第50話 ユリア先生とのデートで彼女のお顔をずっと眺める
「えっと……まだ来てないのかな……?」
翌週の日曜日、拓雄が指定された待ち合わせ場所である公園に行き、ユリアの姿を探す。
今日はユリアとデートする番になり、拓雄もすみれの時以上に緊張してしまい、昨夜は殆ど眠る事が出来なかった。
(ユリア先生と二人きりでデート……)
学園でも一番の――いや、テレビや映画なんかに出て来る女優やアイドルなどと比較しても、ユリアの美貌は際立っていたので、彼女とデートなど、夢でも見ているのかと、頬を何度も抓っていたが、一向に醒める気配はなかった。
しかし、もう待ち合わせの時間になるので、まだ来ないのかと心配になってしまい、一度、彼女に電話しようとすると、
「お待たせ」
「あ……先生……?」
背後から、フチの大きい帽子を被り、ワンピースを身に纏ったユリアが声をかけてきたので、一瞬、拓雄も誰かと思い、首を傾げると、ユリアも帽子のフチをあげて、顔を見せた。
「待たせちゃったわね。ごめんなさい」
「いえ、時間ピッタリなので……」
堂々と顔を出していたすみれと違い、ユリアはやはり、顔を見られるとまずいと察したのか、帽子で出来る限り、顔を隠すようにしていたのであった。
「なら、よかった。じゃあ、行くわよ」
「あの、今日は何処へ……」
「さあ。あなたが案内してくれるんじゃないの?」
「えっ? せ、先生が今日、決めるって言ったんですけど……」
「うん。だから、拓雄君に任せるわ。あなた、たまには女性をリードすることを覚えた方が良いわ」
「で、でも……」
急に言われてもと、拓雄も困った顔をしていると、
「この前、私に花火を見せてくれたじゃない。あの時みたいに、エスコート出来ない?」
「あの時とはまた違うので……」
夏にユリアを花火が見える場所に連れて行ったのは、咄嗟にやった事で、自分でもよくあんな大胆な真似が出来た物だと感心してしまう程であったが、今日は丸1日、ユリアと二人きりで過ごす事になるので、拓雄は彼女を引っ張って、喜ばせる自信は全くなかった。
「はあ……仕方ないわね。じゃあ、ちょっと買い物に付き合ってくれる?」
「あ、はい」
自分をエスコートするよう、促した物の、期待出来そうにないと判断したユリアは溜息を付いて、彼の手を握り、結局、ユリアがリードする事にする。
まだ、彼には早いかとユリアは思いながらも、拓雄らしいとも感じ、彼の手を引いて、ショッピングセンターへと向かっていったのであった。
「んと、どれにしようかしら……」
ユリアと一緒に駅ビルにある、女性用の衣服店に行き、ユリアが秋物の私服を物色する。
慣れない婦人用の衣服店の雰囲気に居心地の悪さを感じていた拓雄であったが、ユリアの側を離れる訳にもいかず、彼女のそばにじっと黙っているしかなかった。
「どれが似合いそう?」
「え? えっと……先生には……」
「先生ってあまり言わないで。ユリア……いえ、ユリと呼べば良いかしら。とにかく、先生とは今は呼ばないで。怪しまれるでしょう」
「は、はい」
「うん、宜しい。じゃあ、どれが私に似合うと思う?」
そう拓雄に釘を刺した後、ユリアはワンピースを二着、彼に見せ、どちらが似合うか改めて訊ねる。
どちらもユリアには似合いそうなので悩んだが、
「こっちの方が似合うと思います」
左手に持っている、白のワンピースを指差すと、ユリアも考え込み、
「そう。なら、こっちにするわ」
「え……良いんですか?」
「あなたが選んだんじゃない。だから、それで良いわ」
本当に良いのかと恐縮してしまった、拓雄だが、ユリアがそう言って、彼が選んだワンピースをレジに持って行く。
それほど、考えもなしに選んでしまい、悪い気がしていたが、ユリアはどんな形でも選んでくれたのが嬉しく、密かに心を躍らせながら、会計を済ませていった。
「次はどこに行こうかしら……あなた、休みの日は、いつも何をしているの?」
「えっと、買い物行ったり、テレビ見たり……あと、ゲームとか漫画を……」
店を出てから、ユリアにそう聞かれ、正直に答えるが、自分で言っていく内に恥ずかしくなってしまい、縮こまる。
「そう。私も、買い物や映画観たり、動画サービスを見るくらいだから、似たような物ね」
「そ、そうなんですか」
「うん。特に熱中している趣味もないし。最近、ジムに行き始めたけど、仕事が忙しくて、中々、行く機会もないしね」
「はあ……」
ユリアが普段、どんな休日を過ごしているのかと思い訊ねてみたが、特に変わった趣味もないようだったので、拍子抜けしてしまう。
彼女の美しさの秘訣などが聞けるかと思ったが、それは天性の物で、ユリア自身が努力して、手に入れた物ではないのであった。
「それで、何処に行きたいの?」
「あの……二人きりになれる所が良いです」
「二人きりに……」
改めてそう聞くと、思いもよらぬ事を拓雄が言ってきたので、彼女もドキっとする。
「今、二人きりだと思うけど」
「そ、そうじゃなくて、その……ユリさんと二人だけで過ごせる場所って言うか……か、カラオケボックスとかどうです?」
「良いわよ」
彼女と二人きりになれる場所というと、そこくらいしか思い付かず、咄嗟に拓雄が言うと、ユリアも即座に了承する。
「ドリンクは何にする?」
「えっと、コーラで」
近くのカラオケボックスに行き、部屋に入ると、ユリアがドリンクを注文する。
ユリアと二人きりというだけで、拓雄はドキドキしていたが、ユリアはいつもの様に表情を変える事なく、淡々としていた。
「それで? どうして、私をここに連れて来たの?」
「っ! その……ユリア先生の顔が見たくて……」
「私の? 毎日、学校で見ているのに」
「今日は帽子被っていて、よく見えないので……」
そう言う事かと、ユリアも納得したが、拓雄がそこまで言ってくれたのが嬉しく、彼女も少し視線を逸しながら、
「悪かったわ。でも、二人で一緒に歩いている所を見られると、まずいのはあなたもわかるわよね?」
「はい。でも……」
折角のデートなのに、ユリアの美しい顔が見れないのはもったいない――拓雄はそう思い、帽子を被って顔を隠している彼女を見て、逆に損した気分になっていた。
「くす、良いのよ。嬉しいわ。ほら、隣に座りなさい」
「は、はい。あ……」
ユリアが優しく微笑みながら、拓雄に隣に座るように促し、彼女の右隣に座ると、ユリアがそっと彼の手を握る。
「本当はもっと色々な事をしたいんだけど、私はすみれ先生みたいに積極的でもないの。でも、こうして二人で静かに過ごすのも悪くないじゃない。カラオケボックスで、静かにってのも変だけど」
「はい……」
拓雄に寄り添いながら、ユリアが手を繋いで、そう言い、彼女の顔を間近に眺めて、拓雄も頷く。
やはり、ユリアの顔立ちはとても美しく、いつまで見ていても飽きない位であり、そのまま曲を入れる事もなく、二人は手を繋いだまま室内で時間を過ごしていったのであった。
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