第33話 惹きつけられて
プリムローズはいけないと思いながらもどうしても抑えきれない何かに惹きつけられるようにアルナンドの部屋の前にやって来た。
寝間着の上にはガウンを羽織り、手には手持ちの燭台を持つ薄暗い廊下からアルナンドの部屋の扉を恐る恐るノックしてみる。
返事はない。
さすがにもう寝ているのかも…
でも苦しくて返事も出来ないんだったら?
もし起きて返事が出来るくらいなら心配ない。でも…
悶々と訳の分からない押し問答をするうちに手は自然と扉を開けていた。
「アルナンド?」
カーテンで閉め切られた部屋は薄暗く手元のロウソクの灯りを頼りに部屋の中を見る。
大きなベッドが見えてその上に人影らしきものが見えた。
プリムローズは静かにベッドに歩み寄りその姿を見た。
「あるなんど…」
彼は目を閉じて眠っている。いつもの険しい顔ではなくそれでいて穏やかでもなさそう。
熱があるのか赤みを帯びた顔をして少し辛そうにも見える。
じわりと汗をかいているように見えて、きっと額の乗せてあっただろう布がベッドの敷布を濡らしていた。
プリムローズはそっとその布を取るとサイドチェストの上にあった桶に布を浸して形を整えてそっとアルナンドの額にその布をのせた。
アルナンドが気持ちよさそうにふぅと息を吐きだしたので起きたかと驚いたが彼はそのまま寝息を立てて眠っていた。
プリムっローズはまだ帰る気に慣れなくてそっとベッドのわきに置かれた椅子に腰かける。
(何でだろう?どうして私は彼がこんなにも気になるんだろう?わからない。でも、胸の奥が妙にざわついてしまう)
そんな事を思いながらも部屋を出て行く事も出来ずにじっとアルナンドを見つめていた。
そのうち夢でも見ているのかアルナンドが敷布をぐっと握りしめた。
「うぅ…どうして…俺はあの薬を飲んだんだ。俺は…」
プリムローズは苦しむ彼の手を握って思わず声をかける。
「アルナンド。これは夢です。しっかりして下さい」
その途端激しい電流が流れ込むような衝撃が身体を突き抜けた。
真っ暗い闇に一筋の光が見えてプリムローズは朦朧とした感覚のままその光に焦点を合わせようとした。
***
「緊張してるのか?大丈夫だ。俺もだ。でも安心しろお前が嫌がることはしない」
いきなり声が聞こえた。
信じられないほどの美しい紫色の瞳を持った男がすぐ横でプリムローズを射すくめた。
「あ、あなた、アルナンドなの?」
アルナンドは無表情で何を考えているかわからない。
こんなことあるはずない。これは夢。きっと私は夢を見てるんだ。
必死でそう言い聞かせる。
手持ちの燭台だけの仄かな明かりの中でプリムローズはアルナンドの顔をしっかりと確かめる。
アルナンドはなぜか身体をマントのようなもので覆っていてそのマントがはらりと落とされたのだろう。
衣擦れの音がして思わず顔を反らすがそれがシーツのようなものだと気づく。
アルナンドは構わず話をし始めた。
「ここはゼフェリス国の竜の神殿だ。ここで竜帝である俺とお前は生涯を共にする交わりの儀式をする」
プリムローズにはアルナンドがなにを言っているかさっぱりわからない。
(どうしてって?いやいや、だってこれは夢の世界だからよ。
そう言えばこれと同じ夢見た気がする。そうよ生贄になる前に…ああ、そういう事。だったらいいんじゃない。それ以上考えても意味のない事だもの)
プリムローズの思考は夢なんだと思った瞬間から変って行った。
そんな事を考えたせいでなんなくまぶたが開いてしまう。
それでも顔を下半身に持って行かないように最善の注意を払いながら、薄っすらと開いたまぶたの隙間からその彫像のような肉体に見惚れる。
(こんな時にどうなっているのよ。私の脳内は~)
何しろ今からこの男と…な事を?ってどうしてもそんな事を妄想してしまう。
取りあえず私はあの時と同じように、ベッドの上に横たわっていて、でも寝間着はまだ身に着けている。
アルナンドはそれに気づいたのか無言でその寝間着を脱がせていく。
「えっ?ちょ、ちょっと待ってったら」
慌てて寝間着を掻き合わせるがアルナンドの力にかなうはずもなく。あっという間にすべてをはぎ取られた。
(これって‥まさかのまさか?)
