第4話 参戦

「グラツィアーナ先生! 出場手続きを取って下さいぃぃぃぃ!」


 飛行中のグラツィアーナ助祭様に対して、勇気ある衛兵から門を越える際の注意が投げかけられた。

 アレは東門の衛兵であるアゴスゲーノだ。あの男には、後で金一封きんいっぷうを出さねばならないだろう。ファインプレイ賞ってヤツだ。それに物凄くデカい声だった。


「助かったみてえだ。メガシンデル、もうしばらくしたら屋根から降りられるぜ」


 俺たちは時速60キロで進んだが、分速1キロだから100メートル進むのに6秒かかることになる。背後の騒ぎは18秒もかからないで終息したらしい。

 おそらくグラツィアーナ助祭様は、渋々しぶしぶという感じで地上に降りたはずだ。後方警戒中のマーちゃんからは、脅威きょういが去ったむねのハンドサインが出た。

 箱車ベイブレーダは、取りあえず3キロメートル進んで停車させた。

 メガシンデルの奴は車内に入る暇が無く、ずっと箱車の屋根にしがみついていたのだ。


「ケンチ、助かった。ところで何処へ行くんだ? 正直なところ、今から街に戻るわけにも行かない。良ければ付き合うぞ。仲間には途中でしらせを送る」


 金級エリートの回復担当であるメガシンデルは、突如としてそんな事を言い出してしまった。


 俺としては「そりゃ遠慮してえ」という顔で、デコの所から戻って来たマーちゃんを両腕に抱え、ちょっと待てという仕草を返すしかない。いきなり言われても、フェイタールやオトクカンにも聞いてみないとならないだろう。


「メガシンデルさん! これから皆んなで、コレオシタロに行くんです」


 などと、デコの奴は嬉しそうに奴の所に駆け寄ってしまった。そりゃ探索者としての信用度も違うだろうよ。


「ハハハハハハァ、メガシンデル、相変わらず追われてんだな。もう諦めた方が良いんじゃねえか?」


 オトクカンもこういう部分は意外と無神経なのだ。俺もそう言おうと思っていた。


「メガシンデルか? 済まない……家庭の事情というヤツなんだ。ケンチには行き先が同じだったので協力してもらった」


 金髪ロン毛で、茶色い目のイケメンであるフェイタールはそう返していた。ここに居るのは俺以外の全員がイケメンか、将来的にそうなりそうな奴しかいないのだ。どうなってやがると言いたい。


 トントンっと肩を叩かれたので振り返ってみると、黒子さんが背囊はいのうを持ってそこに立っていた。

 うちのトカゲ姉さんが、俺の両腕の上からうなずくと、黒子さんはそれをメガシンデルの奴に渡したのである。


「黒子さん、ありがたい。着替えまで用意してもらえるなんて。弁当と水筒まで……武器はひのきの棒ガードマスターを持ってきてあります!」


 これで、メガシンデルの奴も一行に加わってしまった。座席はいてるから良いだろうとは思うが、街に帰ったらどうするか相談しないといけない。

 

 こうして俺たちは、偶然にも頼りになるメンバーを追加して、ザンダトツ先生達を追いかけることになった。

 グラツィアーナ助祭様に対する結界けっかいについては、後でメガシンデルと新しい構成こうせいを考えなくてはいけない。俺は巻き込まれただけだと、今でもそう信じているが、奴の次が俺であることもまた必然というモノなのだ。






 最初の45キロメートルについては、あっという間だった。

 サイボーグと化した角猪ズにとっては、3時間走行というのは余裕であって、時速15キロを維持したまま整備された街道上を進んでしまった。

 丁度良い時間なので、ここで休憩しようということになったのだ。


「ずいぶんと速いな。これなら今日中に父達に追い付けそうだ。それに、中から前が見えるのは不思議な仕掛けだった」


 意外なことに、デコだけではなくフェイタールも少し楽しそうな様子だった。外部観察用のディスプレイについては、詳しくは言えない箱車の機能だったりする。


「出る前にも言ったが、中についちゃあ秘密にしておいてくれ。神々がそうせよとおおせなら、国の重鎮じゅうちんがくたばってお仕舞しめえだ」


 一応は釘を刺しておかないとならない。頭上のマーちゃんに手をやりながら、フェイタールにはそう伝えておいた。


「メガシンデルは驚いてなかったけどよ、俺も余計なことは聞かねえよ。死ぬ前までには教えてもらえそうだしな」


 弁当を食いながら、オトクカンの方はそんな事を返してきた。こいつは口が固いから大丈夫だろうと思う。


 メガシンデルの方は、いつもの眠そうな目をチラっと向けてきてそのままだ。このクソイケメンめ。

 

「うワッ! 人が! ソコルディさんじゃないですか? 大変です~」


 微妙な空気になっていたところで、食事を早く終えたらしいデコの悲鳴が上がった。

 あのダメ召喚士は、ここには居ないはずの男だ。


「「「「 ソコルディ! 」」」」


 街道脇の地面が緩くなった場所に、最近までご近所さんだったソイツは倒れていた。

 全員が顔見知りだったものだから、状況は不明でも状態の方は理解出来てしまった。


「ケンチ、取りあえずキズを洗い流さないといけない。施療院に担ぎ込まれてくるいつものソコルディだ……」


 とにかく危なそうなので、メガシンデルと協力して治療しようということになった。水を出す術というのが無いのはうらめしいが、そこは黒子さんが出てきて何とかしてくれた。湧水ゆうすいの術って俺もほしい。

 黒子さんは普段は居ないはずなのだが、何故かデコも、商店街組も不思議に思わないらしいのだ。


「黒子さんが居てくれて助かったぜ。打撲傷と切り傷だけだ。骨折は何とかしたが、内出血はどうなんでぃ、メガシンデル?」


「見た感じ無さそうだな。透視出来る範囲には無い。脳は……細かい部分は分からん。呼吸が安定しているし様子見だ」


 傷口は洗われ、骨折は繋いで、切り傷は塞いでおいた。メガシンデルの診断では、注意すべき内出血の方も無いとのことだ。

 そういうわけで、フェイタールの奴には悪いが、ソコルディの意識が戻るまではここに居ることになった。


 こっそりとマーちゃんに見てもらったが、やはり脳や内臓に問題は無いらしい。

 そして実際に、ソコルディの意識が戻るまでそれほどの時間はかからなかった。


「クソッ、ここはあの世じゃないな。知ってる顔が3つで、むかつく顔が2つだ。俺だって夢を追ってんだ。何で俺には与えられないんだろう……」


 目を覚ましたソコルディの第一声はそれだった。

 俺に言わせると、こいつは『雷撃』や『召喚』や『湧水』だって持ってる後方支援として優秀な男だ。魔法の神の信徒として、俺よりも恵まれているように見える。ダメなのは運と性格だけなのだ。


「死んでねえのぁ重要だぜ。ソコルディ、ここぁ商用街道のど真ん中だ。何があったか聞かしてくんねえか?」


 この状況では、取りあえずそう聞くしかない。



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※ソコルディ・ロイマスタ:25歳

光源こうげんの術

湧水ゆうすいの術

空歩の術

抗術レジスト

遠見とおみの術

雷撃の術

召喚の術

重量軽減の術


※お読みいただきましてありがとうございます。この作品について評価や感想をいただければ幸いです。

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