庭付き一戸建て(35年ローン)を買ったら異世界に転移した件
YT
第1話 お家を買いました
夢のマイホーム。
かねてからの夢だった庭付き一戸建てを遂に買い、諸々の手続きがやっと終わって今日は朝から引っ越し作業。
少しでもお金を節約したいから、引っ越し業者には頼らず自分達でアパートから新居へと荷物を運ぶ。
今住んでいるアパートも購入した一戸建ても、同じ市内だから引っ越し作業が一日で終わって良かった。
家族三人分の荷物運びは、もうすぐ40歳になろうかという俺の身体には少々酷だったようで、今は新居の寝室で横になって休んでいる。
部屋にはいくつもの段ボールが積み上げられており、よくもまぁこれだけの量をほぼ一人で運び込んだものだと、自分自身に称賛を送る。
ただ、持病の腰のヘルニアが火を吹いたが。
「だぁーだぁー」
そんな事を考えていると、我が家の赤ちゃん怪獣がよだれという名の聖水を撒き散らしながらお腹の上に乗ってきた。
我が家の赤ちゃん怪獣こと、鈴木一花(すずきいちか)、生後8ヶ月のかわいいきゃわいい愛しの娘だ。
「いっちゃんは今日もかわいいでちゅね~」
「きゃっきゃっ」
火を吹いた腰に鞭を打ち、全力で我が天使をあやす。いや、あやさせてもらう。
(育児のコツとして、こちらがやってやる、ではなく、やらさせてもらう、というスタンスで当たるとストレスが溜まりにくいのでオススメだ)
この子ももう8ヶ月になり、少し前までずりバイだったのがいつの間にやらハイハイを習得、それからというものあっちこっち至るところへ聖水を撒き散らしている。
ゲーム風に言えば
『一花はレベルが上がった!』
『ハイハイを覚えた!』
といったところか、と趣味のゲームになぞらえて娘の成長を感じつつ少し嬉し寂しいパパである。
そうして、身体の悲鳴を無視しつつ我が天使に構ってもらっていると、どこからか母性と慈愛に満ちた声がする。
「あら、いっちゃん。パパと遊んであげてるの? 偉いね~ありがとね~。……ほら、パパもありがとってしなさい」
鈴木花(すずきはな)、妻である。
年齢は俺より10歳下の28歳、肩まで伸ばしたさらさらの髪に、色白な肌、慈愛に満ちた一重の細い目、身長は162cm体重は●●kg(黒く塗りつぶされている)、最近ちょっと下腹のお肉が気になる我が女神である。
「いっちゃぁん、パパとあちょんでくれてありがとね~」
「おぉう、おぉう、きゃっきゃっ」
尊い。なんか一生懸命喋ってくれてて尊い。
子供っていいなぁ。超可愛い。家の子は世界で一番かわいい。
「ふふっ、デレデレじゃないの。さ、いっちゃん、もうねんねしようね~」
自分も正直ここまで娘に骨抜きにされるとは思わなかった。
生まれる前までは、俺なんかが人の親になんてなれるのか、なっていいのかとよく自問して悩んでいた。
俺の親は今で言う所謂毒親ってやつだった。
親とまともに会話をした記憶がない。
父親は昭和の親父のイメージそのもので、仕事人間で家にそもそもいないし、何か会話をすれば言葉よりも先に手が出てくる。
母親は専業主婦だったが、ろくに家事もやらず他に男を作って小学生の時に出ていった。
そんな家庭環境で育ったものだから、家族や家に対して良いイメージはなく。
妻と出会うまで彼女も作らなかったし自分は結婚なぞ絶対にせん!と思っていた。子供なんてもってのほかだった。「幸せな家族が住む家」とか想像すら出来なかった。
ところが、妻に出会い娘が生まれ家を買ってしまうのだから、人生って分からないものである。
ただまぁ一つ言えることは、家族っていいな、てことである。
再び聖水を撒き散らして寝室を浄化してまわって楽しそうにはしゃいでる娘と、それを優しく微笑みながら見守っている妻を見ながら、そんな事を考える。
守りたい、この笑顔。
男、鈴木一(はじめ)。38歳。がんばります。
…とりあえず腰がやばい。明日の仕事大丈夫かな…35年ローン…
そうして、娘を寝かしつけた妻におやすみと軽くキスをし、寝ている娘にもおやすみと言って、体力の限界を迎えたhellがnearな腰を労りつつ、夢のマイホームの一日目を終わらせるのであった。
ずっとこの幸せが続きます様に…。
その日の夜、日本の各地で謎の発光現象が確認された。
それは人や動物、建物など包み込み、光が収まったあとには、なにも残されていなかった 。
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