俺の頭の中身が最強すぎる

そこらへんのおじさん

第0話 プロローグ

ドンとも、ゴンとも、形容できない爆音が車の後部座席に座る俺の両耳をつんざいた。


直後、これまでの9年という短い人生の中で、1度も味わったことのないような強烈な衝撃が俺の身体を襲う。


そして、浮遊感。


窓ガラスの向こうに見える景色へ、大空が、森が、山が、交互にグルグルと入り込んでくる。


もう一度、ドンと大きな衝撃走ったところで、ようやく回転は止まった。あちこちにぶつけて全身が痛む中、逆さになった視界では、森の木々が燃え盛っているのが見える。


運転席にいた父が『逃げるぞ』と叫んだ。


わけもわからないが、炎に囲まれたここから逃げたほうがいいのは間違いない。シートベルトを外そうともたもたしてたら、母と父の手に引かれて這々の体で車から抜け出した。


右手は父、左手は母が掴み、両手をやや痛いくらいの力で引かれながら、真っ暗な山の中を俺たち3人は走りだす。


山の、光源が少しもない本当の暗闇を、不意に一条の光が切り裂いた。


慌てた父が、俺の手を離して、母と俺を庇うように光との間に立ちはだかる。


ごぅん、という轟音。


慌てて母が俺の視界を手で塞ぐ。しかし鼻腔に漂ってくる焦げた臭いに、俺の背中は粟立った。


俺は思わず父の方に手を差し伸べるが、母は俺を無理やり引っ張りながら『そっちに行っちゃダメ!』と叫んだ。


それでも母の手の端からわずかに見える…見えてしまったから、無理やり視線を剥がした。


そして、今度は母の手だけに引かれるように、ただひたすら走り続ける。


しかし、50メートルも走らないうちに、男?女?性別すらわからない人型の何かが、突如、上から降ってきた。


そう降ってきたのだ。


2メートルはありそうな巨大を持つ人型の何かは、俺と母の前に立ちはだかることで、俺たちがこれ以上逃げることを拒んだ。


巨体を持つ何かを前にした俺は、本能的な恐怖を覚えて固まってしまう。だが母は、その人型から俺を庇うように震える手で強く抱き締めてきた。


「お願いします!この子だけはっ!この子だけはどうか助けてください…私はどうなっても構いませんから!」

「悪いな…目撃者は殺すって決まりなんだ…悪い」


その男?女?が手のひらをこちらに向けると、まるで魔法のように、手に大きな炎が浮かぶ。


大きな炎は、その手を離れると走るほどの速度でこちらに飛んでくる。母は炎とは反対側に俺を突き飛ばすと、炎から俺を庇うように手を広げた。


「ひっ、お母さんっ!?」

「そ……き……逃げな…さい」


炎に包まれた母は、それだけ言うと崩れ落ちる。俺は母を助けるために近寄ろうとするが、あまりにも高温の炎に足が震えて前に進まない。


ガサリ。


炎を手から出した人型が一歩、俺に向かって踏み出した。その音だけで俺は驚きの余り、思わず尻もちをついてしまう。


「悪いな。父親のように雷の方が良いか?母親のように炎がいいか?悪いが、今はその2つしか選べないんだ。悪いな」

「ひっ…や…だ…死にたくない…」

「悪いな…ほんとうに悪い…子供でも…容赦は出来ないんだ…悪いな」


限界を超えた死への恐怖にか、俺の意識はそこでプツリと途切れた。

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