って、そんな事を考えた途端に肌の内側がひどくひりついて毛細血管の隅々までが覚醒したみたいにドクドク脈打つ気がする。
見られている。アルナンドがの私の裸体を……
そう考えただけで身体じゅうが赤いインクを水にたらしたみたいに赤くなって行く。
(これって間違いなく夢よね?)心の中でそのはずだよね?そうだよね?と何度も確認する。
(だってこんなの現実にあるはずがないじゃない。やっぱり夢だ)
やっと確信が持てた気がする。
アルナンドはプリムローズの裸体をじっと見つめたままで。
「こんな所でっていうのはどうもやりにくいな…すまん。プリムローズも嫌だよな。なるべく早く終わらせるつもりだから許せ」
「……」
あまりにあからさまな状況にプリムローズは夢とはいえなにも言えない。
おまけに生まれたままの姿で横たわっているにもかかわらず寒さすらほとんど感じない。
アルナンドの話によるとここは神殿で周りの空間には冷たい空気が漂っているだろうに…
(もお、だから夢なんだって!)
そうでなければ私の脳の神経細胞がおかしくなっているとしか。
「でも、やっぱり、ど、どうしてこんな事に…」
上ずった声で聞く。
「どうしてって?…」
すこぶる端整な顔立ちのくせに三白眼と冷たい眼差しに思わずつばを飲み込んだせいか次の言葉が出てこない。
じっと見つめれば…
さらりと流れ落ちる白金の髪は神々しいほど美しく、射すくめられた紫水晶の瞳に胸の奥が疼く。
プリムローズの脳内は何とか正常な判断をしたいと必死で思考回路が飛びかっていた。
(でも、でもアルナンドがどうして夢の中でこんなことを?
あの日彼が生贄として私を連れ帰っていればこうなっていたって事?
でも、どうして今こんな事夢に見てるの?わからないちっともわからないから)
アルナンドの声がした。
「いやなら目を閉じていればいい」
ふっと聞こえた低音の声に思わずはっとする。
「アルナンド。やっぱり、こんなの間違ってるんじゃぁ…」
「いいから黙ってプリムローズ」
アルナンドの冷たくて薄い唇がプリムローズの首筋にそっと這わされ指先は肌を滑り始めた。
その感触に あっ!と声が漏れた。
「気持ち良かったら声出していいからな」
「い、いきなり、そ、そんなところ触るなんて…ずるいから」
プリムローズの淡いピンク色の瞳と紫色の瞳がかち合う。
アルナンドは肩をすくめると目をすがめた。
「そうか?でも結構感じてるみたいだが…それにプリムローズに痛い思いさせる趣味はない」
いつもは恐そうな目つきが信じられないほど柔らかな感じになり、さらに信じられないほどの甘い声が耳朶に響いた。
アルナンドの身体は私のすぐ横に沿わされていて嫌でも彼の体温が伝わって来る。
「や、やめて」
「じゃ、どうする?何もせずにただやれって?俺のやり方じゃないんだが」
アルナンドが顔を上げてふっと笑って、プリムローズの顔にかかった乱れた甘いはちみつのような濃い金色の髪をそっと耳の後ろに押しやりその耳元に唇を寄せた。
「ある、なんど…」
「うん?寒くないか?ここ結構ひんやりしてるからな。そうだ。ふたりで身体重ねれば温かくなるだろう…いいから、気を楽にしてろ」
「でも…」
「いいから、任せろ!」
アルナンドは、いきなり唇を舌で舐め始める。
「ひゃ、何するのよ!変態!」
「いや、俺は変態じゃない。こうするの普通だろ?でも、そんなに言うなら…」
アルナンドは諦めたのかプリムローズの身体から身を起こすと脚の方に身体をずらす。
ほっと息を吐いた途端、彼はいきなり太ももの間に入り込んで来た。
「きゃぁ!もう、ど変態!」
アルナンドがぷっと噴き出した。
「言いにくいが、プリムローズは知ってるのか?その…男と女の…」
「知ってます。それくらいの知識はあります!」
「じゃあ、準備できてるか確かめなきゃ…さあわかったら開いてくれないか?」
「こんなの…信じれない」
***
そのままプリムローズはアルナンドと結ばれた。
プリムローズは初めてだったが何しろ前世の記憶がものを言ってそれはスムーズに事は進んだのだった。
そして夜明け近く。
はっと気づけばプリムローズはアルナンドの隣で寝ていた。
彼の腕はしっかりとプリムローズの身体を抱いていた。
「きゃ~」思わず声を上げるその唇を思い切り自分の手でふさいだ。
(だって、私からこの部屋に入ったのよ。これじゃ、まるで私がアルナンドを襲ったみたいじゃない!)
とにかくすぐに部屋から出るのよ~
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