癒し研究者(自称)の先輩の実験体になる話

むらくも3

report1:助手の勧誘における最も効果的な手法について

(放課後、廊下を歩いている主人公。遠くから声をかけられる。)

★遠・右

「……おい、そこの君。そう、如何にも疲れてますよ〜という顔でとぼとぼ歩いている君だ。…待て。無視しようとするんじゃない。君にとっていい話があるんだ。少し、こっちへ来ると良い。」


(少し待機して、歩いて声のもとに向かう)

★近・中央

「そう、いい子だ。ネクタイの色から察するに、君は1年生だね。私は3年の三澄みすみだ。さぁ、君の名前は?」


「……ふむ、ありがとう。自己紹介は大事だからね。挨拶も済んだところで、本題に入ろうか。」


「私はごく個人的に、癒しについて興味があってね。人はどういった時に癒されるのか、あるいはどういう刺激で癒しを感じるのか、そういった事を調べるのが趣味なんだ。」


「ただ……ネットや文献で調べただけでは分からないことが多くてね。特に実際の反応、癒されると言われているものに対して、資料にはそう書いてあったとしても、実際に試してみないことには確証が持てない。最近は、あまり信用できない文献も増えているし……おっと、すまない。愚痴っぽくなってしまったな。」


「まぁ、自分で試せるものに関しては自分で試しているのが、どうしても一人で試すことが出来ない事もあってね。例えば体重を利用した指圧は誰かに対してでないと出来ないし、何より私以外の意見も聞いてみたい。」


「だから丁度いいモルモット……失礼。実験体、いや、助手を探していたところなんだ。……なんだ、嫌そうな顔をして。」


「落ち着いて考えれば、これは君にとっても悪い話ではないはずだ。君の顔を見ればわかる。目の隈、疲れた表情、肌のハリ……最近あまりよく眠れていないだろう? 疲れが取れてない、酷い状態であることがひと目でわかったよ。」


「そうだな……せっかくだ。少し体験してみるといい。耳をこちらに向けてくれ。」


(衣擦れの音、耳を三澄先輩に近付ける)

★超密着・中央

「……ふーっ……」


(飛び上がって驚く主人公)

★近・中央

「ははっ、身体が飛び上がったな。いい反応だ。」


「今のは別に医学的根拠も何も無い、ただのイタズラだ。悪かったね。でも、先程よりも表情が和らいでいるし、血色も良くなっている。緊張もほぐれただろう? これもまた癒やしの一つだ。」


「さて、本題に戻ろう。私は君で実験をして、研究に役立てることが出来る。君は私の実験の過程で癒しを得て、疲れを取ることが出来る。お互いWin-Winの関係だ。いい話だと思わないかい?」


(三澄先輩が近付き、耳元で囁く)

★超密着・中央

「だから君……私の助手になってくれないか?」


(慌てて肯定し、通常の距離に戻る)

★近・中央

「……よし、契約成立だ。さて、このあと予定はあるかい? 早速やりたい実験があるんだ。」


「……ありがとう。では私の研究室に案内する。付いてきてくれ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る