第6話 それって高収入じゃないですか!

 


 プリムローズは15歳になるまでずっと平民として生きて来た。なので貴族令嬢のように気楽に生きていけるなどとは思ってもいない。


 とにかく今必要なのは仕事だった。


 プリムローズの生い立ちは、母のローラが生きていた頃はラルフスコット辺境伯領のオデルと言う街に住んでいた。


 だが、母が亡くなってからは祖母のマグダの住んでいたせぶりの森に住んだ。ここはラルフスコット辺境伯領の国境にある森だ。


 そこには同じ竜族の家族がいた。それがカイルやローリーだった。


 そこではみんな蚕から生糸を生成する仕事をしていた。この国は三方を森に囲まれていて養蚕が盛んだ。絹の生産は国の大切な資源だ。


 そんな養蚕の仕事はとてもきつく普通の人間より少ないながらも魔力を持つ竜族が向いていた。


 竜族は人間より力があり回復力も魔力があるので早いのだ。


 おまけに魔力は害をなすほど強くない。


 だから人間は竜族にはきつい仕事をさせて利用している。そのくせ竜族は人間と同じではないとみなして見下している。


 それはある事件が原因だった。


 300年前まではメルクーリ国にも竜人や竜人と結婚して暮らしていた。


 もちろん人間と同じように平等に暮らしていた。


 だが、ゼフェリス国の竜帝のドロークの番がメルクーリ国の王妃ローズとわかって王妃がドロークに連れ去られる。


 時の国王クラリスはゼフェリス国に戦争仕掛けた。


 でも、人間が竜人にかなうはずもなく勝敗はあっけなく負けた。そしてローズはその後亡くなったと風の噂で伝わったらしい。


 そんな事があってメルクーリ国はゼフェリス国に生贄を差しだすことになった。そしてメルクーリ国から竜人が消えた。


 だからメルクーリ国に残された竜族(竜人と人間との間に生まれた人間)は人々から恨まれて生きて行く事になったのだ。


 その子孫がプリムローズの祖母や母親と言うわけで父親もそれが分かっていたからこそプリムローズの事など気にも留めなかったということだろう。


 なので同じ竜族とは助け合うことが多い。


 カイルやローリーも同じ竜族でプリムローズとは家族のように仲がいい。



 「あの…それでお、お給料はどれくらいかと?」


 プリムローズは勇気を振り絞ってやっとその言葉を吐きだした。


 ダイルはああ、そうかと言わんばかりの顔をして頷くとすぐに応えてくれた。


 「ああ、そうですね。私としたことが気が付かなくって…給料は1万フールでどうでしょう?それに住むところがなければここの近くに住むところがあるから住んでもらって構わないんですよ」


 「1万フールに住むところまで?」


 瞬時にプリムローズの脳内でお金の換算が始まる。(1万フールと言えば日本円で言えば…30万くらいってとこかしら?それって中堅サラリーマンの1か月分の給料と同じ。って事はすごく高収入って事。それに住むところまで…竜族として平民として働いたとしてもせいぜい1千フールくらいが関の山だろうし…これはもう決まりって事じゃ…でも、自分が竜族だと言うことを隠していてもいいのだろうか?ふと疑問が沸き上がった。もし後でそのことがばれて仕事を失うくらいなら最初から話しておいた方がいいのでは…)


 プリムローズのほくそ笑んでいた顔が強張る。


 「あの…実は私…竜族の子孫なんですけど、それでも雇っていただけます?」


 ダイルがまるでなくしていた大切な物でも見つけたかのように顔中をほころばせた。



 「プリムローズは竜族なのですか。ああ、願ってもないご縁ではないでしょうか。むしろこちらからお願いしたいくらいです」


 「は、働きます!いえ、働かせてください!」


 気づいたら叫んでいた。


 (あっ、しまった。ここってまさかブラックじゃないよね?あんな給料支払うって言うなら仕事きついのかも…どうしよう。今世ではゆるゆるで行きたかったのに…)


 プリムローズは一抹の不安を残したままここで働くことに決めるが…


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