私たちの学園のアピールポイントは「現代ダンジョン」です
@kokoyomou
第1話 はたらく探検部
教員同伴以外での立ち入りを禁止
生徒会の許可証なき立ち入りを禁止する
封鎖区画
必ず届け出をしてから入ってください
夏休み中は立ち入り禁止
転がった看板。
空しい、その押し倒されたような、抜かれたような看板たちが目立って目に入る。
内出屋貴澄(うちでやきすみ)、入学して初々しさがやっと抜けたこの高校生には、もう感慨すらない光景。
すべては、今見ているただ一人の存在…内出屋くんが書いては立て、執行部が根拠ないいたずらと切り捨てて撤去またはその場に捨てたりした歴史たちである。
そして最新のものが侵入の邪魔するなと言わんばかりに倒されているその状況。
今回の捜索対象、本人がやった可能性がとても高い。
一応確認として、さらにゴーグルの暗視センサー、凹凸の精査とAI補正をかけて足跡を探る。
「……やっぱりここまでは確認してからの呼び出しか…クッソ顧問めえ」
聞こえるはずのない悪態。
言いながら、奥に続く足跡は日数的に、すぐわかるものは一つだけだ。
入り口近くでいくつか違う足跡が引き返しているのがわかる。
ここじゃないっぽいですよという、やる気のない調査報告は即時に却下してくる下調べであろう。
人命が大事なら先に自分で行っとけ、と常々思わされるが、ある意味で役割分担が大事なのも理解して複雑な内出屋くんである。
そうして、念入りな確認をして、D棟に侵入していく。
手にはガストーチ、腰にナタとカード装備、すぐ取り出せる胸元にメス、折り畳みナイフ、トーチライト付きヘルメットもしっかり装着。
「んじゃ、おじゃまします」
内出屋くん、倒れたいくつもの看板を乗り越えて侵入。
サーマルセンサー確認。
異常熱量なし。
床確認。
靴跡の方向を改めて確認。
迷うことなく奥に向かっている。
事前に、帰りに救出した人間を背負って出る場合を想定し、ツタなどはトーチで焼き切って横によけて道を広く取っておく作業も怠らない。
悲しいまでに、経験が生んだ成果というべき行動だ。
これでも、以前から何度か分けて処理しているからスムーズであるが、時間はかかる。
「2週間あれば妙に伸びちゃうからなあ…あの人たちはサクサク処理できるけど、こっちは駆け出しなんだっていうのにほんとに全く……」
切断、刈り取り、処分を実に手際よく繰り返し、先に進む。
「また草にやられてるな、本当、どうしたら固定できるんだか」
その合間、横に敷かれているコードを目にして、思わず愚痴も出る。
一応、何度も歴代探検部が明かりを設置しようと試みてはいる。
この先にある旧暦図書館と呼ばれる施設まで電気を通すのが、探検部の悲願のひとつであるからだ。
だが、途中のあらゆる動植物らしいきものが、それをすぐに切断する。
また今も一つ発見され、交換と点検のやり直しが確定した。
悲しくもなる。
そんなものも確認しながら、作業と途中の部屋などの区画を一つ一つチェック。
「……後方確認、よし」
と、新人の頃に教わった手順を生真面目に今もやる自分が、何気に恨めしい内出屋くん。
何人もいたら、絶対やらないと決めてはいるが、命がかかっているから欠かせもしない。
そうしてから眺める、ひびの入った石壁のがらんとした部屋。
ライトで一応見回すが、人の隠れられる場所も形跡もない。
少なくとも地下3階までは一度自身の目で踏破しているので、軽口もまだ叩けるレベルのこの調子。
見落としがないかの再確認程度である。
「12部屋目ペケ」
タブレットのダンジョンマップをクリックし、見た個所を埋めていく。
足跡で追えはするが、手順ではあるし、知らないトラップで移動していた例もあるので、思いのほか内部での足跡は当てにならない。
しらみつぶしのほうが早く見つかるのも、また経験からくる、アレだ。
