大人になりきれなかった夜に

結城灯理

第1話

 生きるとかいうこの世界最大の地獄。


 午前二時半。無敵になる一歩前。怒り狂う二歩手前。

 悔しさと相対して、誰にも愛されていない自分の現実と格闘する時間。

 そのうち浮世離れし始めるだろう。

 自分の現状について誰かのせいにするつもりはない。

 恨みで時間を捨てるのに飽きた。でも、恨めしくてまらない。

 お前のせいだと叫んでも。お前には届かない。知っている。

 踏みにじった方は踏んづけた奴のことなんか覚えていない。

 人間が例えば蟻を気づかず踏んでいるのと同じだ。多くの場合は踏んだ感覚すらない。

 

 結局、腐らず真面目に生きるしかないのだ。僕らは。

 でも、たまに屈辱的な感情が芽生えるのはみんな一緒だと思いたい。

 だから、死にたい。あえて口にする。本当に悲しくてたまらない。寂しい。

 こんな感情、どこにでもある。誰でも書ける。誰にでも言葉にできる。

 改めて言葉にしたところで誰も見向きもしないし、ただただつまらない。

 いつからおかしくなってしまったのだろう。毎日死にたいって考える。呪いだろうか。信じるから救ってほしい。

 煙みたいにそっと消えてしまいたい。もう、疲れた。

 とか、言いながら生きる自分の矛盾が最低でなにも言えなくなる。

 

 帰ってきてほしい。僕の所へ。

 腐った現実も、いがみ合う架空も差し置いて。僕らだけで行間を埋めよう。

 ビタミン炭酸が飲みたいとか言って、深夜の自動販売機でも行こう。

 車のキー差して朝まで走り続けよ。飽きたらそこら辺のコンビニでラーメンでも食べよ。

 明日の仕事とか蹴って、明後日まで一緒にいよ。そして一緒に怒られよう。

 それかリビングのソファでお互いの悲惨な顔見ながら泣こう。生きる意味を繕おう。

 そして、セント・オブ・ウーマンでも見よう。腐った魂に義足はつかないらしいよ。

 最後にお酒でも飲んで、甘美な記憶に包まれながら寝よう。贅沢な惰眠を享受しよう。


 悲しいな。どこにいったの。

 

 腐った現実と、いがみ合う架空を抱いて。僕だけの夜を過ごそう。

 ビタミン炭酸が飲みたいとか戯言で、深夜の自動販売機なんて理性が許さない。

 車のキー差して朝まで走り続けるほど馬鹿じゃない。ラーメンは翌日に響く。

 明日の仕事休んでまで楽しめないよ。怒られるよりクビになるのが先かもな。

 それから、リビングのソファで泣けるほど弱くない。生きる意味は本当に存在しない。

 そして、セント・オブ・ウーマンでも見たら、どれだけ自分の魂が腐ったか分かるだろ。

 最後にお酒でも飲んで、最悪な記憶を吹き飛ばして寝よう。無理な睡眠を享受しよう。


 もう、夜は楽しくないよ。楽しくなくなったよ。聞いてますか。

 

 多分、これが大人になるってことなんだ。いつまでも過去に縋っていられない。自分が特別だと思うのにも挫折した。残念ながら僕らは特別ではない。天才でもない。

 ただ存在している。存在は現実にないといけない。現実だから存在なんだよ。

 じゃないと、自分が走るよりも早く、税金と生活費が走ってる。息を切らして追いついたとき、そこにあるのは徒労感と走り続けなきゃいけないという義務感だ。後、衰えていく体。一度ひいた風邪は中々治らない。

 ねぇ、楽しい夜はどこにいったの。もう、こんな最低の夜が続くなら、僕は死んでも構わない。

とか、言いながら翌朝も変わらず生きている。

 正直に、辛いとも言えない。

 悲しい。生きるのが。


 戻らない時間だけを今日も数えている。

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大人になりきれなかった夜に 結城灯理 @yuki_tori

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