第28話 司教ズの来訪3

「使徒ケンチ、御使いマンマデヒクよ。本日ここへ来るのは、カーンディクト・ドレとパウディーノ・マレニバズルの両司教になる。両者共に碩学せきがくと言われる人であるゆえ、何かお伝え出来るかもしれん」


 ダガ補佐司教からは、事前に2人の司教についてそういう紹介があった。

 そう言えば、ダガ補佐司教だけはまだ壮年そうねんといったところだが、2人の司教はもう老人と言って良い年齢のはずだ。


「礼拝堂は転移で移動してくる為の部屋があってな。どうせだから、こっちから向こうに顔を出しに行くか? 現物を出すにゃあ広い場所の方が良いだろ?」


 今回は俺の方から色々と見せたい物もあるのだ。デチャウ司祭様の提案は、ありがたく受け入れさせてもらうことにした。


 マーちゃんは姿を消し、俺と司祭様とダガ補佐司教は、3人で連れ立って礼拝堂まで静かに移動した。






「まだ3ヶ月程しか経ってないが、本当に懐かしいな。実は司祭位をたまわった。エランダラの件も礼を言う。今は聖都で全員が守衛をやっている」


 驚いたことに、司祭になってしまったロスナッシがここに来ていた。マレニバズル司教の御供おともというやつだろう。


「おめでとう。教会でやってく方が似合ってるぜ。こういう口のきき方は不味いか。ロスナッシ司祭様、ご無沙汰ぶさたしとります」


 位階というのは大事だ。俺はそう言って頭を下げた。


「使徒よ、気にする必要は無いぞ。あなたは教皇猊下げいかより神のご意志に近い場所におるのだ。お役目をまっとうされよ。

御使いよ、お初にお目にかかります。マレニバズルにございます」


 ロスナッシの後ろには、白髪白髯はくはつはくぜんの老人が控えていた。

 った刺繍ししゅうのある神官服に高い神官帽子のその人物こそ、聖都のパウディーノ・マレニバズル司教であるらしい。


 礼拝堂は完全に人払いがされて、ここに居るのはマーちゃんを含めても7名のみだ。転移の術を使う移送係はすでに別室だった。


 マレニバズル司教はマーちゃんに挨拶をして、もう一人の司教にも礼をした。


「御使いよ……カーンディクト・ドレにございます。今日まで、今日までこの国に居て良かった……私は法治の信徒でございますが、お会い出来て光栄に存じます」


 普段は国都『ジョッタ・ロ・カターデ』にある『シチィーナ・ガレ大聖堂』にいるドレ司教であるが、今日は転移の術でこの東部の街までやって来ていたのだ。

 意外に思ったのだが、ドレ司教はマーちゃんの姿を見て泣き出してしまった。


 法治の御使いと言えば、聖都にいるドラゴンである『法治ほうちのメズマリーニョ』が有名である。

 マーちゃんも見た感じはミニドラゴンと言えなくはないだろう。何しろ青いトカゲで、頭に葉っぱと光輪があり、背中に小さな鳥の翼まであるのだ。全体的に丸まっちいのは、逆に好ましい要素に映ったりするのかもしれない。


「ご両名とも初めてお目にかかる。マンマデヒクという。マーちゃん、と気軽に呼んでもらいたい。今日は聞きたいことがあるのだ。まずは食べてもらった上で、何かあれば教えてほしいのだ」


 うちのトカゲ姉さんは、いつも通りの挨拶から入った。

 今は殴打オーダの光が全身から放射され、粒子状の光までもが周辺をただよいながら空気に溶けている。神々こうごうしい、と言われればそうなのだろうと俺ですら思った。

 ちなみに12畳用のLED照明器具の明るさがあるので、全点灯の場合には横の方に浮いてもらうことにしている。






「やはりチョコレート味は至高と言わざるを得ない。これもまだ再現出来ていなくてな。原料を探しに行くのを手伝ってもらいたい」


 自己紹介の後は、マーちゃんの用事からということになった。ここは当然だろう。

 全員でお茶を飲みながら、カロリーフレンドの全てのフレーバーを食べてみることになったのだ。


 ロスナッシは、カロリーフレンドのチョコレート味についてこだわっているようだ。実はバニラ味も再現はまだらしい。原材料が無いから仕方がないとのことだ。


「私としては、チーズ味かポテト味だな。デチャウ司祭も同意見だそうな。聖餐せいさんの儀式に出したい」


 公国東部地区の責任者であるダガ補佐司教様は、甘くない物の方が好みのようだった。話に出たデチャウ司祭様については、酒のツマミにするならこっちが良いという理由に違いない。


「私としてはメープル味が良いが、バニラ味の方も捨てがたいのぅ。作り易いフルーツ味というのも良いのではあるが……」


「見た目は素朴であるのに、った味の物というのは滅多めったに無いですからな。これは国都で作って販売してもよろしいですかな?」


 2人の司教は完全に甘いもの派だった。


 俺が聞いたところによると、メープル、チーズ、フルーツ、ポテトの4つのフレーバーについては、生産が出来そうなところまで来ているそうだ。

 余談ではあるが、メープルシロップについては、北部に生えている『甘木』から取れる樹液で代用出来るとのことだった。


「ところで不思議なんだけどな。何でロスナッシの持っていったアレが、カロリーフレンドだって分かったんだ? そこだけは教えてもらいてえとこだ」


 気になっていることをロスナッシに聞いてみた。俺としては、コレがあまりにも早く認知されたことに違和感があったのだ。


「それはわしから話そう。実はな、聖人が持っておられたカロリーフレンドの空き箱が残っておるのだ。これは教皇庁の高位の者しか知らん事だ」


 俺の疑問には、マレニバズル司教様が答えてくれた。

 初代の上層部は、コレが再びこの世界にもたらされるまで、空き箱を公開せずに守り通すことにしたそうだ。


 あきれた話なのだが、不毛な議論が長い期間にわたって盛り上がる中、教会の上層部もその状況について無視を続けたのだった。


「これの製造に関して、殴打力オーダちからがわずかに残留している事には気づいたのだ。過去に別の品物で、似たような事例は起きていないだろうか?」


 ここでようやく、マーちゃんから質問が投げかけられた。

 全員が一級の聖職者なのだ。これを食べた段階で気がついただろうと思う。


 俺もマーちゃんも、何かあれば良いかなぐらいに考えてはいた。しかし残念なことに、これに関する前例は両司教でも知らない為、この現象を説明することは今の時点では無理であるとのことだった。



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もよろしくお願いいたします。

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