「1階完了しちゃうか…体力あるなぁ今回の子は」
3時限目の前の休み時間に呼び出され、準備からの探索なので、とっくに昼は過ぎ、授業はもう終わっている時間だろう。
ふと起きるむなしさ。
「……帰りたいなぁ…お日様があるうちに、明るい時間のうちに帰りたい…」
宿泊許可までは絶対拒否というものの、区切りもなく変えるのも、当然だがしにくい。
内出屋くんとして予定外でないうちに、早く見つけるのが理想だが、どうにも悪い予感のほうが当たりそうな気がさらに増す。
「出てくるなら早くして帰らせてくれぇ~」
足跡も同時に見て、直前ほど新しくないそれを見ながら声かけも、たまにする。
当人からすると、気だるい以外の何物でもないようだが。
「なら、すぐに帰られることを、わたくしは希望します」
「……?」
返事だ。
「いるんなら早く帰りますよ! 危ないですし本来立ち入り禁止ですよここ! 先生に内緒にしますから早く出払ってください」
口から出まかせにもほどがある。
しかし、早く帰りたい内出屋くんには真実こそどうでもいい。
そう言って、後ろの聞こえてきた方向を確認しようとした。
探索に挑み、学校内のダンジョンで探し人をしている探検部。
通称、探検部。
正式名称『学園未踏区域探索および捜索部』。
そしてその部員、内出屋くん。
思うより早い段階で人の声を聴き、安心して確認作業に入ろうとしたところだが。
が、そこには…。
意外なものを目の当たりにした。
「残念だが、探し人はあきらめていただきたい」
「……残念とはちょっと違う気持ちなんですが、いや、それより…」
「お願いではなく警告しているつもりです」
「いやあの結構近くてびっくりというか」
「そちらの探し人に関しては、命だけはとらない形で数日後に無事送り届けます…ですから、探検部にはこのままおかえりいただきたい」
「……いやあの……すっごいパンツ丸出しです……が…」
女性らしい声。
少し学生服よりは露出の高そうな服。
何かのユニフォーム……には、みえない。
それが、真後ろの、結構近いところに音もなく立っていたらしかった。
しかし、少しだけ違うところがある。
コウモリのように、天井に足をつけてぶら下がっている。
そして短めなスカート。
そう、白いところが丸見えである。
服も髪も黒くて、額と口元を覆う布までは黒系の統一なので、ともすれば、見せたくてやっているようにすら見える。
注意を向けて、その隙に何かするために、あえて…?
ここの天井も高くないので、また、角度的にも見やすい、というか、目につくところがちょうど白いのも、内出屋くんからして動揺すべきポイント。
「い、言いましたからね!帰りなさい!問題があるから言っているので、本気ですから!」
「こっちも、そういわれても強制力があってやらされているので、それだけでにこやかに了承できませんよ?」
ちょっとは話をする気は見せたが、パンツは言うが早いか、すぐに出口のほうに即ダッシュして消えていく。
やはり、多少は恥ずかしくての行動なのか、それとも最初から決めていた行動なのか。
「馬鹿ぁっ!!!!」
内出屋くんには、判断が全くつかなかった。
……言い捨てられた一言で、わかる人は多い気もするが。
「しっかし…ずっと天井歩いてたのかな…サーモにかからないのはいいとして、足跡の検索にかからないためだけでやるには珍しい手だな」
学内なのか学外なのか、直接的な警告が来るというのは、正直問題以外の何物でもない。
とはいえ、内出屋くんはそこを気にも留めずに進んでいた。
他と揉めるのは日常茶飯事だと思考を投げ捨てているから。
世捨て人かというレベルの精神構造ではあるが、過去からすれば致し方なし。
「……確認項目で1階完了しちゃったよ……」
気が重い。
それとしか思えない口調で、階段へと進む。
バッグから改めて荷物を確認、取り出す。
