閑話 大司教【祝12万PV突破】

※この作品を読んでくださっている皆様へ


直前の話に関しまして、会話に対する地の文の順序がおかしかった部分を修正しました。

また、バギクロスの名称を削除しました。

商業作品の名称を勝手に使用するのはやはり不味いと反省いたしました。


今回は11万PV突破記念ということで未来のお話になります。


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退けゴルァァァ! おめえらぁな、仕事でやってんのかもしんねえが、今回の件はやり過ぎだぜ! とっととサウランデルの奴を連れてくるか、そこを通しやがれぃ!」


 聖都ゴーリッシュゾウの教皇庁にある廊下でのこと、高齢の男性特有の低いながら凄まじい怒声がその通路に響きわたった。

 その声の主が怒鳴り散らしている相手は、特別に選抜された10名の教会騎士である。


 その廊下の突き当たりにある扉の反対側にて、その部屋の主であるサウランデル補佐司教はあきらめと苛立いらだちのため息をらした。


 内海北側の中部に位置するクルトスワロー王国が、隣国との国境であるスコッシホーレル山脈のふもとから奥を開拓したのは歓迎すべきことだった。


 しかし、開拓した領地に教会を置きませんというのは、ゴーリ教会として歓迎出来ない話だったのだ。


 そして、まだこれからという地域で領主として立った若い少女に、教会が直接的な工作を仕掛けたのはやむを得ない事であったが、色々と予想外のことが起きたのは補佐司教である彼女の失態だった。


 それを最悪の事態におちいる前に、何とかしてしまったのは扉の向こうでわめき散らしている老人なのである。


「邪魔するぜぃ、サウランデル! おめえにぁあ言いてえことが山の様にある。だが今回は話を簡単にしといてやるぜ。今やってやがる事をやめるか、明日から外の噴水の底で暮らすか選びやがれぃ。そらの様子だきゃあ、いつでも見れるようにしといてやるぜ」


 サウランデル補佐司教がどうしようか考えている間に、その人物は凄まじい音と共に部屋の中に入ってきてしまった。

 その際に枠から外れた右側の扉は、彼女の右側にある花瓶を粉砕してから、後ろにある本棚を縦に割ってようやくそこで止まった。


 半分無くなった扉の前に現れた人物は、った刺繍ししゅうのある神官服を着た白いひげの老人だった。

 凶悪と言っても良い顔の上には、予想に反して簡素な神官帽が乗っていたが、さらにその上には異様な輝きを放つトカゲがモッチリと乗っかっていた。

 

 扉を破壊した件について、やらかした人物を糾弾きゅうだんすることは彼女には出来ない。彼女の母親を治療が難しい病から解放したのも目の前の人物だった。先日その母親から手紙をもらったばかりなのだ。


「ケンチ大司教猊下げいか。落ち着いて聞いて下さい。今回の件は私が意図したことではないのです。大司教様のお手をわずウヴォレェ!」


 サウランデル補佐司教の言い訳はその老人によってさえぎられた。

 ケンチ大司教と呼ばれた男の右拳が、サウランデル補佐司教の鳩尾みぞおちに吸い込まれたからだ。


 彼女は執務机から後方に吹き飛び、扉の向こうに倒れした10名の教会騎士を見ながら床に貼り付いた。


「俺が聞きてえのぁ言い訳じゃねえ。めんのかどうかだ。あんな山奥に教会なんか建ててどうするつもりなんでぇ。あのお嬢さんから来てくれって言われた俺が断ったんだぜ」


 ケンチ大司教が怒り心頭しんとうに発した理由は、サウランデル補佐司教の用意した人員が色々あって若い女領主を誘拐ゆうかいした挙げ句に、無体むたいな真似におよぼうとしたことであった。


