その名の持ち主





 本来であれば、違う日に違う年に別々に存在するはずだったが、同じ日に同時この世に生を受けた。別れるはずが、同じく存在した理由に縋りたい。

 なぜなら、人生の節目はいつだって一緒に乗り越えたから。

 

 両親の死。

 新たな家族、しかし別れ。


 そして、新たな名前と存在意義。




 国際的な諜報機関のある一室、若い男女は並んで立っていた。数々の訓練を終え、脱落してゆく同期たちに背を押され、最終試験を突破し残った訓練生は彼ら二人だけになっていた。

 向かいに立つアメリカ支部の支部長は二人に、ようこそ、と声をかける。

「……二人のような人材を待っていた。訓練の過程も見させてもらったが、実に素晴らしい身体能力だ。あの過酷な試験も突破できたとあれば、是非とも2人に就いてもらいたいポジションがあってね」

 そして支部長は、このポジション就くのであれば、今までの過去とは別れを告げなければならない、という。そして告げたが最後、二度と帰ることは許されない。

「……前任たちに稀に見る出来事が生じて、しばらく席が空いてしまっていてね。それもようやく埋まるというわけだ。1秒でも長く、その席に座り続けてもらいたい」

 この提案に頷くということは、お互いが家族であり兄妹であり双子であるという証明ができなくなる。それでも二人は頷いた。

 お互いが同時に存在した事実はお互いの中で消えはしない。


 それよりも、二人の最愛の兄が生きるこの世界の平穏を守りたかった。幼い頃、自分たちを守ってくれたあの人を、今度は自らの手で。



「……改めてアメリカ支部へようこそ。トマス・スミス、サマンサ・テイラー」

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