オーストリア異世界記
@Aubrey1216
現世からの失踪
1910年の1月上旬、寒い日のホーフブルク宮殿にオーストリア帝国の重役達が集まった。
彼等は既に話を知っていた。オーストリアは突然外国との連絡を失った事についてだと皆が分かりきっていた。当然彼等にとって大きな話であり、大惨事を招く可能性も孕んでいた。唯でさえ混乱の渦中にあったオーストリアは、遂に瓦解してしまうのか?召集された彼等は皆々焦燥感を隠し切れず恐怖に渦巻かれていた。皇帝フランツヨーゼフは緊迫した雰囲気の中、現状判明している情報の提供を呼び掛けた。すると、海軍軍人のホルティ・ミクローシュが興味深い話をし始めた。
彼によると、アドリア海が人為的に不可能な程大きく拡張されており、イタリア半島に数日間航行しても辿り着けなかったと言うものだった。
集まった人々はとても真実とは思えない話に困惑し、信用しなかった。しかし奇妙な話はそれだけには留まらなかった。チェコやトランシルヴァニアの国境の一部にて存在しない筈の海が広がっていたり、ドイツ諸邦に休暇を過ごそうと行ったら何故か砂漠が広がっていたり、偶々とはとても言い難い事象が報告された。衝撃的な話が様々な人から語られ、またも宮殿は混乱に陥った。
まだ数件しか話を聞けていなかったものの、それでも理解するには時間がかかると判断したヨーゼフは解散をし、自室へと戻った。
ヨーゼフは先月から奇妙な夢を見ていた。自分が異世界に飛ばされて四苦八苦する夢で、彼にとって本当に嫌な夢だった。
「まさか現実では帝国ごと異世界に転移したのか?」
彼の中で嫌な、そして説得力のある話が作られていった。
数日後にはこの奇妙な事象の話が広がっており、各都市では混乱により大暴動が起きた。制圧に当たる際多くの人々の命が失われ、遂には月末までに死体の山が積み上がった。
現世からの失踪は当初の予想通り、未曾有の大惨事へと繋がりつつあった。
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