第13話 不老不死とは

※前話は閑話にしてしまいましたが、この第13話から元のストーリーに戻ります。


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 今日は地下住居の修復作業も終わり、マーちゃんも予定の採取作業を終えてしまった為に、シンデル先生の希望する質問タイムとなった。もちろん俺たちから聞きたいこともある。


 俺たちは前回と同様に、カマクラの横にある東屋あずまやに集まってちゃぶ台を囲んでいた。今回は俺とマーちゃんと先生の3人だけだ。


「それにしてもよ先生、よくこんなに良い状態の本が残ってんな。普通はこんな昔の本なんかはよ、ボロボロになってるかホコリになってたりするんじゃねえかな」


 シンデル先生の地下住居から、マーちゃんの為にフロアに運び込まれた本の束を見て、その保存状態の良さに俺は本当に感心してしまった。


「それはな剣や鎧に使うような『硬化の術』の応用じゃな。あの術も出来ることが多いのじゃ。収蔵室内を魔道具化したというところかの。じゃが虫除けは別に必要じゃぞ」


 幽霊先生の話を聞いて、さすがは古代文明の人だと改めて思った。

 この手の技術については国や教会が秘匿ひとくしたり、道具は販売するが製造は自分の所の設備と人間しか使わないというのがほとんどだ。

 こういった技術情報の発見で大金を得て、そのまま探索者を引退するというのは業界でも理想のコースだった。


「そういやみ上げポンプも自動のやつだったっけな。そんじゃ収蔵庫ぐれえはあっても当然か。前世じゃ蛇口をひねりゃ何とかなったんだが、こっちじゃ手押しポンプだからよ。うらやましいぜ」


 探索者用アパートというのは日常生活の中で身体が鍛えられるようになっているといううわさがある。

 やたらと重い引き戸、冬は寒く夏は蒸し風呂の様な石の壁、そして水を使う為には手押しポンプを激しい勢いで上下させなくてはならないのだ。


「崩壊後の衰退すいたいは思った以上じゃの。じゃが今はマーちゃんの所におるのじゃろう? 生前の記憶があるのも良し悪しじゃのぅ。それにの、設備の設計図じゃったら今日渡した中にも入っとるぞ」


 シンデル先生は気をかせて技術情報も混ぜてくれたらしい。

 だが仕組みのことを俺が知らなかっただけで、自動み上げポンプと劣化防止書庫の技術については教会と貴族達がすでに持っている。


 孤児達を不当な労働に従事させず、行政に関わる事務仕事を効率化させることはどこにとっても優先事項だったのだ。


「ありがとうシンデル先生。私にとっては初見の貴重な情報だ。そういえば私に聞きたいことはまとまったかな? 答えられることには答えよう。答えが解らないこともまだまだあるのだ」


 隣で浮いているマーちゃんが、そう言ってシンデル先生をうながした。そろそろ今日の本題に入らなければならないだろう。






「聞きたいのは単純なことなのじゃ。永く生きるとはマーちゃんにとってどういうことなんじゃろう? そして不老不死に欠点はあるのじゃろうか? これがわしの知りたいことじゃ。他は細かいことだけじゃな」


 シンデル・メイ元教授の質問は本当にシンプルだと思った。やはりというか今の自分の状態と、自身をその状態にした理由に関係しているであろう質問が飛んできた。


「これはあくまでも私の話だ。参考にならないかもしれん。先生、仮に9000ちょう年生きるとしても、そこで終わりが来るのならそれは不老不死とは言えん。私もそこまでは生きていないし、真の不老不死をまだ見たことがない」


 うちのエターナル姉さんは非情な時間スケールについて静かに話始めた。


「最初の1万年は良いだろう。だが100万年経てば、自分の一族は絶滅しているかもしれんし、進化して違う生き物になっているかもしれん。進化のことは先日の夜にお伝えした通りだ。

そのままで生き続けるという事は置いていかれるということだ」


 マーちゃんはそのまま続けた。彼女はどの時点で生まれた種族から離れたのだろうか。


「もっと永く100億年も生きれば、今度は自分のいる大地が滅ぶだろう。太陽と大地についてもご理解いただいているかと思う。

そしてそこから脱出したとしても、さらに永く生きるのであれば宇宙の終わりを超えてしまうかもしれん」


 うちのトカゲ姉さんが何故、観察対象を異世界かもしれないと考えているのか何となくだが分かった。

 同じ宇宙の違う惑星系である可能性だって無いわけではないのだ。

 しかし、新しく生まれた世界に繋がることが無くなれば、マーちゃんにはこの先、行ける場所が無くなってしまうこともあるかもしれなかった。


「マーちゃん、わしにはそこまでの先については想像もできんのじゃ。じゃがいずれ来てしまうのだけは分かる。それに言葉に出来ん未練もあるのじゃ。どうしたら良いかのう?」


 シンデル元教授は自分がどうして生き続けているのか、その動機について説明出来ないのだろうと思う。研究の為でもなく、何かを見極めたいという欲求も希薄になってきているのではないだろうか。


「先生、俺だって死にたくねえ理由なんざぁ持ってねえよ。生きぎたねえ奴だって一杯いるし俺もそうだ。気にしねえでこのままでも良いんじゃねえか」


 俺はシンデル先生の言うことがよく分かってしまった。やれるなら引き伸ばしたい時間だってあるのだ。


「シンデル先生、そういうことなら丁度良い物があるぞ。それならきるまで生きることも何とか出来るだろうと思う。

霊魂揮発れいこんきはつ防止服ヤルコ・トリスト100というのだ。自信作だ」


 うちの危険物開発姉さんから、シンデル先生の悩みが解決するかどうか分からない提案が出てしまった。

 仮に幽霊先生の未練が無くなり、やり残したことが片付いたとしても、それはその時にシンデル先生を解放してくれるのだろうか。


 シンデル先生は黙ってマーちゃんの言うことに耳を傾けているように見えた。


「他世界のソレキン・ノヨセ教授が作った物で霊魂揮発れいこんきはつ防止服4号というのがあってな。それが元になっている。それに特殊パッキンや偏光へんこう樹脂や鉱物生命体などを合成してあるのだ」


 うちの生命体合成姉さんが出そうとしているのは例の翻訳本にあった服のようだ。

 それを聞いたシンデル先生も心当たりのある顔になっていた。


 それにしても、マーちゃんの出してくるアイテムにはどうして生き物が混ざっているのだろうか。ダクトテープやトイレ用洗剤もそうだし、ゴキブロアーに微生物が混ざっている可能性を俺は考えてしまった。



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※私がキャラクターの名前を変な物にしている理由について、そのひとつが書いてあるエッセイ(1話完結)がありますので、ご興味がお有りの方は下記のリンクよりお読みくださいますと幸いです。

『オッサン化という進行性の不治の病』

https://kakuyomu.jp/works/16816927859252940923

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