第29話 先生達と一緒にお祭りデート

「えっと、先生達は……」


「あ」


 翌日、拓雄は縁日を行っている神社に一人で向かい、人ごみの中、三人の姿を探していると、浴衣を着ていたユリアにバッタリと会う。


「ユリア先生……えっと、こんばんわ」


「こんばんわ。君もお祭りに来たの?」


「ええ、まあ」


 と苦笑いしながら、拓雄も答えるが、自分で誘っておいて、よくもそんな事が言えるものだと逆に感心してしまった。


 だが、教師と生徒がプライベートで遊んでいる所を見られると、彼女らの立場が悪くなるのは確かなので、あくまでたまたま鉢合わせしたと言う形にしておく事にしておいた。




(ユリア先生、綺麗だなあ……)


 彼女の浴衣姿を見て、改めて見惚れてしまう。


 長い髪を後ろに束ねて結い、水色の浴衣を身に纏ったユリアはとても清楚で美しい雰囲気を醸し出しており、通り過ぎる人は皆、彼女に視線を送り、羨望の眼差しで見ていた程であった。


「ヤッホー、ユリアちゃん」


「彩子先生にすみれ先生」


「よっと……あ、拓雄じゃない。奇遇ねえ。あんたもお祭り?」


「はい」


 ユリアに見とれていると、彩子とすみれもやって来て、ユリアに声をかける。


「えへへ、拓雄君。どう、先生の浴衣?」


「あ、はい。似合ってますよ」


「もう。似合ってるじゃなくて、可愛いとか綺麗とか、言ってほしいなあ」


 彩子も赤い花柄の模様の入った浴衣を着て、拓雄に見せつけ、拓雄も年齢以上に可愛らしく着こなしていた彩子にしばらく見とれる。


 今晩は、拓雄に浴衣姿を見せる為、入念に着付けも頑張っており、実際に可愛らしかったが、それでもユリアの美しさの前には霞んでしまっており、微妙な反応しか引き出せず、彩子も不満を抱いていた。




「すみれ先生は、浴衣じゃないのね」


「だって、着付けの仕方、よくわからないし」


「私が手伝うって言ったのに。もう、ズボラなんだから」


「良いじゃない。浴衣、ひらひらしてて、あんま好きじゃないのよね。動きやすい服装が一番」


 浴衣を着ていた二人とは違い、すみれはTシャツにレディースジーンズとラフな格好で着ていたが、それでもサバサバした美人の彼女にはよく似合っており、モデル顔負けのプロポーションに拓雄も少し顔を赤くしてみていた。


「んじゃ、何処に行く?」


「へへ、拓雄君と、輪投げでもしようかなー。あ、それとも金魚すくいが良い? 先生、何でも奢っちゃうよ」


「いえ、そんなの悪いですし……」


人ごみの中であるにも関わらず、平気で拓雄に腕を組んできた彩子に、ヒヤッとしてしまうが、彩子は構わず、幼い教え子を引っ張り、


「ほらほら、行こう。先生、金魚すくい得意なのよ」


「止めなさい。ウチの生徒や教員がどこで見てるかわからないのよ」


「もう……たまたま、会っただけですし、良いじゃないですか」


「たまたま縁日で会った男子生徒と腕を組んだりするなんて、随分と破廉恥な先生ね。てか、拓雄君、困ってるわよ」


 流石に見兼ねた二人が、彩子に自重するように促すと、彩子も頬を膨らませて離れ、


「むうう……しょうがないわ。ね、金魚すくいしよう? 先生が好きなだけ金魚プレゼントしちゃうから」


「は、はい」


 彩子に熱烈に誘われ、近くにあった金魚すくいに二人で行く。




「よーし……えいっ♪」


 お金を払い、ポイを手に取った彩子が素早く泳いでいた金魚をすくい、容器の中に入れる。


「おお、上手いじゃない。さすが、美術教師」


「えへへ。拓雄君もほら」


「はい。あ……」


 拓雄もやってみるが、すぐに破れてしまい、失敗してしまう。


 元々、得意ではなかったので、格好悪い所を見せてしまったが、彩子はそんな彼を微笑みながら、


「へへ、先生が取ってあげるからね。えい」


 と、次々と金魚を手際よくすくう。


 宣言したとおり、彩子は金魚すくいが上手く、拓雄も他の二人も感心しながら眺めていた。




「ふふん、次は私ね。あ、これ得意なんだ」


 金魚すくいの後、すみれが射的の屋台に向かい、玩具の銃を手に取って、景品に狙いをつけると、


「おお、凄いじゃない、すみれ先生」


「へへ。ユリア先生、やってみる?」


「いいわ。初めてだけど」


 次々と景品に当てていき、得意満面の笑みで、ユリアに銃を差し出すと、彼女もお金を払い、射的を始める。


「…………」


 パンっ!


「お、おお。何か、漫画に出てくる美人のスナイパーみたい」


 銃を構えて、真剣な目で狙いを定める姿が、本当にスナイパーみたいに格好良く見えてしまい、すみれも彩子も、拓雄も思わず見惚れてしまう。


 しかも正確に景品に当て、ユリアも得意気に銃を下ろして、息を付き、彼女の仕草、一つ一つがとても様になっていたのであった。




「拓雄君。何か食べたい物ある?」


「えっと、りんご飴でも食べようかと」


「そう。すみません、一つ下さい」


「え? あの……」


 射的が終わり、手に入れた景品を持ちながらユリアが拓雄にそう聞き出すと、すぐさま近くにあった屋台でりんご飴を買い、拓雄に差し出す。


「はい」


「あ、あの。良いんですか?」


「この前の花火大会のお礼。つべこべ言わず、受け取りなさい」


「ありがとうございます」


「あーー、ユリアちゃん、自分だけ良い格好して。拓雄君、先生にも奢らせて。何でも好きな物買うから。綿飴が良い? それとも焼きそば? お好み焼き? もう全部。奢るから、じゃんじゃん言って」


「そんなに食べられないですよ……」


 ユリアが拓雄にりんご飴を奢ったのを見て、彩子も対抗して、拓雄に何かを奢ろうとするが、既に夕飯を食べてきた彼はお腹があまり空いていなかったのだ。


「ううう……」


「まあまあ。ほら、花火始まるわよ」


「はーい」


 そろそろ恒例の花火が始まるので、四人で花火がよく見える広場へと向かっていった。




「うわあ……綺麗……」


 拓雄と三人の教師が、次々と打ち上がる花火を見学して、夜空に咲く大輪の花に魅入る。


 そして、彩子がピッタリと拓雄に寄り添い、手を繋いでいくと、


「えへへ……」


「む……ほら、拓雄」


「あの……」


 傍で見ていたすみれも対抗して、もう片方の手をつなぐ。


 正に両手に花状態で、困っていたが、背後で見ていたユリアが、


「モテモテね」


「う……」


 と、嫌味をこめて言い、拓雄も困った顔をして俯く。


 だが、そんなユリアに見せ付けるように、彩子もすみれもぎゅっと手を握って、ユリアに付け入る隙を与えようとはしなかったが、


「綺麗ね」


「……は、はい」


 拓雄の斜め前に立って花火を眺め、その灯りに照らされたユリアの顔がとても綺麗だったので、拓雄も釘付けになる。


 ユリアの浴衣姿が見れただけでも、拓雄は十分であり、そのまま三人で花火を見て、今日の縁日は終了したのであった。


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