第10話 こんな人が竜帝?


  (番認識阻害薬って何?)


 プリムローズはふと持ち上がった疑問に思わず口をはさむ。


 「あの…その番認識阻害薬って言うのは何ですか?」


 ブレディがすかさず説明を始めた。


 「プリムローズ良く聞いてくれた。番認識阻害薬って言うのは竜人のために作られた薬なんだ。竜人はとにかく番を求める生き物で、そのせいでゼフェリス国とメルクーリ国にも辛い時期があった。だろう?それに番を求めすぎるせいでゼフェリス国の出生率はすごく悪いんだ。このままでは竜人の子供がいなくなってしまうのではと危惧したのがアルナンドで。あっ、アルナンドはゼフェリス国の新しい竜帝なんだ。それで俺が研究に研究を重ねて遂に完成させたのが番認識阻害薬。これを飲めば番に出会っても番を認識できない。だから番を求めることをやめて新しい出会いを求めても心配ないって事だ。そしてここにいる5人はその薬を飲んでメルクーリに来たんだ。何しろ結婚相手を見つけるまでは帰らない覚悟でね」



 「ああ、それで職業紹介所を開いたって事なのね。女の子が来たら手当たり次第に付き合おうって…」


 (なんだ。てっきり私もててるのかと思ったらそんな魂胆があったなんて…でも、遊び相手じゃなくて結婚相手を探してるんだから、不真面目でもないって事?)


 納得できるような出来ないような気持ちでプリムローズは話を途中で辞めてしまった。


 「誤解だよプリムローズ。僕たちは真面目に結婚を考えているんだ。遊びで付き合って終わりって言うような関係じゃなくて。だから結婚相談所はぴったりだと思うんだ。僕たちこの国に来て何から始めればいいかもわからなかったし。ねっ、頼むよ。一生懸命やるから、プリムローズの経験を生かして協力してくれよ。僕達、ほんとに結婚相手を探したいんだ。だからお願いだよ。一緒に仕事してくれるよね?」


 ピックは縋りつくような目でプリムローズを見つめる。



 「どうやらこいつら本気みたいだし、どうだろうかプリムローズ。一緒に結婚相手を探すのを手伝ってくれないか?俺達の出会いの手助けをして欲しい」


 ダイルも何だか真剣に頼んで来る。


 「わかりました。でも、私一人では無理ですよ。一緒に協力して下さいよ」


 「「「「ありがとうプリムローズ!君は俺達の天使だよ」」」」


 でもアルナンドだけはあまりいい顔をしていない。


 「俺は反対だ。だってそんなうまく行くわけない…知らないからな。責任はお前たちで取ってくれよ」


 そんな事を言い残してさっさと奥の部屋に入って行った。


 「あの…いいんですか?彼、所長なんですよね?」


 プリムローズは慌てる。


 「ああ、いいんだ。アルナンドは女性の前ではちょっと…でも力は誰より強いんだ、統率力はあるんだが、その女の子の前ではなんて言うか…シャイっていうか…まあ、俺達がその分頑張るからプリムローズは心配しなくていいから」


 「まあ、みんながそう言うならいいんですけど…」


 皆がうんうんと頷いた。



 それから部屋の片づけをしてテーブルではなくカウンター式の受付に模様替えする。


 看板も結婚相談所では堅苦しいと【縁結び処。出会いの応援します】と看板を取り替えた。


 「取りあえず今日はここまでにしましょう。プリムローズさん。あなたにはこれから住むところを案内しますので一緒に来て下さい」


 そう言ったのはダイルだった。


 聞けば彼はアルナンド竜帝の側近をしているとの事。


 (どうりで何でも手際がいいはずだ)


 プリムローズは「はい、よろしくお願いします。あのダイルさん。私の事はプリムローズでいいので」と答えると愛想よく答えるとダイルは花が咲いたような笑顔を見せた。


 「はい、プリムローズ。さあ、行きましょうか」


 プリムローズはダイルの後に続いた。



 後ろでは「いいなぁ。ダイルの奴。役得じゃないか。おい、プリムローズってすごくいい匂いしないか?」ブレディはたまらないとばかりに残り香を嗅ぐ。


 「僕もそう思ってたんだ。彼女いいよな。僕彼女を口説こうかな」


 「ばかピック!お前にはまだ早い。プリムローズは俺が落とす」そう言ったのはレゴマールだった。


 「あれ?いいの。兄貴も狙ってるんだよね」


 「お前ら、いい加減にしろよ!」


 ブレディの大きなげんこつが2発落ちた。


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