出すのは、銃。
S&Wのボディガードと呼称される銃によく似ているが、モデルガンだと言われて渡されている。
入部ついでに何やら誓約書を書いた気がするし、タマがどう見ても実銃臭いのだが、気にしないのが自分のためだ。
ここから先には必要なので。
そして降りる、2階。
降りてものの20秒でそれがぶっ放される。
「マガジン明らかに足りないじゃないか!」
見積もりの甘さがいきなり声に出る。
「……ったく、タカアシモスフグダケが階段横に生えるのかぁ、無事かねえ本当に」
捜索対象が五体満足か、不安が先に来る。
探検部の今までの範囲であれば、経験上では大きなけが人はいない。
救出対象には。
今回も、邪魔をしに来たとわざわざ言いに来てくれた白い…何かが白い人が無事に返す予定とおそらくニュアンス的に言っていた以上は、死ぬような状態でない確認はあらかじめしてくれている。
たぶん。
なので、自分のために。
あくまで、自分が泊まりを決め込むほどの時間をかけないように急ぐ。
それだけ。
内出屋くんにとってはそれだけだと思うの……だが。
なるべく早く確認しないと、という気持ちはどうしても、なぜか付きまとう。
当の内出屋くんだけは、そこが不可解に感じるらしく。
「この調子だと、岩どもも集まるなぁ」
と、言いながら特殊警棒を腰から取り出し伸ばす。
内出屋くんの想像通り、打ち抜いたタカアシモスフグダケの香りなのか胞子なのか、それにいろんなものが寄ってくる。
だったら無視したらいいのだろうが、これは自分で動きまわるので砕くしかない。
さらに胞子などで最悪死ぬので寄らせるわけにもいかない植物類は複数いて、さらにそれが、他の物を何かしらで引き寄せる、それ。
2層からの難易度の高さの主要な原因でもある。
「いや、虫類は少ないなら…捜索対象が近くだとしたなら安心感は増すか…?」
対象を食い荒らして集まって、その勢いで向かってくるなら数が多い、そうなったら絶望だから……という、ちょっとした願望も入り混じる感想。
動く、寄ってくる岩のようなものを警棒で散らしながらまず所定の中継地点へ歩みを進める。
たどり着くのは、玄室前待機所とマップには書かれた広場。
基本、武器を持たない一般生徒は入り込める限界がここと認識されている場所でもある。
内出屋くんも、フル装備で初期に到達できたのはここまでであり、先輩の一部の記述以外そこから延びる通路すべては解明されていない。
後々出てくるであろう、異暦図書館への道のみがマップとして記述されているだけだ。
そこで、改めて複合センサーで足跡などを確認。
異歴図書館への経路以外にも足跡があり、しかも新しい。
たぶんこれだ。
これで迷って捜索を探検部に頼まれた例は今年の間だけでもあったが、明らかに人の往来が多めなところは下を見てわかるので、ここに到達できる実力者はめったにこの選択は外さない。
途中で邪魔したアレが、都合がいいと別の入り口を使って閉じ込めたという可能性を見るべきだろうか。
と、言うわけで、そこを重点探索すべく内出屋くんが最終準備を行い、突撃。
…すると。
「……っぶな…」
そして即、と言うほどにわりとすぐ出てくる落とし穴。
キャンプで取り付けた命綱のワイヤーがなければ底まで行っていただろうか。
スマホでの状況撮影、後からのマップ追加のための位置撮影など所定作業も行い、さらに奥へ。
玄室の探索を複数…たぶん四つほど行ったところで……。
「いましたねぇ、よくこんなとこまでこれたもので」
内出屋くん、呆れていいものか、ほっとして気を緩めていいのか実に複雑。
「…………ぇ…だ…れか………」
対象も意識が存在するのを聞き、そこは内出屋くんも、心底安心した。
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