第12話 カイトに会いに行く
カイトの働いているニップ商会はマルベリー通りの次のもっと大きなオリーブ通りと言うところにあった。
プリムローズは馬車から下りるとダイルに教えられたニップ商会に向かった。
ニップ商会の事務所は上の階にあるらしく通りの前には仕立て屋の看板が掛かっていた。
「ごめんください」
「いらっしゃいませ、ご用件は?」きちんとしたスーツを着こなした紳士が出迎える。
プリムローズは緊張したが心配しているカイルに会わないわけにはいかないと声を出した。
「あの…カイトって人を訪ねて来たんですが…私は幼なじみのプリムローズと言います」
「カイトだって?お嬢さんお客じゃないのかい?それなら裏口に回ってくれ!」
店員は凝ろっと態度を変えた、愛想笑いもすっと消えて苛立ったように言葉をまくしたてる。
「ごめんなさい。どうしていいかわからなかったので…」消え入るような声で謝るとプリムローズはすぐに通りの裏手に回った。
小さな扉があったので急いでノックしてみる。
「はい、どなた?」
扉が開いてカイトが顔をのぞかせた。カイトは黒髪で琥珀色の瞳をした痩せた男の子だった。最後に見たのは15歳だった。
なのに屋敷で出会ったカイトはすっかり逞しい男になっていた。
逞しいだけでなく元々端整な顔立ちだったのですっかり美形な男になって背も伸びてすっかりプリムローズを追い越していた。
「プリムローズ?良かった。無事だったんだな。神殿の近くまで行ったけど警備が厳しくて追い払われたんだ。でも、神殿から出て来た騎士隊が生贄は必要なくなって良かったって言ってたからほっとしていたんだ。なのに遅いから心配してたんだぞ!」
カイトはそう言うとプリムローズを中に引き入れた。
「うん、遅くなってごめんカイト。あなたのおかげですぐに街で仕事を探せたわ。仕事決まったのよ。それに住むところのお世話してもらえることになって」
「そうか…でも大丈夫なのか?それ、どんな仕事なんだ?俺が一度調べてやろうか?それに住むところって?しばらくはローリーの所に居させてもらえばいいんじゃないのか?」
カイトはプリムローズの手を掴んで身体を引き寄せるとこそこそ小さな声で話をする。
カイトの声が耳元にかかってくすぐったくてプリムローズは肩を震わせた。
カイトとは仲のいい友達だったが、再会してからはまだほんの数回話をしただけだった。
(カイトったら一体どうしたの。再会したらいきなり大人になっててわたしまだとまどってるのに…そんな態度取られたらうしていいかわからなくなるじゃない。でも心配してるって事はわかる。カイトに心配ないって話しなきゃ)
プリムローズはドキドキする気持ちをぐっと押し込んでカイトに安心するように微笑んだ。
「大丈夫よ。彼らは竜人なんだって、私たちと同族なのよ。そんな人がひどいことするはずないもの。カイトだってそう思うでしょう?」
「そんなの嘘かも知れないぞ。竜人だって人化すれば人間と大して変わらないんだ」
「ううん、私神殿で見たの。竜が空から舞い降りて来て人間の姿に変わったの。そして生贄はもうやめるって言ったの。その人竜帝らしいんだけどその人が今度働くことになった職場にいるのよ。だから絶対心配ないから」
「そんなに言うならいいけど。ちょっと待ってろ。今仕事終わらせて送ってってやるから、それにどんなところに住むのか知っておきたいし」
「カイト大丈夫よ。一緒にそこで働く人がついてきてくれたの」
「はっ?何してんだよ。プリムローズ無防備すぎだろ?男と一緒に馬車になったのか?」
「だって…」
「っつ!お前、俺がお前を…もういい。そいつはどこにいるんだ?俺が送って行くって話をつけるから案内しろ!」
「そんなのだめよ。これから一緒に働くのよ。気分悪くさせたら働き辛くなるから…カイトには感謝してるから。ほんとにありがとう。あなたに会えていなかったら私死んでたかも知れないもの。また遊びに来るから。あっ、これ働く縁結び処って言うところの住所。結婚相談所なのよ。うふっ。私頑張るから」
「結婚相談所?何だよそれ?」
「真剣に結婚を考えている人を募集してお相手を紹介するの。あっ、そうだ。カイトの働いているニップ商会にはたくさんの独身の人がいるわよね?今度募集のビラを持ってくるから配布させてくれない?」
「そんなの上司に聞いてみないと…」
「ええ、きちんと話をするから心配しないで。ごめんねカイト。そうだ。ローリーと会えるんでしょ?私は大丈夫だって伝えておいて、また会おうって。じゃあ、カイトまたね。ほんとにありがとう」
「ばか!勘違いするな。俺はいつだってお前の味方だ。何かあったらいつでも頼ってこい。いいかプリムローズわかったか?」
「うん、カイトありがとう」
カイトはやっと手を放してくれた。そしてプリムローズが見えなくなるまで見送ってくれた。
プリムローズは表通りに出るまでカイトに手を振った。
そんなプリムローズを悩まし気に見ていたのはダイルだった。
ダイルは何故かプリムローズを見た時から何か惹きつけられるものを感じた。
それが何なのかはよくわからないが多分レゴマールもブレディもピックも、それにアルナンドの態度もおかしかったと思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます