第22話 商店街のお祭りの準備は大忙し!

 いよいよ商店街の祭りの日が来た。


 朝から準備に大忙しのプリムローズ。


 カイトやローリーも誘って他にもカイトの友人やローリーの機織り工房からも友人が手伝いに来てくれた。


 お化け屋敷は一階の玄関からリビングリームをぐるりと回って表に出てくるように通路を黒い布でぐるぐる囲った。


 通路の周りにはアルナンドが作った氷塊を置いて冷気を送りこむようにする。


 明かりは下にランプを囲うようにして薄暗くしておく。


 色々な場所に首だけの人形や恐いお面やシカの首などを置く(これらは商店街の人から借りた)


 他にも滴る血などを演出しておどろおどろしい雰囲気を出す。


 出口付近では水滴が垂れるような仕掛けを作り白い布のおばけに大きな目玉をつけて時々それがポロリと落ちるなど。


 すべては吉田あかねの頃のおぼろげな記憶からだった。


 (一人で恐いと思う人もこっちで勝手にカップルにしたり、あっ、そうだ。ここにはこんなにイケメンがいるんだしこの人達を使わない手はないわ。みんな結婚相手を求めてるんだしいいチャンスかも。一緒にお化け屋敷に入れば嫌でも互いの距離が縮まるに違いないもの)


 プリムローズの脳内は、このイベントをどうやって盛り上げるか。このチャンスをどうつかもうかとせわしなく考えが溢れていた。



 そんな時声をかけたのはレゴマールだった。


 「プリムローズ。もしかしてほんとの正体は魔物とかじゃないよな?」


 「えっ?何か言いました?」


 レゴマールは蝶ど真面目な顔で聞き直す。


 「プリムローズってもしかして魔物じゃないんだよな?」


 「はっ?何ですかいきなり…まさか。これはすべて前世の記憶の賜物ですから、皆さん誤解の内容にお願いしますよ。私これでも張り切ってるんですから!」


 (まったく、そりゃこの世界にはない発想かも知れないけど。魔物と勘違いするか?まあ、私は今すぐ結婚するつもりはないし、ここにいるイケメン竜人たちと恋愛関係になるつもりもないんだから。おかしな誤解されてもいいんだけど…)


 そんな事を考えながらプリムローズは今度は目玉の制作に取り掛かる。


 白い羊毛を硬く丸め片方を平らにする。それに合わせて固い紙で目玉を書くと周りに虹彩を血管のように書いていく。


 自分でもよくやるわ。などと思いながらそれなりに怖そうな目玉が出来たとにやつく。



 「プリムローズ恐いよ。ちょっとイメージ狂うんだけど…」


 ブレディからそんな突っ込みを受ける。


 「どうこれ?」目にくっつけてブレディの方に振り向く。


 「うわぁぁぁぁ、やめろ!恐い。それほんと恐いから」


 どうやらプリムローズのイメージがかなり崩れたらしく、あんなに気易く優しかったレゴマールやブレディが声をかけて来なくなった。


 ピックは相変わらず近づいて来るがまあ、それはそれで楽しいのでと思う。


 (それにしてもアルナンド大丈夫かな?ローリーとペアを組んでほしいと言ってから何だか元気がない。最初はやる気になって楽しそうにしてたくせに…ローリーの耳が聞こえないから?でも、彼女可愛いし結構胸だって大きいし…)


 

 そんな事を考えていたらいきなりアルナンドから声を掛けられた。


 「プリムローズ。かき氷の事だが」


 「はい、今行きます」


 アルナンドにかき氷を頼んだのはプリムローズだったが、前世で食べたようなあのシャリシャリした感じがどうしても出せなくてアルナンドには何度もやり直しをお願いしていた。


