うぐいす村診療所

南戸 宇一郎

序章

影法師①

 ズッ!


 ほの青く光る秘剣「ヒスイ」の刃が一筋の弧を描いて袈裟に振り下ろされると、一体目の影法師かげぼうしは真っ二つに斬り裂かれて消えた。


 左………!


 ヒスイを持つ男、楠木心之介くすのき しんのすけは、すばやく右足を踏み込むや、今度は左側から回り込んでくる二体目を斬り上げた。


 黒い霧の中から出てくる刀を持った黒装束の者たち。


 だから心之介は影法師と呼んでいたが、本当の名前は分からなかった。


 右………!


 さらに、心之介が体を後ろにひねりながらヒスイを水平に走らせると、ほの青い刃が三体目を斬り消した。


 だが、その隙にも、影法師が何体も出てきて心之介に迫った。


 月光の遮られた通りは薄暗かった。


 その奥のほうは漆黒の闇であり、底なしの虚無だった。


 心之介は建物の壁を背にしつつ、影法師の攻撃を防ぎながら逃げ道を探した。


 あそこに駆け込むしかない………!


 右側の十歩ほど先、長屋の間に横道があるのを見つけた心之介は、迷うことなく駆け込んだ。


 影法師たちも、すぐにあとを追いかけてくる。


 心之介は必死で駆けながら、横道の出口、ちょうど表通りとぶつかる場所に堀があるのを見た。


 水面にはおぼろな月が映っていた。


 この道を抜ければ………!


 そう思いながら、心之介は月明かりを目指して一気に駆けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る