第49話 なぜか言いなりになるんです
プリムローズはライゼウスの言いなりになったまま一目散に彼の屋敷に連れて来られた。
馬から降ろされ屋敷に入るように言われると身体は勝手に動き始めた。
そしてリビングルームに連れて行かれる。
「さあ、ここに座って…それでプリムローズ。気分はどうだ?」
ソファーに座らされて改めてライゼウスに面と向かって見られそう聞かれる。
彼はラルフスコット辺境伯の異母兄だと言うが、ラルフスコットとは似ていなくて大柄な体に黒い髪に鋭い琥珀色の瞳で眉の上に大きな傷まであって端正などとはいいがたい顔つきをしていて間近でみるとかなり恐い。
いきなり馬に乗せられてそのまま何も言われず居心地の悪い気持ちのままここまで来たのだ。
おまけに彼も緊張しているらしく目つきが恐い。
どうして自分が彼に言われるまま馬に乗ったのかさえもわからない。
「そ、それは…どういう?」
喉の奥で言葉がつかえたような怯えた声が出た。
(恐い。それに言葉の通り今の気持ちだ。まったくどういうことなのかわからないわ)
プリムローズはとにかく混乱していた。
「ここにいるのはいやじゃないかと聞いてるんだ?逃げ出したいとか思うか?」
プリムローズの脳内が自分がどう思っているのか探る。
さっきまでのモヤモヤした気分で吐き気をもよおしそうになっていたのに…出てきた言葉は。
「はい、大丈夫です。ちっとも嫌な気分ではありません。寧ろここにいるのが当然だと思います」
(あれ?どうして私そんな事言うんだろう?気分はちっとも良くないしどうして自分がこんな偉そうな男と一緒に来たのかさえもわからないのに…ライゼウスが何か言うたびに彼に従わなくてはと何かが自分を服従させるような力が働いて…)
ライゼウスの表情筋が少し緩む。
「おお…コホン。それは良かった。これからは私の言うことをきちんと聞いてさえいればプリムローズ、お前の安全は保障する。だから何も心配するな。いいな?」
「はい」
ライゼウスはその事に満足したのか嬉しそうにほほ笑んだ。
(何だか変。でも何かが私にまとわりついていて嫌だって逆らえない感じ。それにすごく疲れてて重だるくて…)
プリムローズは沈み込むような座り心地のよいソファーに身体を預ける。
その感触に目を閉じてうっとりとなっているところにまた人の気配がした。
「ライゼウス。彼女はどこだ?」
コツコツと皮のブーツだろうか靴音が響くとプリムローズの前で止まった。
身体はソファーに委ねているものの耳は収音機のように周りの音を拾っていたのでプリムローズはパチリと目を開けた。
「やあ、プリムローズ。気分はどうだ?」
ぎょっとして身体が思わず伸び上がる。
「ど、どうしてあなたがここに?」
目の前にいたのは第2王太子のセザリオ殿下だった。
「どうしてって‥君に会いたかったから」
(会いたかった?でも、私たち今朝は王都にいたはずでアルナンドに乗ってここまで来たから、もし私たちを追って来たとしてもとてもたどり着けるはずはないんじゃぁ?)
「殿下はどうやってここまで?」
脳内の機能はかなりポンコツになっているようで思った事が口から出た。
だが、セザリオはますます機嫌がよさそうに言う。
「君を追って来た。まさか竜に乗ってここに来るとは予想外だったな。でも、私には魔導士がいるからね。転移魔法でここに来た。どうだ?凄いだろう?」
(ああ、それが言いたかったのね)
なぜか脳内で彼の機嫌がいい理由がわかった。
(でも、どうしてあなたがそこまでしてここに来るのよ。竜に乗った事を知ってるなんて私を見張ってたって事でしょう?)
「でも、どうして私を追って?」
プリムローズはそう言ってこくこく畝ずく。
(そうよ。どうしてあなたはここまで来たの?)
「もちろん。プリムローズ君を私のものにするためだ。決まってるじゃないか!私は一度狙った獲物が逃がさないって決めてるんだ」
「殿下。それくらいにしないと…女性をあまりぐいぐい責めると嫌われますぞ」
そう言ったのはライゼウス。
(あなたもいたのね。それにしてもワルがふたり。揃ったわね)
プリムローズは心の中で盛大にため息をついた。
「準備は?」殿下がライゼウスに問う。
「はい、出来ております」
「そうか。プリムローズ。さあ行こうか」
セザリオはプリムローズに手を差し出した。
「はっ?」
「ああ、そうでした。プリムローズ良く聞け!今からお前はセザリオ殿下のものになる。彼には一切逆らわないように彼にされるまま身を任せるんだ。いいね?」
その口調はとてもとても優しかったが言っている内容はものすごくえぐい。
「な、何を…」と言葉を発した途端。
プリムローズの中で「ぎぃぃぃぃ。がちゃん!」何かが組みかえられるような気がした。
「はい、わかりました」
「ほほ~これはすごい。プリムローズ。さあ、行こうか」
セザリオが感心したような声を出すと再びプリムローズに手を差し出した。
プリムローズはその手に迷わず手を伸ばして立ちあがった。
「寝室は二階だ。歩けそうか?」
「あっ、はい」
そうはいったものの脚がふらついた。
「大丈夫。私が連れて行こう」
セザリオは満面の笑みを浮かべるとプリムローズをさっと抱き上げた。
(何よこいつ。気持ち悪い。あれ、思考は自分のままなの?と、言うことは身体は言うことを聞かないままこの男に…?いやだ。ああ…でも逆らえないのよね。もう最悪じゃない)
プリムローズは複雑な思いで唇を噛みしめた。
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