特急の消えた在来線 ~続・ホプキンスのサイン
与方藤士朗
すっかり傷んだ元「二等車」
第1話 広島駅の在来線ホーム
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↑ 前話 新幹線サマサマへ ~ホプキンスのサイン
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懇親会を終えた翌8月7日の昼、立命館大学理工学部教授の石村修氏は同行者の経営学部4回生である八木昭夫青年とともに広島駅に向かった。
昨日迄の集中講義の採点は、すでに終えている。
今回は、昨日迄集中講義を受けていた広島大学理学部物理学科3回生の吉田義男青年が岡山まで同行する。集中講義が終わったので神戸の実家に戻るという。
12時過ぎ。彼らは、上りではなく下りホームの立ち食いそばの店に来た。上りホームはどうしても客が多いため、下りホームのほうに行こうということ。
長距離客は、この3月の博多開業でそのほとんどが新幹線に移行している。となると残るは短距離客かさもなければ一部の急がない客や夏休み中に旅をしている若者たちくらいである。とはいえ上り列車には中距離客も見込めるため、どうしてもこの時間の立ち食いそばは混む。それを避けようというわけ。
「ありゃあ。元一等車や、言うのに、かなり汚れてしもたなぁ」
そばの店の横のホームに、元湘南電車80系の列車がやってきた。石村教授は鉄道マニアというわけではないが、周囲の先輩諸氏のおかげである程度鉄道に詳しくなっている。この電車がかつて首都圏から湘南方面への列車として、あるいは関西圏の高速輸送列車として活躍していたことはよく知っている。
「なんか、他の車両よりもちょっと薄暗い気がしますね。確かに汚れがちょっとひどいかなと。どうです、八木さん」
「うーん、吉田君の御指摘ですが、先ほどの石村先生のお言葉と照合すれば、なるほど、前がきれいに整備されていただけに、余計に汚れて見えてしまうというのもあるかもしれません。でも、他の車両に比べて椅子はよさそうですね」
「私が若い頃は準急なんかにも使われていて、当時は3等級でしたから、そのうちの2等車。今でいうグリーン車でした。映画で見たことがあるが、巨人軍の水原監督や川上選手らが乗車して遠征に出向いている様子が紹介されていた。なまじ、あの頃のイメージがあるだけに、ね」
「でも、どうでしょう。鉄道研究会とかそれに類するサークルの人らぁは、こんな車両でも来ようものなら、いやいや、来ることを調べてでも、喜んで飛び乗るところでしょう」
吉田青年の言葉に、石村教授と八木青年が頷く。
「今日は呉回りの快速を乗り継いで岡山入りしてみたい。八木君、吉田君、ほな、上りホームに行きましょう」
立ち食いそばを食した彼らは、跨線橋を上がって北側の上りホームに向った。
12時45分。列車は定刻で岩国からやってきた。
今回は、湘南色のやや新しめの近郊型電車・111系の快速である。
まずはこれで、呉まで行くことに。呉からは、岡山行きの快速が接続している。
この乗継をすれば、岡山着は17時9分。新幹線なら約1時間で行けるところではあるが、急がないならこういう移動、もとい旅も、一興であろう。
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