第7話 チョップ
チョップはおそらく店の用事で出かけていたのだろう。
店に戻って来たら店長は床に
「ああー……チョップ、久しぶりだな。この店じゃあ上手くやれてるようで安心したぜ。実はおっさんは倒れたんだが、何とかして治った。治したのはこっちのトカゲさんで、マンマデヒクって
俺は極めて自然に話しかけた。まずはチョップに落ち着いてもらわなくてはならない。
チョップは完全に静かになっていたが、騒ぎだされるよりは
デアイパチキのおっさんには、そろそろ立ち直ってもらわないと駄目そうだ。
「
チョップはもうすっかりここに
あの非武装の山賊のようなオヤジどもが心配するぐらいだから、50歳も過ぎたデアイパチキのおっさんの具合は相当に悪かったのだろう。
そういえばしばらく前から顔色が悪かったが、俺のような奴には変わらず対応していたので分からなかった。
「チョップ、戻って来たのか。俺ぁもう大丈夫だ。マンマデヒクが治してくだされた。あっという間のことだったよ。俺は御使い様と約束した。お前もこの事は誰にも言っちゃ駄目だ。分かったな。ケンチが使徒様になったこともだ」
デアイパチキのおっさんが何とか再起動してくれた。
チョップの説得までやってくれて申し分ないのだが、俺が失念していた『使徒』という単語を出してくれてしまった。非常に不味いことに、マーちゃんが御使いであるとすればワンセットで俺は使徒なのだ。
「すげえ! そんじゃあケンチさんは何かの
チョップの顔は期待で輝いていた。
俺にも分かる。俺は商人としてやっていくつもりのこの子が、欲しがっているモノを授かったのだ。
「大きい声じゃ言えねえがアイテムボックスだ。猪車2台分ぐらいだけどな。今日は買い物に来てそれで居合わせたってわけだ」
「それじゃあきっと神様が何とかしてくださったんだ。分かったよ。おいらだって誰にも言わねえ」
チョップの説得は何とかなった。この子だって孤児院の出身だ。教会に
「ありがとう、チョップ。私はマンマデヒクという。マーちゃんと呼んでくれ。
甘いものは好きかな。クッキーしかないのだが、よければもらってくれるとうれしい」
今まで静観の構えのマーちゃんであったが、覚えたばかりの大陸公用語でチョップに話しかけた。
柔らかいアルトボイスは、人間が相手であれば安心感を与える効果があるだろう。
手に持って差し出しているのは、カロリーフレンドのチョコレート味(紙箱入り)だ。
このトカゲ姉さんは、猪からマルッキ・リアホーまで
チョップの方はこれを素直に受け取って、自分の額に両手で持っていくと
視界の隅では『黒子さん』から手渡された錠剤を、デアイパチキのおっさんが水と一緒に飲んでしまっていた。
『細胞修復薬エターナルボディ』については神の裁定を待つしかないが、おっさんの無実は俺が証言する覚悟でいる。
「おっさん、気持ちはありがてえが金は受け取ってくれ。マーちゃんも俺も
今日の目的は買い物だった。
死にかけの店長もどうにか復活した。
マーちゃんが店内の欲しい品物を選び出して、これを全部買って持っていくという段になって、店側がこちらの金銭の支払いを拒否してきた為に問題になってしまった。
「でもなケンチ、俺はこの事を秘密にすると誓ったが、こんだけしてもらっといて金を払ってくれたぁ言えねえ。俺の信仰の問題だ」
この店は幅7メートル、奥行き15メートルで高さは4メートルほどある。
マーちゃんが選んだのは陳列された在庫の3分の1に相当する量だった。
使い方については全部分かるが、俺から言わせると王道の不動在庫の山で、棚に隙間をつくらない仕事をしてもう15年って感じの物ばかりだがこれも商品だ。
「言い方ってもんがあんだろ、ケンチ」
「酷いよ! これだって役に立つのに」
文句をたれる店の2人をおいて、俺からは正直な感想をマーちゃんに伝えたが、うちのトカゲ姉さんは選んだ物が気に入ったようなので金を払うということになったのだった。
「とにかくアレだ。俺が神から見捨てられねえように協力してくれや。割引とかで良いんだよ。金貨2枚なら足りそうな感じだがどうだい?」
計算は、チョップとおっさんが
それで、金貨1枚と銀貨90枚のところを金貨1枚と銀貨82枚で手打ちにしてもらった。それでも日本円にして約364万円だ。
「ケンチさん、おいらもいつかはアイテムボックスを
黒子さんに手伝ってもらい、俺が収納口から買い取った商品を搬入していると、チョップからそんなことを聞かれた。
「もう『遠見の術』と『空歩の術』が使えるじゃねえか。誰よりも早く配達だって出きんだろ。俺よりお
俺からはそういうことしか言えなかった。
チョップはそれを聞いて考えているようだったが、何かを決意した顔になっていた。
狩人向きの
ところで、デアイパチキのおっさんを治療してから今まで、黒子さんは異様なほどに目立たなかった。今も当たり前のような感じで床を掃除し、棚の隙間を埋めるように商品の整理を手伝っていたが何も言われなかった。
白いヘアバンドとジャージにサンダルが、ここでは異様に似合っていて完全に店に同化していた。
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