ばとんたっち

古谷 奏

プロローグ


 この日、JR神戸線はお盆休みがはじまったせいか、どの車両もすいていて、

ロングシートに座っているのは僕たち三人だけ。向かい側にも同じく三人組がいるだけで、車両全体を見回してもがらんとしていた。

 そんな中で楽しそうにはしゃぐ中学生らしき二人の少年を、アルト(有人)は微笑みながらずっと見ていた。「そんなに見たら、失礼だろ」と僕はアルトを冷ややかに見るが、あいつは知らん顔だ。それどころが、「いいからお前も見ろよ」と、僕の視線を誘導してくる。「なんだよ」と思いながらも、アルトの視線の先に焦点を合わせて驚いた。

 僕たちの前に座っている三人組はどこからどうみても10代前半だ。なのに真ん中に座っている黄色のボーダー柄のTシャツに短パン姿の少年の肩に、髪が長くて黒縁眼鏡をかけた女の子がもたれかかってスヤスヤと心地よさそうに眠っているのだ。

「さすがにあれって、恥ずかしくないのか?」

 アルトを見ると、あいつもどうやら同じことを考えているらしい。あの女の子は、彼の妹なのか?姉さんなのか?それにしても、どうしてボーダーTシャツの彼はこんなにも平然と、隣にいるもう一人の友だちと話し続けていられるのだろうか?

 

 「次のさくら夙川で降りるよ」と、イツキ(樹)に言われて、「ああ」と言ったものの、目の前の三人組のことが気になって仕方がない。降りる直前になって、チラリを見ると、長い髪の子がいつの間にか起きていて、きょとんとした表情でこちらを見ていた。

 「男の子だ……」。

 白いシャツに、だぶっと大きめな黒のパンツ。はみ出した手足がひょろりと細長くて、身長もおそらく三人の中では一番高い。明らかにほかの二人とは違ったセンスで、大人びてはいたが、どこからどう見ても、10代前半の男の子だった。


 降りたホームで、アルトが言った。「俺なら、『おい、起きろ!』って言うな」と。

 「僕もあの子なら、『ああ、いつの間にか、寝ちゃってたね。ごめん!』って言うだろうな」。

 「だよな。普通はそうだよな。あいつら……すげえな」と、アルト。

 電車に乗った瞬間、本を読み始めたイツキは、「何の話、してるんだ?」と聞きはしたが、多分、一部始終見ていたとしても、僕たちほど興味を持たなかっただろう。

イツキもあっちタイプの人間だから。

 

 「あ~あ。青春、バトンタッチだな」と、アルト。その表情が晴れ晴れとしていて、また違う何かが始まる予感がした。

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