第26話 司教ズの来訪1

「マーちゃん、手紙ぁ司祭様からだ。予定通り明日にゃあ司教様がたがやって来るらしいぜ。ガンジオ・スカラ・ダガ補佐司教様はもうご到着だとさ。ユータヤロガからは距離があるが、一応は隣領だしよ」


 手紙の内容はマーちゃんに伝え、ついでに手紙そのものも渡しておいた。


「話す内容は私のことになるのだろうな。他にも色々とあると思うが、ケンチはどうするのだ?」


 うちのトカゲ姉さんの今回の質問はシンプルだ。

 マーちゃんとしては、カロリーフレンドに残留する殴打力オーダちからの影響に関して聞きたいのだろう。

 司教達はマーちゃんと直接会い、そしてやりたい事について聞きたいはずだ。


「俺の方からはな、岩塩鉱の件と、遺跡の技術情報の件だな。あとぁ隣の国のトマシーノさんが、この街に手ぇ出してきた件だ」


 俺の方は報告だけだと言って良い。大きいのが3件ほどで、それを金にえてくれるのは教会の仕事になる。

 今回、そっちの泡銭あぶくぜには全部を教会に出してしまうつもりだ。


「隣の国に出かける予定でもあると良いのだが。ケンチは面倒かもしれんが、正当防衛で片が付くかもしれんぞ。相手がこちらに、致死的な手段を行使してくれれば良いのだ」


 うちのカウンターアタック姉さんの意見については、以前から同じことを考えていた。実務担当者に消えてもらい、後は知らん顔をしておいても、勝手に何とかなるだろうという予想もついている。


「その辺は勝手に出来ねえからな。保有してる戦力を使いてえのぁ向こうさんだ。俺たちじゃねえ。必要のえ事をやらねえのが、マーちゃんのやり方だろう?」


 先走らないように、やんわりとお願いだけはすることにした。

 マーちゃんはやろうと思えば、ここから何かを飛ばして長距離爆撃を行うことだって可能なのだ。狙いは精密で、弾頭は何でもありなら何でも出来るだろう。


「私としては、融合強化兵のサンプルが増えるのは歓迎すべきことだ。隣国の兵士の装備が鹵獲ろかく出来ることも含めてな。高位の栄養状態が良い人間のサンプルも欲しいのだ」


 うちの人間調達姉さんからすると、連中は資源と等価値の代物であるらしい。

 神が隣人を愛せよとおおせになるのは、こういう行為の正当性を出来るだけ無くしたいからではないだろうか。


「マーちゃん、その辺は今後の展開次第ってことにしようや。相手をるのぁいつでも出来んだろう。

それと、教会の張り込みなんだけどよ。やっぱり続けてくれ。何かあったらヤバい」


 マーちゃんには、教会周辺の警戒を続けてもらうよう頼んで、その件についての話は終わりとなった。


 その晩は、スーちゃんと一緒に『おでん』を食べて飲んだ。夏だからって熱い物を食べないわけでもないし、このフロアについては季節感も無い。

 スーちゃんはドラゴンだが、こういったチマチマした物でも食べるし、大鍋に2杯半も食べて大満足だったらしい。り物がヒットしたらしく、魚河岸揚うおがしあげが特に気に入ったとのことだ。

 魚河岸揚うおがしあげとウォーガシャーゲの音が似てるなと、どうでもいい事に気がついてから、俺は寝ることにした。






 夜が明けた次の日は6の月7日だ。マーちゃんと出会ってから99日目になる。


「そんじゃ出かけるとするか。今日は普通に歩いて行くぜ。夏の神官服なら失礼にあたらねえだろうよ」

 

 今日は司教様達と面会する日である。昼前あたりに行きますとは行かない為に、俺たちは朝から教会まで行って待つことに決めた。

 半袖の神官服に着替えたら、マーちゃんが頭に乗るのを待って出発だ。

 アパートの扉の外には、ソコルディの姿は既に無かった。どうやらあの後で、復活してちゃんと自室へ戻れたらしい。


 ちなみに、いつもの鼻と口をおおうマスクなのだが、マーちゃんに白い物を用意してもらい、今日はそれを顔にかけていくことにした。これで顔面も涼しげに見えるだろう。神官服は青と白が基調色なので、組み合わせとしてはこちらの方が似合っているに違いない。


「今のところ、教会で不審な動きは無いようだ。ケンチ、途中までは転移の術を使用しても問題無いように思う」


 マーちゃんはそう言ってくれるのだが、今日の俺の考えは少々違う。


「ひょっとするとだが、教会の裏の連中が先に来てるかもしれねえ。そいつらは、魔法の気配に気づくかもな。出来るだけ手の内を明かしたくねえんだ」


 連中は聖職者だろうが、加護とスキルを失う可能性を持つリスキーな立場だ。それでも命令が下れば、何でもやる狂信者の一種でもある。始末するのは、最後の手段にしたいと思った。

 結局は、普通に教会まで歩いて普通に到着した。到着した時点で、黒クモさんの監視体制は解除してもらってある。


 マーちゃんの殴打オーダの光は全消灯で、俺は手ブラな上に丸腰で、ついでに防具のたぐいも何も着てない。


「まずは、司祭様にご挨拶あいさつするか。ここまで来ちまうと緊張するぜ。今後がどうなるかってのもあるしな」


 そういう感じではあったが、俺たちは教会の入口で司祭様に面会を申し込んだ。






「ガンジオ・スカラ・ダガと申す。使徒ケンチ殿だな。今日は会えて良かった。私にとっては喜ばしいことだ。これは殴打オーダの光だ。何故に信徒が理解出来るのか分からぬが、奇跡ゆえのことなのだろう」


 デチャウ司祭様の執務室でのこと。俺たちはここで、ユータヤロガ辺境伯領に赴任ふにん中のダガ補佐司教と先に面会した。

 ダガ補佐司教は東部地方統括とうかつという立場にあり、この公国の3人の高位聖職者の1人でもある。


「探索者をしとりますケンチです。本日は聞いていただきてえことがございまして。言葉が汚えのぁご容赦ようしゃくだせえ」


「事前には聞いていたが、ダガ補佐司教殿だな。マンマデヒクという。マーちゃんと呼んでほしい。実は、カロリーフレンドについて聞きたいことがあるのだ。現物もあるぞ」


 俺達は自己紹介をし、マーちゃんは姿を現して殴打オーダの光を全点灯に切り替えた。白いマスクはもちろん事前に外した。


「そう言えば、使徒ケンチは隣国の者と戦ったのであったな。実はアンサール・ロスナッシ司祭からも報告が来ておる。彼は聖都で司祭になった」


 ダガ補佐司教は、単刀直入に俺の伝えたいことに答えてくれた。

 この2メートルはあろうかという岩の様な補佐司教は、伊達に国境地帯に居るわけではないのだ。今は黒い目も険しい表情だった。

 非常に不思議なことに、マーちゃんの姿を見て逆に落ち着いてしまったような印象を受けた。


「その件と関係はあるのであろうが、セーイズィ・トマシーノ閣下は亡くなったようであるぞ」


 ロスナッシの奴が司祭になったと聞いて驚いたのだが、続けて伝えられた内容にはもっと驚いた。

 以前にブラバさんから聞いたような気がするが、キテルモントリサール伯爵はかなり素早く、思い切ったことをやったのではないだろうか。



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※新作:俺が吹き飛ぶと桶屋が儲かる

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もよろしくお願いいたします。

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