第42話 来年からまた新しい美人教師が学園に来る事に

「へえ、来年からあなたもこの学園に」


「ええ。非常勤からですけど、ここで教鞭を取ることになりました。宜しくお願いします」


「ふふ、宜しく」


 麻美がユリアと彩子に、自分も来年からこの谷村学園に教員として赴任することを告げ、それを聞いた拓雄も嬉しさで胸が熱くなる。


 彼女の授業を受ける事になるかはまだわからないが、麻美もこの学校に通う事になるのかと思うと、それだけでもっと楽しくなれそうな気がしていったのであった。


「ところで、猪原先生。彼と一緒だったみたいだけど、一緒に文化祭を回る約束でもしていたのかしら?」


「いえ。たまたま黒田君を見かけたので、一緒にと思って……」


「そう。でも、来年からウチの学校に来るのだから、特定の在校生とあまり仲良くなりすぎないように気をつけてね」


「は、はい。すみません」


 ユリアが麻美にそう釘を刺し、麻美も背筋を伸ばしてそう言う。


 特に可愛いと思っていた拓雄を見て、思わず声をかけてしまったが、軽率だったと反省し、拓雄も今のユリアの言葉を聞いて、自分も麻美の誘いを軽々しく受けすぎたと反省していた。




「くすくす、ねえ、拓雄君、ちょっと良いかしら?」


「はい?」


 彩子が穏やかに笑いながら、拓雄の袖を引っ張って呼び出し、彼を美術室の外に連れ出して、隣の準備室に入ると、


「酷いわ、拓雄君! 先生との誘いを断って、他の女と一緒するなんて!」


「い、いえ。あの猪原先生とは、偶然会っただけで……」


「それでもよ。あの子の誘いはすぐに受けて、どうして先生は駄目なの? しかも、来年にはウチの学校に来るって言うし……まさか、猪原先生の事、好きなの?」


「そ、そんな事は……」


 と、涙ながらに彩子が拓雄に駄々を捏ねて迫り、拓雄も困惑して言葉を濁す。


 確かに麻美に誘われて嬉しかったのは事実だが、彼女の事が好きなのかは自分でもよくわからなかった。


「じゃあ、今からでも先生と二人で一緒しましょう。猪原先生はユリアちゃんに任せるから」


「ええ? で、でも……」


「でもじゃないの。先生の命令。嫌なら、ここでキスして。こんな風に……んっ!」


「んっ、んんっ!」


 彩子が不意に拓雄に抱きついて唇を重ね、拓雄も息が詰まりそうになる。


 彼女のとのキスは初めてではないが、今は文化祭の真っ最中で、一般の客も居る中なので、誰かに見られはしないかとヒヤヒヤしながら、彩子の接吻に身を預けていた。


「んっ、んん……はあっ! はあ、はあ……あん、ほら先生と二人で……」




 トントン。


「彩子先生。居るんですか?」


「ユリアちゃん? どうぞ」


「失礼します。って、何をしてるんですか」


 ユリアが準備室に入ると、彩子は見せ付けるように拓雄に抱きつき、胸を密着させていく。


「見ての通りですよー。猪原先生はどうしたんです?」


「彼女は隣の美術室にまだ居るわ。止めなさい、隣には一般の客まで来ているんですよ」


「ふん。でも、帰したら、拓雄君は猪原先生と一緒にデートする気なんでしょう。だったら、このまま離れないもん」


「それは大丈夫よ。これからは私達と回る約束をしたから。ついでにすみれ先生も一緒って事で」


「えーー? 私、拓雄くんと二人が良いなあ」


「それは後にしなさい。とにかく、行くわよ」


「はーい。じゃあ、また後夜祭で一緒しようね」


 納得は出来なかったが、彩子もユリアに言われて、麻美と共に文化祭を回る事にし、拓雄は一人残される。


 取り敢えず、彩子から逃れられたのでホッとしたが、まだ文化祭は終わった訳ではなかった。




 文化祭も無事、終了し、後夜祭が始まって、体育館ではバンドの演奏で盛り上がる。


 しかし拓雄はバンドの演奏には興味がなかったので、スミっ子で一人でボーっと眺めていただけであったが、そんな中、


「よっ、何やってるのよ?」


「すみれ先生」


「随分と辛気臭い顔をしてるじゃない。あんたも一緒に盛り上がらないの?」


「いえ、何か疲れちゃったというか……」


「ふーん。後片付け、そんなに大変だったかしら? まあ、良いわ。暇なら付き合いなさいよ」


「あ、はい……」


 すみれに声をかけられ、拓雄は彼女に連れられて体育館を一緒に出る。




「やーん、拓雄君、来てくれたのね」


「黒田君、お疲れ様」


「猪原先生、まだ居たんですか?」


 すみれに連れて行かれた先は、いつも三人が溜まっている美術準備室で、入ると、ユリアと彩子、それに麻美も一緒におり、拓雄を見るや、彩子も目を輝かせる。


「来年から、この学園に講師として赴任するって言うから、特別に一緒に居る事を許可されたの。いやー、嬉しいでしょう。こんな美人の先生がまた来るなんて」


「び、美人なんて、そんな……」


「事実だしー。拓雄も鼻の下、伸ばして嬉しそうにしちゃって。んーー、まさか、麻美先生といけない関係になろうとしてるんじゃないでしょうね?」


「そんな事は……」


 ないと断言しておきたいが、彼女と仲良くなれるのであれば、それに越した事はなく、麻美が来るのは楽しみにしていた。


「ウチら、三人でよくこの準備室でお昼を食べているの。打ち上げも三人で行く予定だけど、よかったら一緒するー?」


「いえ、ちょっと今日は……」


「そう。ねえ、麻美先生も随分と拓雄君の事、気に入ってるみたいね」


「気に入っていると言うか、真面目で放っておけないというか……」


「そうよね。うんうん。わかるわ。だから、私も彼の事、好きなのよ」


「そ、そうなんですか」


 と、彩子がストレートに拓雄のことを好きと告げると、麻美も、そして拓雄もビックリしてしまうが、ユリアとすみれも顔色一つ変えず、


「そう言う事なの。だからー、彼の事で何か悩みがあるなら、私も相談に乗るわよー」


「はあ……」


 すみれがそう言うと、麻美もキョトンとした顔をして、頷く。


しかし、ユリアも続けて、


「彼の事、好き?」


「ふえっ!? す、好きか嫌いかで言えば、好きですけど……」


「そう。なら、素直にそう言いなさい。私達だけの秘密にしておくから」


「は、はい?」


 真意がわからず、麻美もユリアの言葉を聞いて首を傾げる。


 しかし、麻美が拓雄の事を気になっているのは明らかだったので、三人ともそれならいっそ彼女も抱きこんでしまおうと思っていた。




「それとも、麻美先生、彼氏とか居るんですか?」


「いいっ? い、居ませんよ」


「くすくす、そう。麻美先生も好きなのねー。私たちも同じなの。だから、来年は同志になりましょうね」


「? は、はあ……」


 彩子の言う事がわからず、困惑していたが、麻美がフリーである事を確認すると、来年は確実にライバルになってしまうと確信して、火花を散らし、同時に焦り始める。


 すみれは面白い事になりそうだと逆にゾクゾクし、ユリアは何を考えているのか、淡々とした表情で四人を眺め、拓雄も嫌な予感の中、来年麻美が来る事を無邪気に心待ちにしていたのであった。


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