第3話 パンツの行方と風呂
懐かしいお茶漬けをご
例のセクシーなアルトボイス(女性の低音声)でだ。
「ケンチ、こちらの文化程度だと風呂はあるのか? 衛生管理は大事だ。それに、ここに来た時から裸足だが、それは普通なのか? ポケットにもパンツが入ってるが、それは下着ではないのか?」
実のところ探索者のアパートに風呂は無い。近所の公衆浴場にたまに行くだけだ。
俺もいつの間にか、そういうのが普通だと思うようになってしまった。
それと俺はパンツを持ったまま変なテンションでこの空間に来てしまった。
そのパンツは今どこにあるかと言うと、ジャージみたいな俺の部屋着のポケットに入っている。
文化の発展具合は低くとも、ややグレーのダボっとしたジャージみたいな物はあって、寝るときにはいつもそれだ。
そしてまたそんな状態だったものだから、当然のように裸足だった。俺自身は『屋内で靴を脱ぐ人』なのでこれも仕方がない。
慣れというのは怖いもので、探索中でも裸足になることがある俺はそのまま
そう言えば手も洗ってない。こっちの生活が長いと、人間がワイルドというか野蛮になっていくものらしい。
「マーちゃん、すまねぇ。マナーも何もあったもんじゃねえな。興奮しすぎて、すっかり忘れてたらしいんだ。今度から気を付けるよ。パンツは……いつもはバックパックに入れてあるんだけど、今日はたまたまここなんだよ、ウン」
マナーについての駄目っぷりは素直に謝った。パンツについては
それに俺はこの25年の異世界暮らしで、すっかり
今話している日本語にまで、その悪影響はまんべんなく及んでいた。引きずられ過ぎだと思うが、実際に割と凄まじい仕事だったりするので仕方がないと思うことにする。
「そういうことなら納得した。マナーは気にするな。
それから、あそこに丸い建物があるだろう。あの『かまくら』みたいなやつだ。あの中に寝室と風呂とトイレとドラム式洗濯機を用意してある。好きに使ってくれ。入る前に足は拭いた方が良いぞ」
マーちゃんはパンツについてはスルーしてくれた。ありがてぇ。
建物については俺が食事をしている間に用意されたのだろう。
もやっとしたアイテムボックスの収納口から10メートルほど離れた所に、直径8メートルぐらいの丸い『
ちなみになんだが、こちらの世界でもメートル法が国に採用されている。
それなりの仕事をやってしまった同郷人がいるのは間違いない。俺の方はそんなことはやりたくもないと思っている。
「マーちゃん、あれ……いつ建てたんだよ? それとも運んできたのか? 本当に良いのか、アレ」
こんな世界に流れてきて
「ああいった生活用ユニットならまだある。アレは運んでおいたものだ。
それからな、このフロアの真ん中あたりに『吹き抜け』があるだろう。あそこには近寄らない方が良い。空気も重力もないし、気温はマイナス270℃しかないのだ。すぐに凍死はしないが、最初の50秒で肺がダメになる可能性がある」
まさか自分のアイテムボックスの中に宇宙空間があるとは思わなかった。
『吹き抜け』には近寄らない。俺に新しいルールがインストールされた。
ここはセーフハウスでもあるが、アウトサイドでもあるのだ。間違えると死ぬ危険もある。
注意点も聞いたところで、俺はピンクの『かまくら』に向かってダッシュで走り寄った。裸足でも問題ない。そういえば小石も転がってないな。
この生活ユニットの扉はごく普通の外開きの物だった。
新しい部屋ってのはテンションが上がる。もちろん建物に入る前に足は
寝室のサイズは5メートルぐらいで、生活感は無いものの、家具は必要そうな物はちゃんと
これからは野営する必要が無いのが何よりもありがたい。
お次は風呂だ。
「ドゥフゥゥゥゥ……いかん、快適過ぎてしばらく出たくねぇ」
風呂に
もちろん身体をよく洗ってから入った。
石鹸の汚れ落ちが良くて、無茶苦茶に
転生して
それにしても、こんな住居を簡単に用意出来るマーちゃんには恐れ入ってしまう。
こんな物をいつ運んだのか分からなかったし、ここで使われているお湯だって
食料を含む大量の物資があるとも言うし、ロボットの従者たちも大量にいるかもしれない。
ここに住んでいる理由も謎だ。
地球について知っている所もそうだ。風呂にある製品や寝室や洗濯機を含めて、地球にあった物で
マーちゃんが見たまんまのトカゲじゃないことだけは確からしい。
趣味で世界の観察と採取をやってるそうだが、一体どういう理由があるんだろうか。
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