第18話 アルナンド後悔する

ふたりは港に着くと貨物会社や旅客会社などを訪ねて結婚相談所の事を話した。


 どこもビラを置いてほしいと言うと決まって断られた。


 「そんな浮ついた商売の手助けなんか出来るか!」


 「結婚相手を探してくれるって?そんなうまい話し誰が信じる?」


 「こっちは忙しいんだ。そんな事は本人がやる事だ!いいから帰ってくれ!」


 「おい、そんな事は大きなおせっかいって言うんだよ!」


 どこも聞く耳など持たないとばかりにけんもほろろで断られた。




 さすがのプリムローズも15軒も立て続けに断られて落ち込む。


 「やっぱり無理なのかな…」ぽそりと言葉が漏れた。


 「そんなに落ち込むな。さすがにみんなこんなの初めてだからじゃないか?少しどこかで休むか?そろそろ腹も減った」


 アルナンドがそんな風に言ってくれるとは思ってもいなかった。


 「そうですよね。ぐぅ~。私もお腹が減りました」


 ふたりで港の食堂に入る。


 その食堂は港の男達が利用するような店らしい。注文はカウンターでして金を払って料理を受け取る仕組みらしく店内はごった返していた。


 先にプリムローズを席に着かせるとアルナンドがカウンターに並んでくれた。


 プリムローズの座っている隣にガタイのいい男が料理を乗せたトレイを置いた。


 「おっと、お嬢ちゃん。一人か?」


 「いえ」


 「いいじゃねぇか。俺と一緒に食べないか?何がいい?俺が注文してきてやるよ」


 「いえ、連れがいますので」


 「連れ?そんなのほっとけよ。俺がいいところに連れて行ってやるよ」


 「何言ってるんですか?連れがいると言ってるじゃないですか」


 「いいじゃねぇか。こっちは下手てに出てるんだぞ。大人しく言うことを聞けよ」


 男は結構むきになって来る。


 (なに勘違いしてるのよ。いやだって言ってるのに…もう、アルナンドはどこ?)


 プリムローズはカウンターの方を見るがアルナンドはかなり後ろの方に並んでいる。


 困ってわざとガタンと音を立てて椅子から立ち上がってアルナンドを呼ぶ。


 「アルナンドさん」


 そう呼ぶとアルナンドがすぐに気づいた。


 男がそばにいて難くせをつけられているとわかったらしい。


 アルナンドはすぐにプリムローズの所に来た。


 「俺の連れになにか用か?」


 「なんだお前?」


 「いいから、けがをしたくなかったら黙って食え」


 「ふざけてんのか?てめぇ!」


 男は腕っぷしがよさそうだ。その筋肉隆々の腕をアルナンドの顔面めがけて来る。


 アルナンドはひょいとその拳をよけるとさっと手の平をかざす。


 「な、なんだ?これは…グフッ!手が…くっそ!何をした?」


 「何も…しばらく手が強張って使い物にはならないだろうがすぐに元に戻る。さあ、ここを出よう」


 「ええ、ありがとうアルナンド」


 プリムローズはほっと息をついた。


 アルナンドはプリムローズの肩に触れようと手を伸ばした。


 「ビリッ!痛っ!なんだ?」


 アルナンドの手は弾かれた。


 「どうしたのアルナンドさん。大丈夫ですか?」


 「ああ、何でもない」


 アルナンドはぶつぶつ言いながら考え込む。


 (なんだ?今のは…プリムローズに触れようとしたら弾かれた。ったく。番認識阻害薬のせいか?番に対してここまでするか?ブレディの奴どんな魔力を揉めたんだ?)


 アルナンドはプリムローズの先に食堂から出すと彼女が心配してアルナンドの腕に触れて来た。


 「ほんとに大丈夫ですか?」


 「プリムローズ?お前俺に触れても大丈夫なのか?」


 「えっ?はい、特に何もありませんけど…そう言えばさっきのはどうやってんです?いきなり男の拳が凍ったみたいに見えたんですけど」


 「あれか…俺は氷竜だから、あいつの手を凍らせた。他にも火も水も風も操れる。だからお前は俺が守ってやる。何も心配しなくていい」


 「いえ、それは大丈夫ですから」


 「いや、違う。別に変な意味じゃない。さっきみたいな事があった時にだ。その…もう帰ろう」


 「ええ、マルベリー通りにパン屋がありましたよね。そこで何か買ってお昼にしましょうか」


 「ああ…」


 アルナンドは余計なことを言ったと帰るまで何もしゃべれなかった。


 脳内ではしきりにこの番認識阻害薬の効果を取り消す方法はないかと考えていた。


 (だってそうだろう?彼女に触れられないなんて…そもそも番なのに何も感じられないのが辛すぎる。それにしてもプリムローズが触るのは大丈夫だとは…一体どうすればいい?だが、みんなに気づかれるわけには…)


 アルナンドが言い出したのだ。番なんかにこだわらなくてもいいような仕組みにしようと。


 アルナンドは今日ほど自分の言った事を後悔したことはなかった。




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