると思っていただきたい」
「牢屋よりもっととんでもねえよ!」
とんでもない話を振られた。
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