 外聞の悪い事件ではあったが、若い領主は何事も無く彼によって助け出された。

 髪を真っ白にして『世界の外側』に関する意味不明のつぶやきをらすだけの実行犯は全員が捕らえられたのである。


 若い女領主は事件の後で、この老司教に領地へ来てほしいと懇願こんがんしたが、いきなりやって来た大司教は余人よじんには意味不明の言い訳を残して突然に帰ってしまった。


「お嬢さん、あんたさんにゃぁわかんねえかもしれねえが、山ってのは何が埋まってるか知れたもんじゃねえ。地面の下にあるうちはぁな、あんたや子供達に迷惑をかける事もねえだろうぜ」


 ケンチ大司教はそんな事を言って、その若い領主の懇願こんがんを断ってしまったのである。


 そんなわけで、聖都に戻ってきたケンチ大司教は今回の一件の責任者であるサウランデル補佐司教に面会を申し込んだのだ。

 護衛の教会騎士10名は、鍛練の成果をことごとく否定する彼の殴打オーダの前に倒れた。


「大司教猊下、ですがあの土地も交易路としての需要じゅようが大きくなればファガァッ!」


 たたきのめされはしたものの、床の上から再起動したサウランデル補佐司教は再度の言い訳を彼に試みた結果、眉間に長さ50センチ程のひのきの棒の先端を埋め込まれて再び床に貼り付いた。


「おめえが悪い奴じゃねえのは俺も知ってる。人を見る目は良くねえが、頼んだ野郎が勝手にやったことだ。それでもあの土地はめとけ。やるんなら施療せりょう院だけにしとくんだ。時間がかかったって良いじゃねえか」


 ケンチ大司教がこの件に消極的な理由について、床の上で伸びている補佐司教には詳しくわからなかった。

 だが、大司教がこの様に言う場合には、あせらない方が良いこともよく理解していた。


「かしこまりました。この件からは手を引くようにいたします。お手をわずらわせまして申し訳ございません」


 ふらつきながら立ち上がり、サウランデルは何とかそんな台詞を絞り出した。

 自身がこれ程までに頑丈なことを不思議に思ったサウランデルだが、大司教の頭上に乗っている「殴打オーダ御使みつかい」が自分を治したことに気がついてその場でこうべを垂れた。


 彼女の返答を聞いたケンチ大司教はきびすを返して、来た時とは正反対の静かさで司教執務室から出ていった。


「おめえらは仕事に戻れぇぇい! 見せもんじゃねえんだぞ! そこの奴、けのもうけで今度俺におごれぃ!」


 一時は本当に殺されるかもしれないと思ったサウランデルだったが、ケンチ大司教が出ていった時には身体から何かが流れ出る様な気分になった。

 そして大司教が静かだったのは、この部屋の前の廊下を出るところまでだった。


 彼がここに来て、色々とやった事については教皇庁でも全く問題にならないだろう。

 カロリーフレンド問題を解決した、現教皇アンサール1世猊下げいかからして、ケンチ大司教とマンマデヒクについては手出し無用の立場なのだった。


 あの大司教と御使みつかいは、ウラーズ・ケナイ首長連合国が差し向けてきた10万の軍勢を1日で撃滅したことがある。

 連合国の盟主ダーメダバッティーンは降伏の使者を出す暇もなく、いまだに傭兵達に語られる『棒の巨人』によって荒野の肥料になってしまった。


 またこの戦役に関して、連合国の隣にあるウェカーラナーナイ王国のヒイトテック3世はケンチ大司教とマンマデヒクを擁護ようごし、彼らの主張を全面的に支持した。


 この件については次のような噂話が関係していると思われる。

 ヒイトテック3世がまだ王子だった頃、生まれた時から抱える問題が全て解決するという事件があった。奇跡に認定されるべき事象ではあるがこの件は世間に対してせられたのだ。

 

 強大な上に各国に味方がいるような、両者の訪問におののいたサウランデル補佐司教ではあるが、自分も彼らに恩のある人々の一員であることに、この日は泣きながら感謝した。



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※私がキャラクターの名前を変な物にしている理由について、そのひとつが書いてあるエッセイ(1話完結)がありますので、ご興味がお有りの方は下記のリンクよりお読みくださいますと幸いです。

『オッサン化という進行性の不治の病』

https://kakuyomu.jp/works/16816927859252940923

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