三十一話 お姉さんと希

 あれから数日経った。


「お疲れ様です、晴政はるまさくん」


「お疲れ様です」


 実はあのお姉さん…鞘本さやもと 花澄はすみさんが俺のバイト先に来たのだ。

 彼女曰く、前のバイト先は既に辞めてしまっていたため、新しい所を紹介して欲しいと言われたのだ。

 正直ウチのバイト先はそこまで人が多くなく、たまに人数不足が起きる時もあるので来てくれるのはありがたい。


 莉乃りのも頑張っているが、花澄さんは多少なりとも経験の差があるようで、莉乃より活躍している。


 ちなみに莉乃はあの事件以降あまり関わって来なくなった。

 あの時は入院費を彼女が払うだなんて言ってきたがさすがに受け取ろうという気にはならず拒否した。


 今はというと、花澄さんと俺が丁度上がりの時間、二人で一緒に帰ることになった。

 俺は既に着替えを終えて外で待っているところだ。


「お待たせしました!」


「いえいえ、行きましょうか」


 花澄さん一緒に帰るために手を繋ぐと、後ろの扉が開いた。


「あっ…」


 出てきたのは莉乃で、手を繋いだ俺たちを見て

顔を歪めたあと、すぐに俯き走っていった。



 元々 花澄さんと仲良くしようとしたのはあのチャラ男の脳を破壊するためであるが、関わっているうちに何だかんだ大分仲良くなってしまった。


 彼女を家に送り届けると、ちょうどヤツが帰ってきたようで、俺たちを見て酷い顔をしていた。

 ざまぁないな。


「それじゃあまた明日ですね、晴政くん」


「えぇ、おやすみなさい花澄さん」


 そう言って彼女に手を振り家に帰る。


 数メートルほど歩くと、後ろから肩を叩かれたので、振り向くとそこにはのぞみがいた。


「あっ、こんばんは」


「こんばんは…じゃないわよ、あの人は誰?」


「あー…」


 そういえば希には話していなかったか…。


 そう思ってチャラ男に復讐するために花澄さんと仲良くなったことについて話した。彼女の名前は伏せたけど。


「あんたエグすぎ…まぁアイツはいい気味だと思うけど。そういえば裏木うらきも同じバイト先だったよね?」


「そうだな」


「あぁ…あんたも大概酷い男ね、まぁ同情はしないけど」


 ある程度の義理ってのもおかしいけど多少のフォローはしたんだ、もう充分優しくしただろ?

 莉乃にはあれだけのことをされたんだし、もうそろそろ俺の好きにさせてもらいたいな。

 ショックを受けてようがそこは知らねぇよ、いちいち抱け抱け言われんのもちょっと疲れたんだ。


「ところで…さっきの人とはどこまで行ったの?」


「……どこまでってか、まだ知り合いってとこだよ」


 ちょっと不穏な空気を発し始めた希。

 俺たちは付き合っているわけじゃないんだから浮気とかじゃないはず…。

 とはいえ希の気持ちにまだ返事もしてないし…あれ、俺ってクソ野郎じゃね?


「ふーん?まぁいいけど…」


「おう」


 その後はもう少しだけ希と話して別れた。



 あれから数日、俺は希に呼び出された。

 今日はバイト休みなので問題ないが、でもなんだろう?


 そう思って集合場所へ行くとまだ彼女は来ていなかったので少し待つ…がすぐに来たので全然待つことは無かった。一分さえ経ってない。


「お待たせ、ごめんね待たせちゃって」


「いや冗談抜きで今来たとこだ」


「そっか…それで今日来てもらったのはね、花澄さんのことなんだけど…」


 !?

 なんで希があの人のことを知ってるんだ!?

 驚きのあまり後ずさると、彼女はしまったとばかりに弁明を始めた。


「あっごめんなさい!実は彩藤さんに聞いて花澄さんのことを聞いたの…驚かせてごめんね」


「そうなのか…心臓に悪すぎるから先に一言欲しかったぞ」


 そういう事なら分かるけど、マぁジで勘弁してほしい。


「その…今日あの人も呼んでて、もうすぐ来るからその時にまた話すね」


「分かった」


 彼女はそう言って俺に抱きついてきた。


「はぁ…私あんたのこと好きなんだけどなぁ…」


「ごめん」


「謝るくらいなら、今日のお願いはちゃんと聞いて欲しいかな」


「うっ、善処するよ…」


 そのまましばらく待っていると花澄さんもやってきて、希に連れられ三人でとある場所にやって来た…。来たんだけどぉ…ここって。


「いや、なんでここに?」


「ごめん、もう我慢できないの」


「本当にやるんですね…嬉しいですけど」


 希も花澄さんも顔を赤くしている。

 その姿はとても妖艶で、目の前にある建物の役割も相まってこちらまで変な気持ちになりそうだ…。


 希のお願いは、俺に抱いて欲しいというものだった。

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