DAY 7

 ワープホールは繋がったが、直ぐにワープルームに入ることはできなかった。

 ワープホールはダークエネルギーと暗黒物質を、核エネルギーを使って圧縮・膨張することで作られている。ワープホールから放射能が漏れ出ていないか、検査を行う必要があった。

 ワープルーム内の放射能濃度が毎分毎に、測定され、記録された。また、放射能以外に人体な有害な物質がないか、ワープルーム内の大気測定が行われた。

 一週間、様子を見たが、放射能漏れや人体に有害な物質は確認されなかった。ワープルーム内は若干、気温が低い以外、実験開始前と比べ、これと言った変化は見られなかった。

 ワープホール完成から七日後、ワープルーム内への立ち入りが解禁された。

 日本とプラントがあるオーストラリアの東部との間には一時間の時差がある。日本時間の午前九時、オーストラリア時間の午前十時に、神崎とアーデーンのスタッフは揃ってワープルームに集まった。

 まだ強化ガラスで囲われた小部屋、ワープボックスに入ることはできない。

 ワープボックスのガラス越しに、ワープホールの前に神崎とアーデーンのスタッフたちが顔を揃えた。ワープホールの向こうから、アーデーンたちオーストラリア側のスタッフが手を振っていた。

 アーデーンは五十代。白人らしく、鼻が長くて掘りが深い。冒険活劇映画に出て来そうな精力的な風貌だ。鞭を持ったら似合いそうだ。

 神崎たちも手を振った。

 みな、笑顔だった。厚い強化ガラス越しで声は届かない。ワープルームの放送システムを通してオーストラリア側と繋がっていて、それで話をすることができた。

 神崎が問う。「アーデーン博士。ワープホールは安定しているようです。放射能漏れも確認されませんでした。一刻も早く、物質の移動実験を開始したいのですが、いかがでしょうか?」

「神崎博士。気持ちは我々も同じです。一刻も早く物質の移動実験を始めたい。ですが、予め定めた安全確認手続きを省略することはできません。今まで待ったのです。もう少し、辛抱しましょう」

 アーデーンの返事に、「はは。おっしゃる通りです。安全第一です」と神崎は笑顔で答えた。

「ワープボックス内の室温が周りより少し低いような気がします。こちらは初夏ですので、そちらは秋に向かう季節のはずです。ワークボックス内で空気が循環しているのでしょう。そちらの冷たい空気でボックス内の気温が下がっているようです」

「我々も気がついていました。安全確認が終われば、大気中を浮遊できる物質を流して、対流の状況を調べてみましょう」

「ええ。そちらで放出した物質が、こちらで確認できれば、ボックス内で空気が対流していることを証明できます」

「第一歩ですね」

「はい。人類の偉大な第一歩です。人類が月面を踏みしめた時の第一歩と同じくらい、偉大で大きな価値を持つ一歩になるでしょう」

「楽しみにしています」

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