EX-1 最後までクソなクソ親父

 最悪なことになってしまった。

 忌々しい晴政はるまさを手元に置いたまではよかったものの、どうしてかそれが警察にバレて逮捕されてしまった。

 どうして俺が刑務所こんなところに入れられなければならないのか…。


 朝起きて訳の分からない作業をさせられ、何の楽しみも無くただ寝るだけの日々。

 せめて女くらいは抱きたいものだ。


 食事もそうだ。三食出るものの、今までもっと美味い飯を食ってきた俺には物足りん。

 何もかもが苦痛で退屈な日々、晴政でもここまで辛い目にはあっていないだろう。どうして俺ばかりがこんな目に…。

 あまりの精神的苦痛によって胃がキリキリと痛み、思わず顔をしかめる。


 俺が一体何をしたというのだ…。

 ただ俺は金を払って女を抱いただけだ、それが偶然にも息子の彼女だったというだけで何も悪くないだろう、完全に晴政の八つ当たりだ。


 どいつもこいつも俺を悪者扱いしやがって…腹立たしい。

 晴政のような奴がのうのうと生きているのに、どうして俺のような善良な人間が苦しまなければならない。


 繰り返す自問自答に答えなどなく、ただただ理不尽に耐えている。

 それもこれも全て晴政あいつのせいだ。

 ここから出たら今度こそ殺してやる…大人を舐めたらどうなるか分からせてやらないとな。


 晴政あのクズの目の前でもう一度 莉乃あの女を抱き、格の違いを見せてから惨たらしく殺してやるのだ。


 そう決意してしばらく経ち、相変わらず訳の分からない作業をしている。

 以前から感じていた胃の痛みもそうだが、あまりにも身体がしんどい。

 眩暈が酷く、フラフラとしてしまい上手く動けない。


「おいどうした」


 周りからそう声を掛けられるが、それに応える余裕は無い。 間もなくして俺は意識を失った。


 それから俺が見たのは、椅子に縛られた晴政の姿だ、先程まで刑務所にいたはずだが…まぁ細かいことはどうでもいい。 今度こそ俺はコイツを…


 しかしそれは叶わなかった。

 俺はその事実に気付くことはなく、いつまでもその妄想に囚われながら、二度と目を覚ますことは無かった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 これが栄渡えど 粕斗かずと最後だった。

 楽な道を選び続けたことで、かつて重ねた苦労を忘れストレスに対し虚弱になった人間の末路はあまりにも虚しいものだった。


 自身の罪を振り返ることもなくいつまでも他責思考だった彼に救われる道はなかったのかもしれない…。

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