第65話 彩子先生に二股を迫られる

「はーい、お待たせ、拓雄くーん」


 日曜日になり、今度は彩子とデートする事になってしまい、彼女との待ち合わせ場所である公園で、待っていると、カーディガンを羽織った彩子が、手を振りながら、拓雄の元に駆け寄る。


「待った?」


「いえ、今、来た所です」


「あーん、テンプレみたいなデートの定番言ってくれて、嬉しいわ。じゃあ、行きましょうか」


「は、はい……あの……」


「ん?」


 彩子は顔も隠さずに、堂々と拓雄の腕を組んで来たので、拓雄も動揺し、大丈夫なのかと目で訴えると、


「平気よ。顔なんかバレても、いくらでも誤魔化しは効くわ」


「でも……」


「たまたま会って、ちょっと話をしたんですって言えば、良いのよ。学校だって、名誉があるから、教師の不祥事は公にしたくないものよ」


 と、教師とは思えないようなことを言う彩子であったが、実際、学園にバレても、三人は注意を受けただけで、お咎めなしだったので、大勢の人に見られなければ、大丈夫なんだろうと、拓雄も言い聞かせていた。




「じゃあ、行くわよ」


「あ、あの、やっぱり腕は……」


「何でよ、デートなんだし、良いじゃない。てか、近くに私の車停めてあるから、それに乗れば大丈夫よ」


「はあ……」


 そう言いながら、彩子は教え子の腕を引いて、駐車場に停めてあった自身の車に乗り込み、拓雄も後部座席に乗る。


 後部座席の窓にはシャドウがかかっており、外からは見えないようになっていたので、ある程度の配慮はしてくれているのかと安堵したが、それでも不安は拭えなかった。




「それでね、その時、部員の子達が……」


 運転しながら、彩子が拓雄に他愛もない話を振っていき、拓雄も作り笑いを浮かべて、相槌を打っていく。


 しかし、次第に人気が少ない、山の中に入っていったので、どこに連れて行くのかと、首を傾げていた。


「あの、今日は何処に?」


「うん? 拓雄君と大自然を満喫しながら、芸術の造詣を深めようと思って」


「はい?」


「くす、大丈夫よ、怖がらなくても。さ、そこのレストランで、昼食にしましょう。ここのステーキ、美味しいのよ」


「はあ……」


 と言って、ログハウスのレストランに車を停めて、ここで二人で昼食を摂る。


 かなりの山奥にあるレストランなので、知り合いもいないだろうと、安心しながら、彩子とランチタイムを過ごしたのであった。




「んーー、美味しかったわねえ」


「ごちそうさまでした。あの、本当に良いんですか?」


「何が?」


「その、奢ってもらってばかりで……」


 昼食を摂った後、かなり高額な代金を彩子が払ったので、なんだか悪い気分になりながら、そう言うと、


「もう今更、気にしないの。先生の方が大人なんだから、当たり前。ほら、早く乗って。次、行くわよ」


「は、はい」


 さも当然といった口調で、彩子がそう口にし、手際よく運転を再開する。


 だが、未だに行き先を教えてもらえず、不安な面持ちのまま、後部座席に乗り、車に揺られていったのであった。




「到着っと。さ、入って」


「ここは……」


 三十分ほど山道を車で走り、着いたのは、一軒の山小屋。


「ここは知り合いが所有している、別荘なの。ちょっと今日だけ特別に貸してもらったのよ。くす、さあ、入って」


「は、はい」


 何故、こんな山奥にあるような別荘に連れてきたのだろうと、首を傾げながら、拓雄も中に入り、木の香りが漂う丸太小屋でふたりきりになってしまったのであった。




「どう?」


「素敵なロッジですね……あの、ここで何を……うわっ!」


 丸太で出来た、部屋の中を見渡して、感心している拓雄に彩子が抱きつき、胸を背中に押し付ける。


「ねえ、すみれ先生と何かあったでしょう?」


「う……な、何もないです」


「本当? 嘘付くと、先生、拓雄君をこのまま襲っちゃうけどなあ……」


 と、耳元で甘く囁きながら、彩子がそう迫り、拓雄も顔を真っ赤にして、俯く。


 拓雄とすみれの様子がいつになくおかしかったのを、彩子はいち早く察し、何があったのか二人きりの邪魔されない空間に呼び寄せて、聞きだそうとしていたのであった。


「ほら、早く、言いなさい。言わないと、そうね……先生のヌードデッサンでも、課題に出そうかしら」


「ええっ!? な、何でそんな事を……」


「あら、悪い? くす、ここなら誰もいないし、先生のことも好きなだけ、デッサン出来るでしょう? ほら、スケッチブックなら、持ってきてあるから、これに描きなさい」


 動揺している教え子に、彩子はスケッチブックと鉛筆を渡して、彼の前に立ち、身に羽織っていた、カーディガンを脱いで、ブラウスも脱ぎ始める。


「せ、先生っ!」


「ん? 何?」


「だ、駄目です、すぐに服を……」


「どうして、拓雄君が嫌がるのかしら? 脱ぐのは先生だから、別に拓雄くんは何も恥ずかしがる事はないでしょう? くす、先生のプロポーション、どうかしら……」


 慌てて止めに入った、拓雄をあざ笑うようにそう言いながら、純白のブラジャーを晒して、スカートまで脱ぐ、彩子。


 今更、彼の前で肌を晒す事に何の抵抗もなかった彼女は、教え子の前で肌を惜し気もなく晒し、あわよくばここで既成事実を作ろうとすら考えていた。




「わ、わかりました。言いますから、止めてください」


「んーー? 残念ねえ……そこまで、先生のヌードデッサンするの嫌だったかしら」


 ブラジャーまで脱ごうとした所で、堪らず、拓雄もそう言い、頬を膨らませながら、彩子も脱ぐのを停止する。


 彩子の裸が見たくない訳ではなかったが、このまま彼女にはしたない格好をさせたくないという思いもあり、拓雄も止めに入ったのであった。


「すみれ先生と何があったの?」


「その……みんなに内緒で付き合おうって話しになって……」


「やっぱり、そんな事。全く、抜け駆けするなんて、性格悪いわね、すみれ先生も。んで、どうして、私じゃなくて、すみれ先生なのよお……先生と付き合うの嫌? それとも、脅されて、渋々付き合っているとか?」


「えっと……」


 脅されて付き合っているというのは少し違う気がしたので、拓雄もしばらく黙り込む。


 すみれの事は実際に好きではあるので、彼女と付き合うのが嫌な訳ではなかったが、それでも彩子とユリアに内緒にするのは気が引けたので、このまま黙っていようか悩んではいたのであった。


「ふん、まあすみれ先生もいつまでも隠しとおせるとは思ってないわよ、安心して。ただ、ほんの少しで良いから、拓雄君を独占したいなって思っただけだと思うわ」


「はあ……」


「そうよ。ねえ、黙っているから、先生とこっそり二股しない?」


「え?」


 彩子が下着姿のまま、拓雄にそう迫り、そっと抱き寄せて、自身の胸元に彼の顔を押し付ける。



「だから、先生と付き合いましょうよ……二人に内緒で、二股するの? そりゃ、すぐにバレるかもしれないけど、ほんの少しだけ、先生と危ない遊びをしてみない?」


「で、でも……」


 まるで、母親のような穏やかな口調で、彩子が拓雄に交際を迫り、彼女の豊満な胸を顔で感じながら、彼も顔を真っ赤にして、黙り込む。


 そんなことを簡単に首を縦に振れるはずはなかったが、彩子は本気であり、それを感じた拓雄もどう答えようか悩んでいた。


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