 彼は氷を出すことは出来るがそれは氷塊とか武器になるような氷剣のようなものばかりでもっと細かい氷は出せないかと何度もお願いをしていて。


 確かに氷塊を削る事も出来るがそれだとかき氷ではないとプリムローズはこだわっていて…


 「いろいろやっては見たがこれが最大限ってところだ」


 つっけんどんに高飛車な態度で出るアルナンド。


 器に入った氷はかなり細かく削られたものでアルナンドの苦労がにじみ出ている。


 「はぁぁ、これで最大限ですか…」


 がっかりとつぶやいたプリムローズにしゅるしゅるとしぼむようにしょげるアルナンド。


 これが竜帝かを思わせるその構図にみんながクスクス笑っている。



 「おい、アルナンドがあんなにしょんぼりしてるなんて信じれるか?」


 「いや、信じられないな。プリムローズにかかるとアルナンドさえも形無しだな」


 「あんなに手伝いなんかしないって言ってたくせに、プリムローズがお願いした途端ああだぞ」


 「違うよ。アルナンドは優しいんだ。女性の期待には応えるべきだって思ってるんだよ」


 「いや、ゼフェリスでそんなところ見たことないぞ。竜人の女たちはアルナンドを狙ってたじゃないか。色仕掛けで迫っていることもあったし病気を見せかけてすり寄ってたやつもいたが、いつもけんもほろろに拒絶してたじゃないか」


 「ええ、あんな顔は初めて見ますね」ダイルまでもが皆に賛同した。



 プリムローズは困った顔をして考え込んでいたがパンと手を叩いた。 


 「ええ、アルナンドさんの努力は認めます。これは氷菓子としましょうか。これにはちみつや果実のジャムを混ぜてもう一度型に入れて凍らせればアイスキャンディーで行けそうですから」


 「じゃあ、最初から果実水を凍らせればいいんじゃないか?」


 「えっと、それだと違うんです。食べた時の食感と言うか…ああ、一度アルナンドさんが言ったものを作ればわかります」


 プリムローズは急いで果実水を持ってくると型に入れてアルナンドにそれを凍らせるように言う。


 そしてさっきの細かくした氷にはちみつを混ぜて型に入れそれを凍らせるように頼む。



 その間にプリムローズは昨晩作った焼き菓子とお茶を用意する。


 これも祭りで売るつもりで作った。


 (そうだ。お菓子はつかみ取りにして飲み物は飲み放題はどうかな?)


 プリムローズの頭には祭りの催しが次々に頭に浮かぶ。


 (まあ、とにかく一度休憩にしましょうか)


 「皆さん、少し休憩にしませんか?ついでに試しにこの氷菓子二つを食べ比べてもらったらいいんですけど」


 テーブルの上に並んだ焼き菓子は、ナッツの入ったものとキャラメルソースを練り込んだものの2種類だ。前世で言えばスコーンみたいなものだろうか。


 「ひゃっ!冷たい。何だこっちは固いけどこっちは口の中で噛むとすぐに砕けるな」


 「うん?ああ、食べやすくてうまい」


 「美味しーい。これすごく美味しいよプリムローズ。どうやって作ったの?いくらでも食べれそうって感じだよね」


 「そうですね。これはいけます」


 アルナンドはぶすっとした顔だ。その時プリムローズがアルナンドの口に果実水で作った氷を放り込んだ。


 「まずはこれを食べてみて」


 「あぐっ!」


 驚いたようにアルナンドが目を白黒させる。


 「次はこっちです」


 次に氷菓子にしようと言った方の氷を差し入れた。今度は氷が指先についてなかなか離れなくてアルナンドが唇で吸い出すような格好になった。


 「ちゅぅ……」


 指先がアルナンドの唇に吸われプリムローズは慌てて指を引く。


 「もぉ、何するんです!」


 なぜかアルナンドが思いっきり真っ赤になった。


 アルナンドの口の中では甘い味が程よくとろけてそれが氷のせいなのかプリムローズの指のせいなのかもわからなくなる。


 脳内が沸騰しそうなほど熱くなってアルナンドはよろける。



 「おい、アルナンド大丈夫か?お前真っ赤になってるぞ」


 「アルナンド、も、もしかしてプリムローズが好きなの?そんなのだめだからね。プリムローズは僕の…」


 「うるさい!誰がプリムローズなんか!」


 アルナンドは怒って自室の部屋に閉じこもってしまった。




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