第19話 会談

     ~とっつぁんの場合~


「ケンチは居ねえのかぃ? 仕方がねえな」


 オシタラカンは少しだけ困っていた。


 結局のところ、7の月13日の今日に伯爵である弟に会いに行くことにしたのだ。そこまでは良いのだが、ケンチとマーちゃんが家畜小屋から姿を消した。

 門衛をやっている教会騎士の話では、朝も早いうちから、出かけてくると行ったきりだというのである。


「あの野郎、抜け駆けする気でいやがるな。俺にも分け前を寄越しやがれってんだ」


 ソコルディは、早くも目に怒りを溜めている。彼は彼で、すごい杖(ひのきの棒サンダークラウドというらしい)をマーちゃんからもらえた所為せいで、あまり強くも出られないという事情があった。それでも思うところがあるのだろう。


「とっつぁん、取りあえずは俺とソコルディが一緒に付いていきます。デコはここに残った方が良い」


 この街まで一緒に来たメガシンデルは、そう申し出た。彼は最後まで付き合うつもりなのだ。普段から目が眠そうでも、階位金級のイケメンはやはりイケメンだった。


「酷いですよ。僕も一緒に行きます。いきなり殺されるって無いでしょう?」


 金髪の美少年である15歳のデコは、解体所の担当ながら強く主張した。本当ならオシタラカンには、こういう面倒なことに関わって欲しくないのが彼の本心なのだ。


「そいつも、仕方がねえ……皆んなで行ってくるか。弟にうらまれてるとかはえんだけどな。あいつが今は何を考えてんのかは分からねえ」


 本当に渋々しぶしぶという感じではあったが、一行はケンチ達を除く全員で、コレオシタロ伯爵に面会に行くことになったのであった。






      ~伯爵の場合~


「それ、どういうことなんだ!? 入り口が閉まっただと? 何で急に開いて、その後で急に閉まるのだ? 訳が分からんだろ!」


 こちらは所変わって、コレオシタロ城の2階にある謁見えっけんの広間でのこと。

 執事のハイノレが率いる闇人やみじん衆50名は、書庫の壁に今まで無かった地下への入り口を発見した、という報告を伯爵に届けていた。


 そこまでは順調だったのだが、いざ侵入してみると、今度はその入り口が勝手に閉まりだしたのである。


「広い螺旋階段でございました。それが巻き上がるように上に戻ってまいりまして、何人かはつぶされたものと思われます。再度開く方法も不明でございまして……」


 こちら側に取り残された配下の者の報告では、ハイノレを中心に侵入を試みた者のうちで、入り口が閉まるのに巻き込まれ死亡した者まで出たらしいのだ。

 生き残りがいたとしても、彼らはその先に閉じ込められてしまい、脱出してこれるかどうかは不明の状態だった。


「何ということだ……何故、今開いた。本来であれば、あの時計塔の仕掛けを作動させねばならんはずだ。それに……そうだ、湖に変化は起きたのか?」


 城に変化が起きたのであれば、湖にも何か変化が起きた可能性がある。伯爵はそれをたずねたのだ。


「それなのですが、昨晩に湖の調査に出ていた者達がようやく報告に参りました。何やら化け物が出たそうでございます」


 伯爵の質問に答えたのは、脇に控えていた騎士の1人だった。

 彼の聞いた報告によれば、怪物の姿は見えず、水が身体から滑り落ちる様子で、ようやく大きさが分かるような相手であるらしい。

 この存在によって、200名の調査隊は半分が負傷し、残りの半分は前後不覚の状態におちいったとのことだった。


「燃える剣を振るい、それで湖の水が熱湯になったそうです。火傷やけどひどい者がおります。それから、むごい状態の少女の遺体を投げてきたそうです。私も確認しましたが、両目からまで血が流れ出ておりました……」


 それを聞いた伯爵は言葉を失った。そんな存在は伝承に無いからだ。だが、遺跡の兵器が一時的に動き出した可能性もある。それなら偶然で片が付くし、残された財宝に期待も出来るというものだった。


「……それで、前後不覚になった者共はそんなに多いのか?」


 伯爵としては、これだけは聞いておかねばならないだろう。


「それが、少女の遺体と怪物を見て錯乱さくらんした者と、今朝方に旧時計塔で昏倒こんとうした者がおりまして……原因は不明ですが、皆がおびえております。眠りの術などではないそうです」


 配下の騎士の報告によれば、昏倒こんとうした者達は皆が飢餓きが状態に近かったとのことだった。


「それは、時間的にはピッタリであるな。其奴が活動を停止したから、扉が閉まったのかもしれんな……とにかく扉をどうにかして打ち破るのだ。お主ら全員でだ」


 コレオシタロ伯爵は、その場にいる者にそう厳命した。執事のハイノレが居てくれないと、本当に心細かったのだ。






    ~伯爵家の兄弟の場合~


「伯爵様、オシタラカン様がお見えになられました。お通しいたしますか?」


 部下達を下がらせた後の事、城のメイドがそう伝えて来た。伯爵の兄であるオシタラカンが来たというのだ。


「今朝に聞いた件であるな? よかろう、通してくれ。しばらく人払いを頼む」


 伯爵が兄と会うのは23年ぶりのことであった。彼自身は別にオシタラカンの事を嫌っているわけではない。

 彼の兄からは、困った事を言い出した妹の面倒を見るのだと言われ、勝手な事をして済まないと泣きながら謝られた。お前の方が相応しいから伯爵家を継いでくれ、と告げられた時には、兄妹にめぐまれたと思ったのは伯爵の方だったのだ。


 そんな風に懐かしく、伯爵が生き別れた兄妹の事を思い出していると、当人が謁見えっけんの間に静かに重々しく入って来た。

 相変わらずの大きさに、昔はあの背中を追いかけたのだと思い出した気持ちは、わずか数瞬で消滅した。

 

「兄上! その後、お変わりはありま……嘘だ!? あ、兄上、い、一体何があったのです?」


 23年ぶりに会った兄オシタラカンの頭部は、予想外にツルッツルであった。本当に1本も生えていなかったのだ。


「懐かしいな、ダーレム。皆んなに聞かれんだけどよ。こいつぁ店の女の子から、こっちの方がカッコいいって言われてったんだ」


 のほほんという感じで返ってきた言葉に対して、伯爵はそれに返す台詞を探すことに苦労した。彼の兄は昔からこういう男だったのである。


「兄上、あなたは……どうして貴方あなたは何でもそうやって、平気で捨てておしまいになるです!? これ▪▪だって大切な物のはずだ!」


 最近、薄毛が気になり出した伯爵は、本当に久しぶりの再開に際してそうぶちまけてしまった。



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