第8話 合流しました

 ぞくの方は、それでもまだ14人は残っているようだ。

 

「後は任せとけ! 俺達がちょちょっと行ってのしてくるぜ!」


 オトクカンとフェイタールは、箱車を降りてぞくの方へと殴りかかり斬りかかった。

 俺の方も黙って見ていられない。こういう時は投げナイフも投擲とうてきし放題なのだ。


 こちらに駆け寄って来たのは10人だが、2人はすでにメガシンデルのトンファーで叩きのめされていた。正確に言うと『ひのきの棒ガードマスター』だ。


「おらよ! ハハハハッ 手が全然痛くねえな。これ後で作り方を教えてもらいてえぜ」


 オトクカンは相変わらず強かった。こいつは昔から喧嘩ケンカ番長で、今でもそれは変わらないらしい。マーちゃん特製の手袋をはめた手で、相手のかぶと陥没かんぼつさせながら1人を殴り倒すや、もう1人の腕を折ってからスープレックスで投げていた。


 フェイタールはと言えば、1人の相手の頭部と振り上げた両腕をまとめて斬り飛ばしてから、もう1人の方は縦に割って仕留めてしまった。

 長剣をながめながら首をひねっているところを見ると、余程よほどに切れ味がすさまじかったのだろうと思う。


 残りの4人については、3人が側頭部からナイフを生やして息絶えた。1人はクロスボウの太矢ボルトが額から生えている。デコが当てたのだ。


「終わったみてえだな……デコ、とっつぁんの所に行ってきな。マーちゃん、遺体と気絶してる奴らを回収して来ようぜ」


 相手の人数は多かったものの、終わってみれば本当に呆気あっけない話だった。






「ミサイルの効果は予測通りだったのだ。これなら小規模集団には最適だな。採用したのはデジコルノ家だったか……技術情報が流出していないことを祈ろう」


 俺とマーちゃんは、散乱した遺体の検分けんぶんを行っている最中だ。

 ミサイルをぶっぱなしたのは、実地試験に丁度良いということもある。連中には悪いが、今回は効果を測定するための標的になってもらった。

 ちなみにマーちゃんは、光輪も翼も出した状態で光も周囲にはなっている。


 フェイタールやデコは、其々それぞれの会いたい人たちの方へ行ったところだ。


「マーちゃん、状況はどんなだい? 鹵獲ろかく品と標本が増えりゃもうもんじゃねえか?」


「30名が死亡、24名は気絶と怪我けがというのが相手の状態なのだ。鉱山にもらいたい。実験にも使う。確かにもうけだ」


 うちのトカゲ姉さんにいどんだらなら、倒すか逃げられなければ死体も残らないのだ。それがこちらの流儀りゅうぎだとは死体にしか教えてやれない。


旦那だんな様は正しかったようだ。ケンチさん、あなたはあの時から、頭上の御方おかたと一緒だったのでしょうな?」


 そう声をかけてきたのは、グルジオ・ジットナー執事だった。

 革製のズボンに革ジャケット、アメリカ西部にいたカウボーイのような鍔広つばひろ帽子がおそろしく似合っていた。こんな風に年を取りたいという見本のようなイケオジだ。銀色の長髪と口の周りを飾るヒゲが渋い。


「ジットナーさん。あんたさんはやっぱりカッコいい御人おひとだ。おっちゃんには、この旅が終わったら伝えますよ。俺ぁ聖職者をやるしかねえらしいんで」


 絵に描いたように洗練された相手には、俺はとことん弱いらしい。この人は本物の騎士だったのだと思う。腰の長剣でぞくを斬り倒した腕前は、速い上に強いの一言に尽きた。


「ジットナー殿だな。マンマデヒクという。マーちゃんと呼んでほしい。今回はネーラーニ殿に頼まれたのだ。あなたのことを……」


 うちの御使みつかい姉さんは、魅惑のアルトボイスでおごそかに告げてくれた。これぐらいの迫力を出しておかないと、こちらも言い負かされそうだ。


殴打オーダ御使みつかい様ですな。長生きはしてみるものだ。この者達にとっては悲劇的な最後ではあるが、相手が貴女あなた様なら仕方がないのでしょう」


 使われる側の人間としては、この結末は確かにむごいことではあるのだろう。連中は命令されて犯罪行為に手を染め、おそらくはその為に失格騎士になったのだ。


「ジットナーさん。俺が同じ立場なら逃げるかめるかするぜ。あんたさんみてえに、金貸しの爺さんにつかえたっていいんだ」


 俺の立場としてはそう言うしかない。


「これは1本取られました。あなたもそういう男だった……。この者達のことは、神官殿と神の使いに頼むべきでしょうな」


 ジットナーさんの中では、連中のとむらいに関する話でまとまったらしかった。


 奴らの死体は、今の人間の世界が終わるまで腐らずにそのままだし、魂は輪廻のうちに戻っただろうから、その後は俺たちの知ったことではない。それらの件については、説明が面倒なので黙ってやり過ごすことにした。






「ケンチ、息子が世話になったな。こいつには言い聞かせたが駄目だったようだ。秘密にし過ぎるのも良くないらしい」


 ザンダトツ先生からはそう言われてしまった。

 

 周囲では黒クモさんが死体と生きているぞくを全員収容し、ついでに爆発で掘り起こされた街道を元に戻していた。

 うちの角猪ズも、いつも暮らしているフロアに戻されたところだ。


「俺の方も黙っていたことが多いんで、それについちゃ何も言えませんがね。先生、連中が狙ってんのぁ、奥様の持ってる印章だってことらしいですぜ」


 マーちゃんは、その場の全員に自己紹介も済ませて、街道の様子を観察しながらソコルディにひのきの棒の使用感を聞いていた。


 ここは街道ではあるが、国境ではなく南のコレオシタロに折れた側だ。往来おうらいにぎやかになるのは秋も深まって、食料が西側から南側に送られる様になってからになる。

 コレオシタロは工芸品や畜産は盛んだが、乾燥の所為せいで穀物の生産は上手くいかない土地が多いと聞いた。


 さびしい方の街道だからソコルディはあのままだったし、野盗じみた刺客どもは堂々と襲撃も出来たというわけだ。


「ドナの本名を知っているのだな。黙っていてくれると助かる。コレオシタロで何が起きているのか、我々は確かめに戻らねばならないのだ」


 先生がそう言うからには、先に出発した4人全員があそこの関係者だということになるだろう。もちろん、余計なことを言いふらすつもりはないが頭の痛い話だ。


「もちろん余計なことは言いませんや。知らなくていい事が多いのぁ、充分に分かっちまいましたからね。ここ最近で……」


 信じてもらえなくても、これが今の俺の本音だ。マーちゃんと付き合うというのは、こういうことなのだ。


「ケンチ、おめえは余計なことはやってくれたぜ。デコを連れて来やがって。こいつに何かあったらどうしてくれる!」


 オシタラカンのとっつぁんにはブリブリと怒られた。

 

「そう言われてもよ、オトクカンとフェイタールが一緒に連れてきちまったんだ。こいつだけ置いてったら、この先の仕事に支障が出るじゃねえか!」


 俺に言わせれば、これはとっつぁんの責任ではないかと思うのだ。



====================

※デコ:15歳

透視の術

重量軽減の術

怪力の術

浮遊の術


デコは解体担当としては、エリートと言ってよい才能の持ち主です。透視で内部を見て、

浮遊と重量軽減で自分と対象を浮かせ、怪力で困難な部位も斬れます。これに拡大視や鑑定があれば一流と呼ばれるでしょう。


※お読みいただきましてありがとうございます。この作品について評価や感想をいただければ幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る