第25話 テストが出来なかったお仕置きは……
「拓雄君、おっはよう♪」
「あ……おはようございます」
朝、登校している最中に、彩子とバッタリ会い、ニコニコ顔で挨拶をされる。
いつも笑顔で接してくれる彩子を見ているだけで、拓雄も彼女の可愛らしい笑みにドキっとしてしまう。
最近、特に会う事が多かったが、言うまでもなく彩子は、拓雄を待ち伏せしており、少しでも彼と接する機会を多くして、距離を縮めようと躍起になっていたのであった。
「えへへ、もうすぐ期末試験だね。大丈夫?」
「まあ、何とか。あの、先生。この前の課題は……」
「課題? ああ、補習の時の? もう出来た?」
「いえ、まだなんで、もう少し……」
「そう。提出はいつでも良いからね。自分で納得の行く出来になったと思ったら、先生に出して」
「はあ……」
彩子達の写生がまだ出来てなかったので、もうちょっと待ってほしいと恐る恐る告げると、彩子は笑顔でそう答える。
元々、成績に関係ないと言われていたので、拓雄も日々出される課題より、優先的に取り組む事はしてなかったが、それでもここまで言われると、あの彩子の課題は何のために出されたのかと首を傾げざるを得なかった。
「絵なんて、自分が完成したと思ったら、そこで終わりなの。部の子にも言ってるんだけどね。もちろん、コンクールや学校の課題なんかだと締め切りがあるから、そこまでに終わらせないといけないんだけど、自分が納得行くまで、じっくり絵を描いてみる事で絵の楽しさを学んでほしくて、先生、出したのよ。だから、本当にいつ出してくれてもかまわないから。それこそ、何年後でも」
と、彩子が言うと、素直に拓雄も感心してしまい、頷いてしまう。
空いた時間に家で描いたりはしていたが、どうしても自分で納得行く出来にならず悩んでいたので、今の言葉を聞いて、重しが取れた気分になっていった。
「えへへ、ちょっと美術の先生らしかった?」
「あ、はい……でも、やっぱり近い内に出しますので……」
「うん。楽しみにしているから。もうこれで完成したって思ったら、そこで出して。先生、百点つけるから。あ、もう行くね。じゃあねー」
そう言って、笑顔で彼に手を振り、職員室へ向かう。
何だかんだで、彼女はちゃんと尊敬出来る美術の先生なのだと、思い知らされ、拓雄も彩子の事をちょっと見直していたのであった。
「おはよう」
「あ、ユリア先生。おはようございます」
「彩子先生と随分、仲良くなったのね」
「そう……ですね」
と、ユリアがいつの間にか自分の背後におり、いつもと変わらぬ淡々とした口調で挨拶をして、自分に話しかける。
気配を感じなかったので、まるで幽霊みたいだと内心、思っていたが、ユリアは全く表情を変えないまま、
「先生と仲良くするのも良いけど、程ほどにね。若い女の先生と馴れ合っていたら、変な目で見られるし、彩子先生の学内での立場も悪くなるから」
「は、はい」
彩子と仲良くなっているのが気に入らなかったのか、ユリアが冷たい視線で拓雄を見つめ、そう釘を刺す。
「じゃあ、もう行くから。来週から期末試験だけど、しっかりやるのよ」
そう告げて、さっさと職員室に向かう。
基本的に彩子の方から話しかけてきているので、これ以上、彼女と馴れ合うなと言われても、拓雄も困ってしまうのだが、ユリアから見れば、彩子との距離が縮まっている事が気に障ったので、そう注意したのであった。
「それじゃあ、始めて下さい」
そして、期末試験当日になり、試験監督の教員の合図で、テストが開始される。
今日は数学からなので、八十点以上じゃないとお仕置きされると、すみれに言われた拓雄はその事も頭からずっと離れず、他の科目以上に緊張しながら、数学のテストの取り組んで言ったのであった。
「ふふふー、拓雄♪」
「な、何でしょう?」
テストが終わり、帰ろうとしていた拓雄にすみれが上機嫌に語りかけると、
「わかってるわよね? テストの出来が悪かったら、どうなるか? 手ごたえはどうだった?」
「はあ……まあまあだったと思いますけど」
「まあまあねえ」
取り敢えず、赤点は絶対にないと思っていたので、そう応えると、すみれも意味深な笑みを浮かべる。
「まあまあってのはどんな感じ? まさか、平均点くらいはいけそうとか、そんな甘えた事を言ってるんじゃないでしょうね?」
「い、いえ……」
実際には、平均点取れるかは微妙な出来だったが、既にすみれは拓雄の答案をざっと見て、八十点以上はないと確信しており、暗にお仕置きだぞと迫っていた。
「じゃあ、残りの科目も頑張って。へへ、結果が楽しみねー」
そう告げた後、すみれは職員室に向かい、何だったんだと呆然としながら、彼女の背中を眺めていた。
「んじゃ、結果発表♪」
「わー、パチパチ」
期末試験が終わり、拓雄は放課後、美術準備室に呼び出され、すみれとユリア、彩子に囲まれながら、数学のテストの結果を公表される。
既に答案は返却されていたが、まさか担当外のユリアと彩子にまで、テストの点数を告げられるとは思わず、拓雄もげんなりしていた。
「拓雄の数学のテストは……八十点に届きませんでした! 残念」
「あーーん、残念だわ、拓雄君。頑張ったのに」
と、無情にも二人の前で告げられ、何故か彩子が嬉しそうに彼の頭を抱いて、撫でていく。
「残念ね。ちなみにどのくらいの出来だったの?」
「詳しい点数は言えないけど、平均よりちょっと上くらいかしら。あんたにしては頑張ったけど、ノルマは達成できなかったわね、くくく」
実際の点数は七十三点であり、惜しい所まで行ったのだが、拓雄にはこれが限界であり、八十点以上は数学が苦手な彼にはハードルが高過ぎた。
「んじゃ、お仕置きの内容を発表するわよ。お仕置きは……夏休み、私たちの旅行の荷物もちをしてもらうわ!」
「は、はい?」
思いもよらぬ事を宣告され、拓雄も目を丸くする。
「実は夏休みに三人で旅行に行く計画立ててるのよねえ。でも、か弱い女三人だけじゃ不安だし、荷物もたくさんあるしで、大変じゃない? だから、拓雄に荷物持ちを命じるわ」
「生徒をプライベートでそんな風にこき使うのは感心しないけど、仕方ないわね」
「そうそう。という訳で、よろしくね」
(ふふ、これを機に拓雄君との仲を一気に進展させちゃうんだから♪)
そんな下心を彩子もそして、他の二人も抱いており、有無を言わされず、三人の旅行に同行させられる事になり、拓雄も頭を抱えていたのであった。
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