誰がための荒廃~壊れた世界を壊れた彼女と歩む

此寺 美津己

第1話 マッチングアプリの誤った使い方

彼女は、テラスに近い2人がけの席に座っていた。

ほかにそれられしいひとは、いない。


キャスパスの片隅にあるここは、閉鎖されて、ここ1週間は、つかうひとはいないはずだけら、彼女に間違いないのだ。


それでも、ぼくはものすごく緊張している。



ぼくの足音に気づいた彼女が、さっと立ち上がった。


得物は、鉈、だった。

キャンパス内部のホームセンターでも売っていたから、そこで手に入れたのかもしれない。


ぼくは、反射的にバールをかまえた。


……お互い、それで安心した。

やつらは道具なんて使わないから。



「占いマニアのカオンさん?」


ぼくが、そう呼びかけると、彼女はおおきく息を吐いた。


「あなたが、マッチしたテツくん?」


「そうだよ。座っていい、かな。その…マッチングアプリを使うのは初めてで。」


「ほかにも誰かにあったりしてるの?」


「いや、そもそもなんで、いまだネットに繋がったるのかよくわかってない。」


ぼくは、カオンさんのまえに腰を下ろした。

汚れている…のはお互い様で仕方がない。


「では、出会いを祝して」

ぼくが水筒を取り出すと、彼女は、手を振って笑った。

「自分のがあるよ。お互いのものは大事にしよう。」



「ここも前は、学内でもおしゃれな所だったんだけどな。」

ぼくらの(確かめてないけど、ここを待ち合わせ場所に指定するくらいだから、彼女もここの学生なのだろう)通う大学は、キャスバスの郊外移転を、真っ先に行い、その後、少子化やらなにやらで、大学がキャンパスを都心に戻そうとした流れには完全に乗り遅れた。


周りにはろくに、店はないし、なんだったから山の中だった。


学内の売店では、ホームセンターとドラッグストアなみに、品ぞろえが豊富で、食事をとれるレストランも各所にあった。



だから、ここにい続けているのだけれど。


最初の一週間は、地獄のようだった。

原因はわからない。

ある種の病気、なのだろうと思う。


ひとが突然、ひとを襲い始めたのだ。

最初は事件として報道された。

だが、襲われたひとで、生き延びたものは、自分もひとを襲うようになって。


ネズミ算式に、数が増え。

ひととしての知能を失い、ひたすら人間を食い物として追いかけてくる。

“感染者”たちは、パニック映画にでてくるゾンビそのものだった。


だが、映画とかネットドラマのゾンビと違い、彼らの活動時間は、そんなに長くはなかったのだ。



理由は、腐敗。


腐った筋組織は動かなくなるらしく、彼らが活発に動けるのは、ほんの数日に過ぎない。



それでも、日本社会をズタズタにするには、充分だった。

水道や電気といったインフラは、とまり、バスも列車も運行をやめてしまっている。


まだ、ネットは繋がるので、ソーラーパネルなんかで充電しながら、かろうじてスマホは使えている。


だが、政府の公式なアカウントは、この騒ぎがひと月あまり続いたころから、ビタリと更新をやめ、沈黙が続いていた。


ただの学生であるぼくらだって、こうして生き延びているのだから、まさか全滅してるのたはないだろう。

そう思いたいが。


それとも、都心や人口密集地は、今回のような感染症によるパニックには弱い、とそういうことなのだろうか。



「よく、この状況下でマッチングアプリなんて試してみる気になったよね。」

イタズラっぼく、笑いながら、カオンさんは、水筒の水を飲んだ。

「言いたくなければ、言わなくてもいいけど、どこのコミュニテイ?」


そう。学内は、いくつものコミュニテイが乱立している。いずれも体育会系の猛者が中心となって、立ち上げた。

最初は、感染者ゾンビに立ち向かうためのものだったが、次第に食料や水の分配を仕切るようになり。

そいつが、役にたつかたたないかで、あの体育会系特有の上下関係を、押し付けるようになった。


息苦しさを感じたぼくは、生まれて初めて、出会い系アプリを使ってみた。


SNSは、デマの宝庫になっていて、もうまともにコミュニケーションがとれる相手はいなかった。


このゾンビ騒ぎを、政府の、アメリカの。そのほかあらゆる国々の陰謀だと、訴えるもに、一日中投稿を続け、それがパタリととまると。



ああ、こいつも死んだか、ゾンビになったのだ、と思う。


「総合格闘の」

と、ぼくが言いかけると、

「ああ、無敵会ね。」

と、カオンさんは言った。

「でもあなたは、総合、やってるようには見えないけど。」


「うん。最下層のほうでね。でも食べ物と水は分けてくれるし、暴力を振るわれたりすることもないんだ。」


「へえ。悪いとこではないのね。」


カオンさんは、ポケットから手札を取り出して並べた。

タロットに似ているが、枚数も札のデザインも違う。


それをシャッフルしてから、テーブルに並べた。


「……とりあえず、生きては行ける。せど話し相手が欲しくなって、マッチングアプリを試した、と。」

「それは、そのタロットみたいなのをなくてもわかるんじゃない?」

「で、ここのプロフのとこなんだけど」


カオンさんはスマホの画面をぼくに見せた。

iPhoneの最新型だ。次はもう出ないかもしれないが。


「世界が、どうなってるか自分の目で確かめたいひとを募集中。

これ。本気で言ってるの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る