第十九話 謎の娘⑤

「………!?」


 心之介は慌てて追いかけて、腰まで水につかりながらもおとみを川辺に連れ戻した。


「どうして………どうして邪魔するのよ! 私もおきよの元に連れていって!」


 おとみはついに泣き崩れた。


「………」


 心之介は泣き続けるおとみを見守り続けた。


 ◇ ◇ ◇


 おとみがようやく眠りにつくと、心之介はそっと立ち上がった。


 あのあと、生きる気力を失ったように放心状態になってしまったおとみから長屋の場所を聞き、背負って連れてきたのだった。


 おとみの顔は蝋燭のように生気がなかった。


 心之介はその寝顔を見ながらやり切れない気持ちになった。


 おきよのことについて聞いたからだ。


 おとみの娘、おきよは、溺れていた子どもを救おうとして川に飛び込んだ。


 が、子どもは助かったが、おきよは流されて亡くなってしまったという。


 泣き疲れて眠りに落ちる前に、つぶやくようにおとみが話してくれたことを心之介は思い返した。


 助かる命と助からない命。


 それを隔てている境界は厳格なものだったが、だからこそ救える命は救いたいと思わずにはいられなかった。


 心之介はおとみのかんざしをそっと抜き取ると立ち上がり、部屋を出て行った。

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